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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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嵐 4

 雨音以外に大きな雷の音が腹の底まで響き渡り、それが俺の意識を半覚醒状態まで目覚めさせる。

 何とか意識を目覚めさせようとベットの中でもがいてみるが、俺の意識は完全に覚醒してくれず、眠たい思いが俺の意識の覚醒を決して許してくれない。

 ゆっくりと目だけを布団から離し、目覚まし時計の針を確認してみると時刻はまだ朝の七時だという事が良く分かった。


 これならまだあと二時間は眠れる。


 そんな思いが俺の意識を完全に眠りへと誘い、暖かい布団の優しい温もりに身をゆだねようとしているさなかの出来事。


「嵐がすごすぎて眠れない!もう!」


 奈美の大きな声が俺の意識を再び中途半端な覚醒へと誘った。

 俺からすれば奈美の方が大きな声であるはずだが、俺の意識は再び中途半端な覚醒になってしまい、そのせいもあって再び強烈な眠気が襲い掛かってくる。


 このまま眠りに身をゆだねてしまえという意識が芽生え始め、俺の意識が闇の中へと一直線かと思ったその時、再び大きなレクターの声が俺の意識を覚醒させた。


「奈美の声が大きいわ!」

「お前の声の方が更に大きいわ!!」


 俺が勢いよくドアを開き、その大きな音が廊下中に響き渡り下の階へと繋がる階段からエリーの声が聞えてきた。


「朝ご飯で来たわよ。起きたなら食べに来なさいよ」

「「はぁい!」」

「聞けよ俺の話!!」


 不満を爆発さえながらも俺の声は結局彼らの下には届かなかった。



 この家に道場でもあれば今日一日訓練に時間を費やすのだが、仕方がないので自室で本でも読むかと一瞬考えてみた。

 やる事の無い一日になりそうだと正直ため息を吐き出しながら朝食後に自室に戻っていく。


 ロビーから見える窓の外では物凄い雨風と時折落ちる雷。


「大学が心配か?」

「父さん。まああの現状じゃあな………それに大学は半壊しているわけだし」

「生き物や植物、コンテナなんかは既に積み込んで飛空艇でアクア・レインに運び込んである。地下倉庫に全部積み込んである」

「地下倉庫?この嵐だよ……上に運び込んだ方が良いんじゃない?心酔しない?」

「地下倉庫なんて言っても基本は水に浸かっても大丈夫なようにコンテナは特別性だ。それに本島に大丈夫な奴は水が入らない場所に入れてある」


 ならいいんだけど。

 そう呟いてからもう一度窓から見える景色をジッと見つめるが、かすかに大学が見えるだけだった。


「ソラ。少しあの大学について話そう。お前にはそれを知る権利があるだろう」

「?それは今ここでって事?それとも父さんのゴミ部屋に行けって事?」


 後者ならきっちりお断りしますが?


「お前の部屋が良いならそっちでもいいが?あと父親の部屋をゴミ部屋とたとえるな」

「ならシッカリ部屋の掃除をしてよ。初めて家に着いた時、家中を掃除するのに二日かかったからね」


 しっかり忠告しておき、俺と父さんは二人で俺の部屋へと案内したはずだった。

 そうだったなのだ。

 何故かレクターとジュリが付いて来てしまったが、まあこの二人は事件の当事者だからいいとして、どうせ興味も無い癖にエアロードとシャドウバイヤが付いてきた。

 シャインフレアは最初っから話を聞く気が無いようで、母さんの手伝いをしに一階に残った。


「さて………お前達のあの大学が海洋同盟が外に作った大学だという事は聞いたか?」

「それっぽい話を聞いた気がするけど?」

「本来問題が起きる度にあの国は鎖国をし、問題が解消すれば開国を繰り返してきた国がどうしてガイノス帝国内に拠点を設けていたんだと思う?それはあの国にとってガイノス帝国が決して無視できないほどに大きな国だからだ」


 ジュリが少しだけ考え込むそぶりを見せている。


「でも、それだけで大学を建てようとします?」

「ジュリは勘がいいな。そう、この話には裏話がある。どんだけ国土が豊かでも貿易をしないと国が潤わない時もある。そういう場所としての大学なんだ」

「それならあの大学にあった港というのは?」

「その通りだ。あそこから様々な物資がこの国を伝って多くの国に運ばれた。そして、軍関係者は其処こそがバルが国内に輸出された場所なのではないかと睨んでいる」


 バルの出所はジェノバ博士によって明かされたという話は昨日の夜のうちに聞いた。


「しかし、国の上層部は更に切り込んだところまで読み込んだ。あの大学はそれ以上に大切な拠点だったのではないかとな。外との連絡用以外に使われる大学の隠された使い方。それは資料の管理」

