第30話 一緒に考えましょう
全てを思い出した僕は悲しげに微笑むアリエルを思い浮かべてしまう。
僕が生死不明と聞いた彼女をどれだけ悲しがらせてしまったのだろうか。
更にヴァレンタイン公爵のウルスラ王国からの離叛と言う一大事に彼女の側に居てあげられなかった事が悔やまれる。
「ねぇ、本当に大丈夫なの? ちゃんと全部私に話してよ。 全部受け止めてあげるから、問題があるなら打開策だって一緒考えればいいじゃないの。 私達はそう仲の筈だもの…… ね?」
起きてからずっと心配そうに僕に寄り添ってくれていたミレルが口を開く。
その優しげな顔を向けられた僕は全てを彼女に話す決意をする。
「ミレル…… これから僕が話す事を黙って聞いて欲しい。 聞いた後の判断は貴女に任せます」
「うん、話して頂戴」
真っ直ぐ僕を見つめるミレルに迷いは感じられなかった。
「事の始まりは騎士に憧れる僕が王都グリムへとやって来て王国騎士団と、女性のみで編成される百合騎士団の入団試験を間違えて受けた事になります。 流石に試験の途中で僕も気付いたんだけど同じ平民のミオと言う少女に、平民出身者が自分だけじゃなくて良かったと言われて間違えて受けただなんて言い出せなくて…… そのまま女の子のフリをし続けた結果、見事従騎士として採用されたんです」
黙って聞いていたミレルがプッっと吹き出して申し訳なさそうな顔を僕に向ける。
「ごめんなさい、続けて」
謝ってる割には相変わらず笑いを堪えているのが見て分かるんですけど。
「暫くの間は上手くそのまま隠し続けていたんだけど、ある日アリエルって少女に僕の正体がバレてしまったんです。 彼女に全てを話して百合騎士団を出て行こうとする僕を自分が黙っていればいいと彼女は引き留めてくれました。 それが縁で僕達は恋人同士になり…… 将来を誓い合う仲にまでなったんです」
チラッとミレルさんを見ると複雑そうな表情で僕を見ていた。
そりゃあ、当然だよね。
「そんなある日、アクバル帝国がウルスラ王国に突如攻め込んで来たんです。 当然ながら僕達百合騎士団も出陣しました。 そして僕が提案した食料基地への潜入作戦が上層部に認められた事から自分自身で志願して作戦に参加して…… 爆発火災に巻き込まれた後の事はミレルさんも知っての通りになります」
時折り頷きながら僕の話を聞いていたミレルさんが話が終わった僕を優しく抱き締めてくれた。
「そっか…… 色々と大変だったのね。 マオは敵になってしまったアリエルさんの事が気掛かりなのでしょう? 将来を誓い合った仲なら尚更だわ。 でもね…… 私はマオを愛しているわ。 だから君を譲る事は出来ないの。 今のマオにとってもそれは同じ筈よね? だから一緒に考えましょうよ。 この先どうすればいいのかを」
ミレルが居てくれて良かった…… 貴女に出会えて本当に良かった。
「ミレル…… ありがとう……」
僕は彼女の優しさに我慢出来ずに泣き出してしまう。
まるで子供のように…… そんな僕をミレルは黙ったまま優しく抱き締め続けてくれるのだった。
「アリエル様、ドロシーからの連絡が届きました。 これをどうぞ」
ヴァレンタイン公国の公女となったアリエル・ヴァレンタイン。
そのアリエルは相変わらず窓辺に立ち、マオがいるであろう遠く離れたハイランド王国がある方向を眺めていた。
先程こちらへと飛んで来た白い鳩はドロシーからの繋ぎだったのだと思い浮かぶ。
連絡があったのならマオを無事に見つける事が出来た筈だろう。
「ありがとう、下がりなさい」
片膝を床に落としている配下の者から小さな手紙を受け取るとギュッと軽く握り締める。
「ハッ! ご命令の通り……」
配下の者が部屋から出て行くのを見届けたアリエルは、皺々になってしまった小さな手紙を読み始めた。
そこにはハイランド王国の王都カラミティでマオを見つける事が出来た事と、マオが自分以外の婚約者と一緒にいる事が記されていた。
そして自分の居るヴァレンタイン公国では無く、あくまでもウルスラ王国百合騎士団への帰還を目指していると言うのだ。
「マオ…… これは一体どう言う事ですの? 私には到底信じられませんわ!」
その内容を理解出来ないアリエルは何度も読み返してみたが、それが真実なのだと諦めにも似た思いに至る。
「マオは将来を誓い合った筈の…… この私を裏切ったのですか? こんなにも貴方の事をお慕いする私の気持ちを…… だったら許せない!」
怒りに震えるアリエルの事など想像も出来なかった僕は、彼女がこの時に印象的だった金色の縦ロールの髪を腰の剣で斬り落としていたなんて知りもしなかった。
それは僕との決別を意味していたんだ。




