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四者四様な女の子たち

 軍の大戦車部隊に話を聞きに行く大久保の後ろ姿を見送る俺の背中を、つんつんする者がいた。振り返ると、不安げな顔つきのなずなだった。


「戦いになっちゃう前に、離れようね」


 表情だけでなく、言葉も震え気味だ。今までの事から言って、戦車部隊は生き残れたとしても、軍側が甚大な被害を出すのは目に見えている。そんな戦いに巻き込まれるのをなずなは恐れているんだろうし、俺としてもそのつもりだ。


「ああ。そのつもりだ」

「えっ? そうなの」


 俺のなずなへの返事に不満げに言ったのはあかねだった。

 あかねに目を向けると、あかねソードの柄を握りしめている。


「それ違うだろ」

「えっ? そうなの?」


 危ない事に首を突っ込もうとする妹に注意する俺に、またまた異論が出てきた。

 今度はひなただ。

 ひなたに目を向けると、村雨の柄に手をかけている。


「なんで、そうなるんだよ」

「なあ、服部」


 とりあえずツンツンしてはいても、血気盛んではないと思える服部に同意を求めた。


「守って欲しいって言われたって、守ってなんかあげないんだから!」

「はい?

 どんな展開?」


 相変わらずツンツンした口調と言うのは当然なのかもだけど、守る立場なのか?


「颯太くんって、草食系なの?」


 思考が混乱して、言葉を出せないでいる俺にひなたが追い打ちをかけてきた。


「ううん。じゃないと思うんだよね

 一突きするの好きそうだし!

 私もしちゃうよ。

 こんな風に」


 いや、あかねはする方じゃないだろ! と思った瞬間、あかねは手にしているあかねソードを突き出していた。

 俺の体の横を通り過ぎていくあかね色の光。


 少しひやっとした気分で、その光の先を振り返って見た。忍び寄りと言う術を覚えたあの生き物が、乗り捨てられた車の陰から、俺の背後に迫って来ていたらしい。

 そこには、あかねソードを胸に突き立てられたあの生き物の姿があった。

 口から血を垂らして、崩れ落ちるあの生き物。


「油断、禁物だよ。お兄ちゃん」


 にこりとして、あかねが小首を傾げながら言った。

 ずっとこの世界ではそうだったが、あの生き物の死を前にしても、いや殺めていても、たじろぎもしない強さと言うか、あかねの冷酷さ。

 その冷酷さを奥に秘めた、あかねのにこりとした笑顔に、ぞくぞくしてしまう。

 一方のひなたは平静を装ってはいるが、動揺しているのか顔が青ざめている。これが普通の反応だ。ひなたのようなか弱さを強さで包み込んだような子ではなくて、危ない女の子にぞくぞくする俺って、危なくない? いや、その前にあかねは妹だった。


「なるほど。そう言う事なんだ。

 レーザー兄妹って、水野の事だったんだ」


 教会の手配書を見たことが無かったらしい服部の顔はなんだか、へぇぇぇっ的な笑みが浮かんでいる。


「な、な、何なんだよ」

「妹に守られているんだぁ」

「そうなんだぞ!

 お兄ちゃんは私が守る!

 でも、私の事も守ってね、お兄ちゃん」


 そう言って、背後からあかねが抱き着いて来た。

 胸のあたりに絡みつくあかねの細い腕と背中に伝わる二つのムニュッ感。最近、腕のムニュッは慣れて来ていたが、これは新鮮だ。顔がほころびそうになった時、ひなたと服部からきつい視線を送られてきている事に気づいた。


 これはやきもち? じゃなくて、きっと非難に違いないと分かっていても、あかねとの幸せのひと時を俺から壊したくなくて、固まっているとなずなの声が耳に届いた。


「颯太くん、私の事も守ってね」

「お、おう。

 任せておいてくれ」

「ありがとうぅ」


 不安げな表情を一変させてなずなが、俺の右腕に抱きついて来た。背中に二つのムニュッ感。右腕にもムニュッ感。なかなかこんな経験する者はいないはず。なんて幸せなひと時。

 ひなたと服部の非難よりも、このひと時を大切にしたいと思った俺の耳に野太い男の声が届いた。大久保の声だ。


「あかねちゃん。またお兄ちゃんで遊んでるのか?」


 いや、それ違うから。そんな視線を大久保に向けた時、あかねが離れて行った。


「はぁぁぁい」


 やっぱ、遊んでいるの?

 そんな視線にあかねは「うん?」 的な笑顔を返して来た。


「なぁんだ。冗談なんだ」


 そう言ったひなたの顔からは厳しい視線は消え去っていた。


「ふん!」


 一方の服部は、そう言ってそっぽを向いた。なんだか、俺、嫌われている感がある。

 好意を抱いていなくても、嫌いじゃない女の子に嫌われるのは、男としてはあまりうれしくなく、ちょっと寂しい気分になってしまっていたが、なずながそんな気分を一気に吹き飛ばしてくれた。


「颯太くん、私は遊んでるんじゃないんだからね」


 そうマジな顔つきで、離れるのを惜しむかのように俺の腕からゆっくりと離れて行った。

 なずなは俺に気があるかも知れない。うれしくなってしまう。たとえ、凛がいるとしても。


「ああ。なずなはどんな事があっても、俺が守る」

「ありがとう」


 なずなの瞳がうるうると輝いている。


「颯太君、いいかな。

 軍の指揮官 加藤大佐が君たちに会いたいと言っている」


 大久保はいつも俺の幸せなひと時を邪魔する。


「分かりました」


 ちょっとぞんざいな口調で答えると、俺は三者三様、いや四者四様な女の子たちを連れて、大久保の案内で軍の指揮官 加藤大佐のところに向かって行った。

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