二
「そうですか…。でも、あなたはひどくいたんでいるようです。
私などが乗っていては苦しくありませんか」
渡り鳥が心配そうに尋ねると、棒きれは、
「なあに、これくらい何でもありませんよ。
何しろ、以前は森一番の大木だったんですから」
と、誇らしげに答え身上話を始めました。
自慢する通り棒きれは、昔森一番の大木だったのです。
その堂々とした姿は他の木々のあこがれで、そのまわり
にはいつも動物達が集まってきたものでした。
それはとても落ち着いた楽しい日々でした。
ところがある日、人間達が彼を切り倒し町へ持って行くと、船のマストにしたのです。
最初、彼はひどく悲しみましたが、そのうちに、この暮しも悪くないように思いました。
森の動物達の代りに海鳥達が、彼のまわりに集って陽気なおしゃベリを聞かせてくれますし、なんといっても、自由にいろいろな所へ行けるのですから。
彼は七つの海を渡っ今まで見たことのない物をたくさん見ました。
けれど、なんと不幸なのでしょう。 突然おそってきた嵐のために彼の船は沈んでしまったのです。
マストであった彼はものすごい風のために折られ、海に落ちてしまいました。
幸い彼は沈みはしませんでしたが、その代りに一人ぼっちで広い海にとり残されてしまったのでした。
「ああ、もう一度故郷を見たいなあ」
語り終えた後、棒きれは、ふいになつかしさがこみ上げて思わずつぶやきました。
「私が旅の途中でなければ、あなたをそこへ連れていってあげられるのですか」
渡り鳥が残念そうに言うと、棒きれは微笑んで、
「ありがとう。その気持だけで十分です」
「けれど、私はあなたに命を助けられたのです。何か恩返しをしなければ」
「いいんです。それよりせっかく助けたのですから、無事に目的地へ着いてもらわなければ、さあ、そろそろ行かないと仲間を見失いますよ」
見ると、もはや群れは空のかなたに、黒い点となっていました。
渡り鳥は、しばらくためらっていましたが、
やがて大きく羽ばたいて飛び立ちました。
そして、なごり惜しげに一度三度棒されの上を飛び回ると、
仲間のあとを追って行きました。
そうして、棒きれはまた一人ぼちになりました。




