婚約破棄宣言
「ディボラ・エムセイノ!お前のような冷血な女との婚約は破棄させてもらう!」
ホールに高らかに響き渡ったのはガナート国の第二王子セドムの声だった。
今日は若い貴族たちの交流パーティ。
音楽を楽しみながら軽食を摘み、お互いの親睦を深める気軽なパーティだ。
皆それぞれに仲の良い者と参加し、大人たちから社交の圧をかけられることのない気楽な時間を楽しく過ごしていた。
それを台無しにするようなセドム王子の声に多くの者が思わず眉をしかめたのは仕方ないと思う。
かく言う私も「あちゃー!」と思わずにいられなかった。
しかし相手は王太子のサポートをスマートに熟す第二王子セドム様。
皆、歓談を止めて耳を傾ける。
しかし、実は第二王子がポンコツなのは私達の仲間内では共通認識。
スマートに王太子をサポートしているのは公務の際は第二王子の横に必ずいるディボラ様だ。
私は固唾を飲みながら将来の主、侯爵令嬢ディボラ様を見つめた。
「理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
落ち着いた様子で静かに問うディボラ様に対し、セドム王子は唾を撒き散らさん勢いで声を張り上げた。
「はん!その冷たい態度で我が愛するリーナを虐げていたらしいな!怪我を負うような目にも合わせてもいたそうではないか!」
リーナというのは頭空っぽの伯爵令嬢である。
彼女と5分会話をすれば甘やかされて育てられたのが分かるだろうってくらい、頭の中に砂糖菓子の花が詰まってるのかってくらい、思考お花畑のおバカでついでにワガママだ。
学園に通っていた時も散々迷惑をかけられた。
今の私たちは2年間それぞれの家で学ぶ期間である。
爵位を継ぐために家について学ぶ者、領地を管理する為に勉強する者、高位貴族の家で仕える為の技術を身に付ける者、それぞれの将来によって内容が多岐に渡るため各貴族家で学ぶのだ。
私と仲間たちは、将来王子妃となられる予定のディボラ様に仕え支える一人となるべく日々己を磨いている。
側に仕える者同士スムーズな意思疎通や連携が取れるよう学園時代からいつも一緒に行動し、今も頻繁にエムセイノ侯爵家へお邪魔し交流している。
だからセドム王子の言う事が濡れ衣で言い掛かりだと分かってはいるのだが…。
「身に覚えがないのですが証拠はございますか?」
「リーナの涙以上の証拠があるというのか!?」
皆、ポカーン、である。
第二王子のあまりにアホな発言にさも驚いた事だろう。
私も驚いている。
ディボラ様なんてまた眉がピクピクしている。
あれは困惑したり怒りを抑えている時のクセだ。
セドム王子といるとよく出るのだが無理もない…。
「それは証拠とは言えません…。この楽しい時間を止めておいて…それは…」
相当怒っているのを必死に抑えているらしい。
言葉が詰まっているのはブチ切れそうだからだろう。
ディボラ様が強くお怒りになれば流石にパーティは完全に解散となる。
皆の楽しい時間のために必死に抑えておられるのだ。
頑張れー!と私達はディボラ様を密かに応援する。
「うるさいっ!お前はその取り巻きたちと共にリーナの身も心も傷付けた!よって私は第二王子としてお前たちに国外追放を言い渡す!」
「…は?」
「ハハッ!なんだその間の抜けた声は!」
「いえ…今、私の友人でもあり将来に渡って支えてくれようとしている者たちを…『取り巻き』とおっしゃいました?」
「取り巻きを取り巻きと言って何が悪い!」
「…いえ、婚約破棄、賜りましたわ」
賜っちゃったーーー!
恐らく私達の仲間内以外でこのことの重大さに気付いている者はそう多くない。
さっきのアホな発言で気付いていたら別だけど世間のイメージは王太子を的確にサポートする第二王子様だから!
だから、もう一度あえて言おう。
第二王子セドムは本当にポンコツなのだ。
こんなアホな婚約破棄騒動を起こすくらいにポンコツなのだ!