「でも本国で起きていた問題を外の国で管理するなんて………危険じゃありませんか?私ならしませんよ」

「そうだなジュリ。しかし、それが国内で起きた問題で、その問題が国民にばれるとマズイ案件ならどうだ?」

「それなら始末すればいいだけの話だ。別に管理しておくことじゃない」

「いや、情報というのは時に危険な情報程ある程度は管理しておく必要があるものだ。それこそ国内で起きた問題の資料なんかは最低限管理されるべき事だ。勿論それが明るみに出されるのは避けるべきだ。だからこそあの外相はやって来た。資料の始末」

「それがあの外相がこの場所にやって来た理由………か。辻褄は合っているわけだ。でも分からない。あんな問題だらけの人間を寄越すぐらいならもっと真っ当な人間がいたんじゃないか?」

「ソラ。真っ当じゃないから、その真っ当じゃない人間を狙っている奴がいるからこそ送り込んだんだろう。ついでに殺せるからな。そして、殺してくれるなら国内で本格的な反乱分子の掃討という名目が立つ」


 要するに向こうのトップの考え方だと反乱分子達の掃討の名目を得るためと、面倒な人間を排除し、且つガイノス帝国に救援を頼みやすい口実づくりってわけだ。


「そして、今回海洋同盟がソラを呼び寄せた理由はお前に反乱分子である『烈火の英雄』を始末してもらう為、まあその後にどうやってお前を国から排除するのかは想像もしたくないが………」


 父さんが俯くのも分からないでもない。

 俺も同じ気持ちだし、ジュリやレクターだって嫌な想像の一つや二つしてしまう。


「おそらく海洋同盟はガイノス帝国が英雄を保有しているという事実を認めたくないのだろう。積極的に情報交換を得ようとする動きが各国から出てきている。はっきり言おう。ソラ、ガイノス帝国はお前が向こうに行くことを嫌がっている。お前を向こう側の思惑の中に入れたくないそうだ。それは父親としても同じことだ」


 父さんの心配する意味も分かるし、それ自体も嬉しいと思う。

 しかし、海洋同盟の地にて俺が烈火の英雄とぶつかるという予言は既に出ている。

 という事は遅かれ少なかれ俺は海洋同盟の地に行く理由があるという事にもなるし、それに俺はドラファルト島の真実を知ってしまった身だ。


「父さん。俺はどんな事を言われても海洋同盟の地には行く。聖竜は告げたんだ。俺の心のままに進めと。俺の心は烈火の英雄やドラファルト島の真実を知り、その上で結論を出したがっている。まだ救うなんて言葉では表せないけれど……」


 この気持ちを俺は簡単には現すことが出来そうにない。

 しかし、それでもそれを口にするのなら………。


「俺は『皆』と海洋同盟に立ち向かいたいんだ。人の意思を知り、人々が海洋同盟をどうしたいのかを知ったうえで俺は結論を出したい。俺は……星屑の英雄はいつだってそうやって来たはずだから」


 俺は一人でやって来たわけじゃない。

 多くの支えがあったからこそ戦う事も、選ぶことだってできたはずなんだ。


 背負う事の難しさ、解決する事の複雑さ、決して単純じゃない結論と矛盾に満ちた世界のルール、理不尽で不条理な世界だからこそ俺は『人の意思』という奴を大事にしたい。

 かつて『三十九人』が『死』という結論の先に『世界の平和』という難しい解決を見付けたように、それを俺に託してくれたように、俺はこれからだって変わらない。


「変わりたくないんだ。ここで逃げれば俺は幸せになれるかもしれない。俺が知らないふりをすればガイノス帝国は幸せになれるのかもしれない。でも、国を変えたい、国に尽くしたい、国を愛したいという気持ちは国民が持っていて当たり前の感情のはずだろ?もし、その海洋同盟にそう思うだけの想いがあるのなら。俺は戦うよ。『皆』と一緒に!」


 それが星屑の英雄なんだから。


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