実家からの追放
「ライド・ラグエード様の職業は……は、『墓守』です……」
司祭が告げた言葉に、礼拝堂が静まり返った。
今は神様から『職業』を授かる『洗礼式』の真っ最中である。
洗礼式とは、十五歳になった少年・少女を集めて、礼拝堂で神様に職業を与えていただく神聖な儀式だ。
「あの……墓守とは、どんな職業なのでしょうか?」
「分かりません。初めて見る職業ですが――ああ、神托書の記載によると、墓場を守る職であると」
「……はい」
結局、その使い道は分からない。
僕は戸惑っていた。
それというのも、僕の実家であるラグエード家は、魔導師の名門。
『ラグエードの先祖は、伝説の勇者のパーティーで、魔法使いを担当していたのだ』
これが父上の誇りであり、いつも僕に自慢気に話していた。
父上は長男である僕を魔道師にするつもりでいた。
この『墓守』という職業を見て、どう思うだろうか。
もちろん、なれないわけではない。
この国には、職業選択の自由があり、誰でも好きな職に付くことが許されている。
しかし、実際にはほとんどの者が、神様に選んでもらった職業を選ぶことになる。
理由は単純。
そっちの方が、遥かに楽だからだ。
例えば、『商人』なら、そのまま商人になれば、大した苦労をしないだろう。
だが、『商人』が剣士になろうとすれば、並々ならぬ努力が必要になる。
しかも、そこまでしてもようやく並の剣士に届くだけ。
もしも、一流になるなら、そこから更に血の滲むような努力が要るだろう。
いったい、墓守の僕は、どれほどの鍛錬を積めばいいのだろう……。
「ラグエード家の長男が授かった職業は墓守だってよ?」
「なんだぞりゃ? 墓って、どこの墓を守るんだ?」
「やっちまったな。久々に見るが――外れ職業だ」
ざわざわと声が広がっていく。
約三百年間、数々の名のある魔導師を輩出してきたラグエード家。
その次期領主となるはずの長男が、よりにもよって外れ職業に選ばれたという衝撃は、瞬く間に礼拝堂に広がっていく。
僕は居たたまれなくなった。
神父に礼をすると、急いで歩いて教会を出ていく。
入口の近くに、父上が立っていた。
「父上。見に来られていたのですね」
「当然だ。おまえたちの将来を決める大事な儀式だろう」
僕は父上の顔をまっすぐ見ることができなかった。
「僕の洗礼式は見ていました?」
「見ていた」
短く答えたあと、僕に要求した。
「スキルを見せてみなさい」
「スキル……ですか?」
「そうだ。良いスキルはないのか」
職業を手に入れると、大抵の場合はスキルを手に入れている。
初期スキルと呼ばれるもので、剣士なら剣術、商人なら算術というのが一般的。
僕は、カードを取り出した。黒い厚紙で、両面には何も書かれていない。
このカードに念じると、自分のスキルが浮かび上がってくるのだが。
「どうした? 早くやれ」
「いえ。やっているのですが」
しばらくやっていると、ようやく文字が現れた。
『NO SKILL』
ノースキル。つまり、スキルがないということだ。
かなり珍しい表記だが、稀にこういう人はいる。
しかし、まさか自分がこの言葉を見ることになるとは思ってもいなかった。
「…………」
父上の手は震えていた。
本当は楽しみにしていたはずだ。
それなのに、僕はその期待に応えることができなかった。
「父上。聞いてください。カードには、これから取得するスキルも表示できるのです。それを見てもらえれば……」
そう弁解していると、教会の中から声がした。
「ハリト・ラグエード様の職業は……おおっ! 『極・魔導師』です」
神父が興奮したように叫んだ。
それも無理はない。
世界でも数えるほどしかいないと言われる『極・職業』持ちが目の前に現れたのだから。
この『極』という文字が付いてるだけで、成長ボーナスが三倍になる。
同じ努力をしても、他人の三倍早く成長できると考えれば、その凄さが分かってもらえるだろう。
「素晴らしい! ハリト! おまえは私の自慢の息子だ!」
父上がハリトの元へと駆け寄り、満面の笑みでハリトを抱きしめる。
外れ職業を授かった僕のことなんて、もうどうでもいいようだった。
*
「外れ職業だと! ラグエード家の名に泥を塗りおって! すぐに出ていけ!」
家に帰るなり、父上は僕にそう言い渡した。
「その通りだ! 俺がこの家を継ぐ! おまえみたいな役立たずは必要ねえんだよ!」
さらには弟のハリトまで、愉快そうにそんなことを言った。
もう僕の味方は誰もいない。
今まで仲が良かった使用人たちも、次期領主である弟の味方をするようだ。
「これまで、お世話になりました」
こうして、僕は実家から追放されたのだった。




