M&A詐欺にドロップキック!陰謀を阻止せよ!~前編
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第一章:さらば、陽だまり中央総合病院?!
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「……よし、これで有休申請書のファイリングは完了、と」
首都圏の端っこ、どこにでもある平凡なベッドタウンに佇む、全50床の小規模病院――『医療法人 福福会 陽だまり中央総合病院』。
その薄暗い事務室の片隅で、望月修二は、静かにキーボードを叩いていた。彼の所属する総務課は、病院の「何でも屋」だ。電球の交換から、クレーマー対応、役所への提出書類作成、さらには徘徊する患者の捜索まで、医療行為以外のすべてが彼らの肩にのしかかる。
「望月さーん! 大変! 大変! ちょっとこれ見て!」
デスクの対面から声をかけてきたのは、同僚の高野美咲だ。彼女の趣味は全力での婚活であり、「定時に上がって合コンに行く!」という強い信念のもと、凄まじいスピードで仕事を処理する有能な相棒である。
「どうしたの高野さん。そんなに血相変えて。またどこかの業者が請求書の金額間違えた?」
「違うのよ! これ、今朝の『福福会理事会ニュース(※非公式)』なんだけど……」
高野が突きつけてきたタブレットの画面を見て、望月はずり落ちたメガネを急いで直す。
『速報:陽だまり中央総合病院、M&Aにより超巨大医療グループ「ギガメディカル」へ売却か!? 理事長が独断で契約書に調印寸前!』
「……は?」
「は? じゃないわよ! もし買収されたら、私たちみたいな小規模病院の事務職なんて真真っ先にリストラか、良くて僻地の分院に飛ばされるわよ! 私の今週末のタワマンエリートとの合コンはどうなるの!?」
「いや、君の合コンの心配は知らんけど……。でも、なんでまた急に?」
望月の視線の先には、総務課長席で盛大にイビキをかいている田中信夫の姿があった。この男、仕事はしたくない、責任はすべて部下に転嫁する、しかし上層部へのゴマすりだけはプロフェッショナルという、絵に描いたようなダメ上司である。
「田中課長、起きてください。病院がピンチです」
「んあ? ……あ、望月くん? なんだね、僕は今、次の四半期の予算案についてディープ・シンキング(※熟睡と同じ意味)していたんだがね」
「理事長が病院を『ギガメディカル』に売却しようとしてるみたいなんですけど、何か聞いてますか?」
「えっ!?」
田中課長は跳び起きた。その顔はみるみる青ざめていく。
「ば、売却!? 聞いてないよ! いや、しかし待てよ……もし『ギガメディカル』に買収されたら、僕の席はどうなるんだ? 彼らは成果主義で有名じゃないか! 残業ゼロ(ただ席にいるだけ)の僕のホワイト社畜ライフが崩壊する!」
(あんたのは社畜じゃなくて、ただの給料泥棒だろ)
望月は心の中で冷たいツッコミを入れた。
「とにかく、理事長室に行って真相を確かめましょう!」
高野の号令のもと、総務課の3人はドタバタと理事長室へと向かった。
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第二章:ハワイのロコモコは美味いんだってよ
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理事長室のドアを開けると、そこには高級な革張りソファーに深々と腰掛けた理事長がいた。かつてはバリバリの敏腕経営者だったらしいが、今では見る影もなく、足腰はふらつき、言動も怪しい。
「おお、総務の諸君か。ちょうど良かった。見てくれんかね、この美しいハワイ旅行のパンフレットを。ギガメディカルのCEOが直々に持ってきてくれたんじゃよ。我が病院を彼らに譲れば、ワシには莫大な手切れ金……ゲホン、ゴホン……協力金が入り、ワシはハワイで毎日フラダンスを踊って暮らせるんじゃ!」
理事長の手にあるのは、アロハなデザインのパンフレットと、一枚の「資産譲渡契約書」だった。
「理事長! そんなことをしたら、地域密着のこの病院はどうなるんですか! 入院中の患者さんたちは!?」
望月が必死に訴える。
「ん? 患者? そんなことより、ハワイのロコモコは美味いらしいぞ? あ、契約書にハンコを押さなきゃいかんのじゃが……ワシの愛用の実印がどこかへ行ってしまってな。今、ギガメディカルの担当者がロビーで待っとるんじゃ。早くハンコを探してくれんか、望月くん」
(頭の中でお金のマークとロコモコがフラダンスしてんじゃん!)
望月は心の中でツッコミを入れた。
「とにかく、ハンコが見つかるまでは調印できないんですね。……わかりました、総務課が総出で『慎重に』探します」
望月はそう言って、高野と目配せをした。時間稼ぎをするしかない。
そこへ、バタンと勢いよくドアが開いた。入ってきたのは、ナイスバディな病棟師長の大熊ほのかだった。
「ちょっと理事長! 売却ってどういうことです!?」
大熊師長が、その豊かな胸を怒りで揺らしながら詰め寄る。
「ギガメディカルが買収したら、病床をすべて自由診療の高級人間ドックに変えるって噂ですよ! 今いる一般病棟の患者さんたちを全員追い出す気ですか!?」
「まあまあ、師長、落ち着いて!」
ここで田中課長が、すかさず八方美人のスキルを発動した。
「理事長のご意向も分かりますし、現場の皆さんの熱い思いも分かります! ここは一つ、私が間に入って、双方にとって最も傷の浅い……ゲホゲホ、最も素晴らしい解決策をですね……」
「で、田中課長はどうしたいのよ?」
大熊師長に鋭い視線で睨まれ、田中課長はヒエッっと身を縮めた。
「い、いや、僕はただ、お互いがハッピーになればと……」
(本当に役に立たないな、この上司)
望月が白目を剥いていると、廊下の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「ちょっとちょっと、みんな聞いてちょうだい!」
現れたのは、受付の奥山友子だ。彼女は病院内のあらゆる情報を握る、歩く情報通信社である。
「ロビーにいるギガメディカルの交渉担当者って男なんだけど、ものすごい傲慢な男よ!『こんなボロ病院、買い叩いてやる』って電話で話してるのを聞いちゃったわ! しかも、事務員は全員即日クビにするって!」
その言葉に、事務室一同(というか田中課長と高野)に戦慄が走った。
「即日クビ!? そんなの許さないわ! 私の勤続10年の退職金はどうなるのよ!」
「ひえええ! 住宅ローンが残ってるのに! 誰か、誰か何とかしてくれー! そうだ、望月くん! 君が身代わりになってギガメディカルに直談判してきてくれ!」
(なんで俺が人柱にならなきゃいけないんだよ!)
望月の脳内で、何かがプチリと音を立てて切れた。真面目だけが取り柄の平社員。いつも理不尽な要求に耐え、上司の尻拭いをし、患者のわがままを聞いてきた。だが、この「陽だまり中央総合病院」は、平凡だけど居心地が良いのだ。この場所を、ハワイに行きたいだけのボケ老人と、傲慢な巨大グループに奪われてたまるか。
「……分かりました。こうなったら、この買収話をブチ壊してやりますよ! ご都合展開でも何でも使ってね」
メガネの奥で、望月の目が怪しく光ったのだった。
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To be continued→
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