国外追放が決まりました
ここがパーティ会場だとは思えない程の沈黙。
嗚呼…ディボラ様がブチ切れてしまった…。
怒りで魔力が湧き立っているのか下から風でも吹いているかのように彼女の髪はなびいている。
ディボラ様が第二王子の婚約者に選ばれたのは何も公爵家に子女がいなかったからだけが理由ではない。
国随一の魔力保有者。
それがディボラ・エムセイノ侯爵令嬢である。
「こ…婚約破棄を受け入れたのだから、ここっ国外追放も受け入れろよな!?」
セドム王子の腰が思いっ切り引けている。
強い魔力の波動に恐れをなしたのかヘタレが隠せていない。
ぶっちゃけディボラ様くらい魔力が豊富なら国外追放されても他国から引く手あまただろう…てか魔力持ちなんて貴重なんだから他国に行かれると国益損なうんじゃ…。
内心アワアワしている私の横にいつの間にか弟のアディがいた。
ザワザワし始めた周りに便乗してコソコソ耳打ちしてくる。
「ぶっちゃけさ、姉上とディボラ様なら冒険者になっても余裕で生活できるよね?ラナさん連れてちょっと他国をぶらっと旅行でもしてきたら?」
ラナというのは仲間の一人、ラナ・ミミリスの事だろう。
彼女は男爵令嬢でディボラ様の身の回りの世話をするための技術や知識を勉強中である。
一応私も自分の身の回りの事くらいなら出来なくもないが人のお世話までとなると…多分出来ない。
ラナがいないと確かにディボラ様も不便を感じられるだろう。
「ラナさん一人くらい姉上なら守れるでしょ?ディボラ様は魔法あるからぶっちゃけ自衛なんて余裕だろうし」
そう言われ、私はドレスの中に隠している短剣を布越しに軽く握る。
私は公にはされていないが見習い騎士だ。
ディボラ様の侍女として護衛が付いて行けない様な所にも常に共にいられるよう表向きは侍女見習いとなっているが護衛術を学んでいる。
1つ下の弟アディには惜しい所で勝てないが、そもそもアディが強すぎるのだ。
人並み以上の腕があると自負している。
「ディボラ様が国外追放を受けざるを得なくなったらそうしようかな」
このパーティの参加者は若い世代ばかりだ。
だから止める大人がいないだけ。
そう思っていたので半分冗談でそうかえす。
なのにアディは真剣な声で言った。
「姉上、父上が一昨日から留守の理由忘れてない?国王夫妻の護衛だよ?王様たち、王女様の輿入れで一ヶ月近く留守だよ?」
私は血の気が引く感覚とはこれだな、なんて思う程にサー…と血が引いていくのを感じた。
そう。第二王子を止められる立場の大人が不在なのだ。
王太子様は不在の国王夫妻の代理として恐らく忙しくされていて弟の愚行に気付く余裕などないだろう。
「ディボラの取り巻き皆まとめて追放だ!
えっと…(ごそごそ)
アリア・セイン伯爵令嬢!
レリアーナ・キュアン子爵令嬢!
サマナ・ローリー子爵令嬢!
ラナ・ミミリス男爵令嬢!
お前達も同罪と見做す!国外追放だからな!」
婚約者の付き人としてそれなりに会っているんだから私達の名前くらいカンペ無しで言っていただきたい。
それに貴族令嬢を気軽に追放しちゃうとか無法な事を仕出かしてあちこち黙ってないとは思わないのかしら?
私達は顔を見合わせディボラ様に向かってコクリと頷いた。
「誰か文官職の者を」
ディボラ様の一声に私達は声を張り上げる。
「文官の職に就いてる方、お願いしたいことがございます!見習いの方でも良いので頼まれて下さいませ!」
セドム王子が「勝手に何を!」だの何だの喚いているがサクッと無視する。
すると三人ほどおずおずと出てきてくれた。
「城で庶務に務めているオスド・カーサーと申します」
「同じく城で経理事務をしておりますサーシャ・キノンです」
「文官見習いのリリード・ファブズでございます。部署は未定でございます」
それぞれがディボラ様に名乗る。
「ディボラ・エムセイノよ。あなた達、今この場のやり取りを記録して然るべき関係各所に届けておいてくれる?私は国外に行かねばならないみたいだから」
「「「! はいっ!必ずっ!」」」
この人たちはこの事態の大変さを理解しているのかもしれない。
少なくとも自分たちに任せられた事の重大さは分かっていそうで何よりだ。
「貴女達…巻き込んでごめんなさい。パーティ会場の皆様、お騒がせしたこと、心よりお詫び申し上げますわ」
そう微笑んでくれたので私達も微笑み返す。
「国外追放を受け入れるんだな!?」
自分で言い放ったクセにものすごく動揺しているのを隠せていないセドム王子。
周りの方々が「あれ?こんな方だっけ?こんなポンコツだっけ?」って顔しているのに気付いていない。
ダメ、笑いそう…吹き出しそう。
「このまま出て行くと家に迷惑がかかりますので親に挨拶をしてから国を出て行きますわ。第二王子セドム様のご命令ですもの」
私達も急いでディボラ様の後ろに並び淑女の礼をとり異議ない事を示す。
「フン…言ったからな!?」
強がるセドム王子。
「では、国を出て行く用意がありますので失礼します。皆様は引き続きパーティを楽しんで下さいね」
にっこりされたがディボラ様、目が全く笑っていない。
「言われるまでもないわ!」
そうセドム王子は強がっているけど多分パーティはこのままお開きだ。
それを察した参加者たちは『せっかくの時間に何してくれるんだ』という非難の視線をセドム王子に向けている。
皆、王子がポンコツって気付くの早そうだな。
そんなアホな事を考えながらディボラ様に付いて会場をあとにした。




