#029「琵琶湖畔」
舞台は、朝丘家。
登場人物は、朝丘、渡部の二人。
「誰? お母さん? もう帰って来たの?」
「失礼します。具合は、いかがですか?」
「なっ、何で来たんだ、渡部。心配ないから来るなと言っただろうが」
「鼻声で、ただの夏バテだからと言われて、安心すると思いましたか?」
「電話に出たのが、逆効果だったか」
「無理が祟って、体調を崩してしまったようですね。人混みに連れて行ってしまいましたし、慣れないこともさせてしまいましたからねぇ。ごめんなさい」
「謝るな。渡部が罪悪感を感じる必要はない。誘いに乗った自分が悪い」
「額に汗をかいてますけど、小まめに水分補給はしていますか?」
「水なら、今朝、起きてすぐに飲んだ」
「電解質飲料も摂らないと駄目ですよ。あとで、スポーツ・ドリンクを買ってきますね。それから、服は着替えたほうが良いですね。はい、バンザイしてください」
「子供か、病人みたいな扱いをするな。ご丁寧に、果物籠や花束まで持ってきて」
「お見舞いの定番ですよ。それに、ビタミン・シーは免疫力を高める栄養素で、体内に侵入したウイルスを撃退する白血球の働きを助ける作用があり、不足すると、ストレスに対抗する力が弱まるんです。夏風邪には、ぴったりですね」
「自分は、夏風邪を引くような馬鹿ではない」
「夏風邪の原因は、温度が高くて湿度も高い環境で増殖するウイルスですよ。喉で繁殖するアデノ・ウイルス、腸で繁殖するエンテロ・ウイルス、高熱を伴うコクサッキー・ウイルスや、悪寒や吐き気を催すエコー・ウイルスあり、これらのウイルスが原因となる症状としては、結膜炎になるプール熱、手の平や足の裏や口の中に水疱ができる手足口病、発熱と発赤が特徴のヘルパンギーナが有名ですね」
「医学書を読み聞かされてる気分だ」
「ワンピース一枚では、夜中に腕や脚が冷えて免疫力が低下しますから、長袖のカットソーや腹巻の着用をお勧めします」
「ワンピースというより、アッパッパーだがな。女物は着ない主義だが、これだけは例外。締め付けが無いし、着替えや洗濯が楽なんだ」
「そんな、おばさん染みたことを、高校生のうちからするものではありません」
「説教に来たんなら、帰ってくれ。バテてるんだ」
「いまさら予防策を伝えても、仕方ありませんね。でも、これからは冷たいものばかり食べずに、高たんぱくで低脂肪の食事を、毎日三食しっかり摂るようにしてくださいね。キムチ、納豆、チーズといった発酵食品には、夏風邪を防ぐ効果が高いので、特にお勧めです。逆に、夏野菜は身体を冷やしますし、脂っこいものは消化に悪いので、しばらく控えたほうが良いですよ。食欲は、ありますか?」
「あまり、ない」
「それでは、お粥を作りますね。キッチンをお借りします。朝丘さんは、着替えて、ベッドに横になっていてください」




