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ジェックスとカレンが出ていき、部屋に残ったのはレオルドとバルバロトとイザベルの三人だけ。レオルドは、ひとまずギルバートが情報を持ち帰ってくるまで待機することを選択したが、やはり性分ではなかったのだろう。
すぐに、二人を引き連れて街へ出向く準備を始める。準備を終えたレオルドは、別の部屋にいるシルヴィアの元へ向かい、街へ出かけることを伝えた。すると、シルヴィアも一緒に行くことになり、レオルドはしばらく待たされることになった。
「では、行きましょうか。レオルド様」
部屋から出てきたシルヴィアはラフな格好に着替えており、上機嫌に笑っている。レオルドは、聖都で起こるであろう大惨事に気を取られすぎて忘れているが、今回二人は婚約祝いで呼ばれているのだ。ならば、少々面倒事はあるがシルヴィアにとってはレオルドと旅行に出かけられる絶好の機会なのだ。機嫌がいいのも当然だろう。
(あー、そうか。ここ最近、ずっと張り詰めていたから忘れてたけど、本来は婚約祝いで呼ばれてたんだったな。シルヴィアにも伝えるか? いや、でも、こんなにも楽しそうにしているシルヴィアに、これから聖都で大惨事が起こりますなんて言えないな……。出来れば、先に潰しておきたかったが、これが慢心した結果か)
ほぼ運命48と同じように歴史を歩んでいたせいで、レオルドは自身が聖教国に行くことはないと決めつけていた。そのせいで、今のような状況に陥り、対策が遅れてしまった。まだ、確定事項ではないが、集めた情報からみて、教皇は既に儀式の最終段階に入っているだろう。
これで、もし、レオルドが事前に対策を講じ、教皇の計画を阻止していれば、レオルドが苦労することはなかった。しかし、今更そのようなことを考えても遅いので、レオルドは後悔に苛まれるのだった。
「どうかされましたか、レオルド様?」
レオルドは知らず識らずの内に感情が顔に出ていたのか、シルヴィアが心配そうに覗き込んでくる。思わず、レオルドは顔を隠したが、もう遅い。シルヴィアは、レオルドの只ならぬ様子に真剣な表情で、一歩踏み込んだ。
「レオルド様。何を隠しておられるのですか?」
「何も隠してはいませんよ、殿下。さあ、街へ散歩しに行きませんか?」
「レオルド様は嘘をつくのがお上手ではないですね。流石に騙されませんわ。レオルド様、一体何を隠しているのか教えて頂けませんか?」
「…………」
やはり、先程の顔に出してしまったのが不味かった。レオルドは誤魔化すことも出来ず、沈黙するのだったが、シルヴィアの有無を言わせない瞳を見て、観念したようで話すことを決めた。
「わかりました。殿下、詳しい話は中でしましょう。防音結界を張りますから」
「わかりましたわ。では、一度部屋の中へ戻りましょう」
そう言われてレオルドは、シルヴィアの部屋へ入る。全員が部屋の中へ入ると、レオルドは防音結界を張り、外に音が漏れないようにした。
「これで、外へ話し声は聞こえません」
「それでは、レオルド様。詳しい話をお聞かせ願えますか?」
「ええ。私が知っていることをお話しましょう」
レオルドは、運命48については伏せて、聖教国で得た情報と聖教国で起こるであろう大惨事についてを話した。
当然、レオルドの話は突拍子もない話なので全員が驚いたのだが、すぐにバルバロトとイザベル、そして、シルヴィアの三人は信じた。
「なるほど。そのような事が……」
「信じてくださるのですか?」
「驚きはしましたが、レオルド様の事ですもの。信じる他ありませんわ。もっとも、一昔前のレオルド様なら鼻で笑っていましたが」
そう言って、お茶目に笑うシルヴィアを見て、レオルドは言葉を失った。いくら、信頼を取り戻したといっても、なんの確証もない、ただの推測に過ぎない話を信じてくれたことに、レオルドは感謝の気持ちで胸が一杯だった。
「これでレオルド様が憂いていた理由がわかりましたわ。では、これから、対策を練らねばなりませんわね」
「そうなのですが、ほぼ手詰まりでどうすることも出来ません。それに、証拠もないので教皇を断罪する事も出来ませんよ」
「そうですわね。ここは聖女を利用するのは如何でしょうか?」
「それはどのように?」
「民衆を扇動するのです。少なくとも孤児院の職員は、疑問に思っているはずです。里子に出した子達の行方が分からない事に。ですから、そこを聖女に調査をしてもらい、民衆を扇動するように動けば……」
「ああ、教皇も焦るわけですね。しかし、そう上手くいきますかね?」
「聖女アナスタシアは多くの信者を救った実績を持ちますから、彼女が民衆を煽ればいけると思いますわ。そこに私も協力すれば、真実かどうかはともかく民衆は信じると思っていいでしょう」
「殿下は他国の王女ですから、流石に聖女ほどではないのでは?」
「あら、お忘れですか? 私は、聖女候補になっていることを」
「あ、そういえばそうですね。なら、いけるのか?」
「少々、弱いですが、そこは実績を語って補いますわ。だって、私、神聖結界で王都を守り続けたという自他共に認める実績がありますから」
そうドヤ顔で胸を張るシルヴィアに、レオルドは感心するのであった。





