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準備を終えたレオルドは、ひとまずジェックスとカレンの帰還を待った。二人は、聖教国に先行して内部の情報を集めている餓狼部隊からの情報を受け取る為に、街へ出ている。
二人が帰還すれば、レオルドは有益な情報を得られると踏んでいる。そうすれば、どのような方向で物事を進めていけばいいのかを決める事が出来るのだ。
(出来れば、何事もない方がいいんだけどな……)
レオルドの不安は的中することになる。
帰還を待っていたレオルドの下へ、二人が戻ってくる。あまり時間は掛からなかったが、二人の表情を見て、レオルドは嫌な予感が頭を過ぎる。
「大将、戻ったぜ」
「ご苦労。早速、成果の方を聞かせてもらおうか」
「ああ。まずは——」
レオルドは、餓狼部隊へとにかく気になる噂や情報を調べるように命令を出していた。ジェックスは、先行して聖教国に潜り込んでいた部下から、聞いた情報を、そのままレオルドへ伝えた。
「そうか……。わかった。ジェックス、これで部下達を労ってやれ」
一通りの情報をジェックスから聞いたレオルドは、金をジェックスに渡した。金を受け取ったジェックスは、部屋の外へ出て行くと、すぐに戻ってきた。どうやら、外に部下を待機させていたようだ。
「で、お望みの情報はあったのかい、大将?」
「ああ、もちろんだ。大収穫と言えよう」
「へえ~。そいつは良かったぜ」
笑っているジェックスに対して、レオルドの方は内心、かなり焦っていた。
(くそ~! 聖女アナスタシアの帰還。その同行者にジーク一行。さらに、行方不明の子供達。加えて、新たな聖女候補と思わしき人物。もう、邪神復活の儀式終わりかけじゃねえか!)
予想を遥かに上回る情報にレオルドは眩暈がした。確かに、運命48で起こった出来事は全て起こるものだと仮定して、レオルドは準備を行っていたが、まさかほぼ全て起こるとは、思いもしなかっただろう。予想以上の情報量にレオルドはかなり焦っている。
(シルヴィアを呼んだのは、邪神復活に必要な聖なる魂の為だろうが……。まさか、予備の予備まで用意してるとは、恐れ入ったぜ)
レオルドが知っている邪神復活の儀式に必要なものは、無垢なる魂、聖なる魂だ。無垢なる魂は子供で、教皇は聖都にある孤児院から、手下を使って子供を集めてたのだ。
そして、聖なる魂。これは聖女、教皇といった者だ。だから、教皇は聖女を邪神復活の為の供物にしようとしたが、運命48ではジークによって阻止されてしまい、邪神の残滓が教皇の身体を乗っ取って復活したのだ。
(しかし、新たな聖女候補か。もし、俺の予想している奴なら、アストレアだな。彼女は歌で人を癒す事ができる。それに、アナスタシアと名前が似てるせいもあって、余計にだ。だが、本来彼女は偽聖女というサブイベントのキャラだ。だから、聖女候補ではないはずだが、恐らく教皇が予備として使えると踏んだんだろうな)
新たな聖女候補はレオルドが知っている限り存在しないのだが、運命48のサブイベントで登場する偽聖女が存在する。偽聖女の名前はアストレアで、彼女のスキルは歌で人を癒す事。それに加えて、本物の聖女であるアナスタシアと名前が似ているので聖女と間違われるのだ。
それもあってか、サブイベントの名前が偽聖女となっている。実際には、ただの勘違いである。しかし、そのせいでジークフリート達とアストレアの信者達が戦うことになるのだ。つまり、アストレアは何も悪くない可哀想なキャラである。
(はあ~~~。くそ、考える事が多すぎる。一旦、大聖堂に潜入しているギルが帰ってくるまで待つか? いや、それだと遅くなる。どうにかして、先手を打ちたいが……、ダメだな。俺がもっと早く手を打っていればよかったんだ)
後悔するレオルドだが、匙を投げたわけではない。まだ、できることはあると、レオルドは考えてジェックスとカレンに新たな任務を与えた。
「ジェックス、カレン。すまないが、新たな聖女候補とやらを確かめてきてくれ。それから、もし、接触可能なら俺の下へ連れて来て欲しい」
「おいおい、大将。お姫様がいるのに、他の女を連れ込む気かい?」
そう言って、口角を吊り上げるジェックスだが、レオルドの目を見て認識を改める。
「悪い、今のは忘れてくれ。大将の言うとおり、聖女候補とやらを連れてくればいいんだな?」
「ああ。だが、無理はしなくていい。聖騎士に守られているようであれば、撤退しろ。絶対にだぞ? 一人になった所を狙おうなどと考えるなよ?」
「わかってるって。そんなに言わなくても、無茶だけはしねえよ」
「カレン。ジェックスを頼んだぞ」
「任せてください! ジェックスがレオルド様の言いつけを破ろうとしたら、私が止めますから!」
「うむ。よろしくな」
「ちょっと、それ酷くねえか!? 俺のこと、もっと信用してくれって!」
大袈裟に手を振ってジェックスは、自らの潔白さをアピールする。それを見た四人が、鼻で笑い、ジェックスが頭を抱えてた。
「マジかよ~~~。ちょっと、凹むわ」
「はははっ、冗談だ。お前には、いつも助けられている。だから、今回も信じているさ」
「た、大将……!」
「ただ、まあ、念には念をという事でな」
「今、結構感動してたのに!」
そんなやり取りを見ていた、カレン、バルバロト、イザベルの三人が笑う。レオルドは崩れ落ちたジェックスを手で引っ張り上げて、肩を叩いた。
「じゃあ、任せたぞ」
「ああ! 行ってくるぜ、大将!」
レオルドの期待に応えるためにジェックスは気合を入れる。カレンを引き連れて、ジェックスは新たな聖女候補の確認へと向かったのだった。





