#027「外素内酔」
舞台は、渡部家。
登場人物は、朝丘、渡部、清美、愛実の四人。
「あるところに、おじいさんと、おばあさんと、桃太郎の三人が暮らしていました。桃太郎は、両親を早くに亡くしたため、おじいさん、おばあさんが唯一の家族でした。桃太郎は十七になったとき、大学進学を決意しました。桃太郎の家は、とても貧しく、問題集はおろか、教科書すら友人に借りて写させてもらっていました。おじいさんとおばあさんは、そんな勤勉な桃太郎のために、少ない年金を地道に貯め、虎の子の定額給付金も下ろし、何とか入学資金を繰りました。桃太郎は夜遅くまで勉強していたので、おばあさんは、そんな彼のために、夜食できび団子を作ってあげました。努力に努力を重ねた、桃太郎。そして、そんな彼を支えた、おじいさんとおばあさん。ところが、そんな苦労が祟ったのか、入試前日の晩に、おじいさんが高熱を出して寝込んでしまいました。おばあさんに、『おじいさんはわたしが看病するから、桃太郎は心配しないで入試会場へお行き』と言われた桃太郎は、会場に行きましたが、おじいさんのことが不安で、実力を発揮することができませんでした。結果は、その一ヶ月後に届きましたが、書かれていた文字は『サクラチル』の五文字でした。実力を発揮できなかった、桃太郎。桃太郎を不安に思わせてしまった、おじいさん。一ヶ月程、気まずい、暗い雰囲気になりました。桃太郎は、半ば放心状態。おじいさんは、自己嫌悪を起こしていました。そんな二人に、おばあさんはこう言いました。『おじいさん。桃太郎。失敗をいつまでも引きずるのは、もう、およし。何もこれで機会がすべて無くなったわけじゃないじゃありませんか。また来年、頑張ればいいのよ。成功するまで続けたら、それまでの失敗は成功への一過程に過ぎないんだよ』それを聞いたおじいさんと桃太郎の心には、目の前の暗闇に、一筋の光が射し込んだのでした」
「判定しますね。私は、面白いと思いました」
「駄目よ、博巳。甘すぎるわ」
「さっき、一回、見逃したもん。二度目は無しよ」
「貧乏神、桃太郎、浪人生の三枚では、どうしたって笑い話にはできない」
「簡単なカードは、序盤で使い切ってしまいましたからからねぇ」
「可哀想だけど、ルールはルールよ」
「葡萄ジュースだと思って飲めば良いのよ」
「渋味の強い、ジュースだな。……ッカ」
「朝丘さんは、もう限界のようですね」
「そうね。顔に出ないから分かり難いけど、そろそろね。今回は、ここまでにしましょう」
「誰よりも飲んだもんね。休ませなきゃ」
「ウッ、ウゥム」
「眠そうですね。でも、ここではなくて、ソファーで横になりましょうね。――私が両脚を抱えますから、お姉さんは両脇を抱えてください」
「一人で持てるでしょう?」
「軽いから大丈夫だよ」
「ンンン。渡部が、良い」
「私も、それなりに酔ってますから、一人では危ないと思うのですが」
「平気よ」
「お兄ちゃんは、心配性ね」
「アァ。渡部なら、できる」
「何のお墨付きか知りませんが、お運びしますね。……よっと」
「甘え上戸なのかしら?」
「酔うと、普通の女子高校生が出てくるのね」
「自分が、不甲斐ない、ばかりに」
「参加を止めなかった私にも、責任はあります、よっ。あっ。えぇっと。そう、しがみつかれたままでは下ろせませんよ、朝丘さん?」
「そのまま、博巳も一緒に腰を下ろせばいいのよ」
「アームに座っちゃえ」
「そばにいろ。置いて行かないでくれ」
「やれやれ。――いまは理性を総動員しますけど、姉や愛実の眼が無ければ、キスの一つでもするところですからね、朝丘さん」




