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タイトル未定2026/05/20 06:45

 園児達が帰り、保育士達は教室やトイレの掃除や園児達が使ったおもちゃ等の消毒をしていた。

 掃除が終わり申し送りの後、若菜は職員室にあるパソコンでその日の業務の記録を打ち込んでいた。

 全ての業務を終えた頃、辺りはすっかり暗くなりつつあった。

 同僚達と園の前で別れ、一人になった若菜はバックから携帯を出した。

 携帯には、一件のラインの着信があった。

 ラインの送信者はちはるで、着信があったのは少し前だった。

 ラインの内容は「土曜日マスターの店に馬場と行くんだけど、スイも一緒に行かない?」と言う誘いのラインだった。

 ……ちはるさんと馬場さんと、マスターの店に。

 もしかしたら、シロちゃんにも会えるかも!

 若菜はなんだか懐かしいような、せつないような気分に浸った。

 若菜はすぐ、ラインの返事を送信した。


 土曜日の夜、流花は久しぶりにbar「ジェシカ」のバイトに来ていた。

 カウンター席に座っていた流花のファンの常連客は、しきりと喜びの声を上げていた。

「いやぁ〜待ったかいがあったよ」

 カウンターの中で、マスターと並んで立ってグラスを磨いていた流花は、笑顔で常連客の声を聞いていた。

「学校、そんなに忙しいのかい?」

「課題ばかりが増えて、就職活動もしなきゃだし」

「そぉ〜かぁ。もっと頼れるおじさんだったらなぁ。シロちゃん、身体壊さないでくれよぉ。おじさん、心配だよぉ」

 お酒のせいか常連客は、涙声で言った。

「心配してくれて、ありがとうございます」

 流花の言葉に感極まった常連客は「うん、うん」と頷きながら、両手で流花の手を握手をするように、握った。

 流花の隣でグラスを洗っていたマスターは、少し困った笑顔で流花と常連客を見つめていた。


 bar「ジェシカ」のドアが開き、来客を告げる鐘の音が静かに鳴った。

 流花が顔を上げると、ツインテールに膝上の赤いチェック柄のジャンパースカート姿の若菜がいた。

 まるでアニメの世界から来た、ロリータファッションをしていた。

 若菜は真っ直ぐ、カウンター席に駆け寄った。

「シロちゃ〜ん、久しぶりぃ。会いたかったぁ」

「スイ!元気だった?」

「うん、元気!元気!」

 感動的な再会を目の当たりにした常連客は、不思議そうな顔をして流花に聞いてきた。

「友達?」

「はい!親友です」

「そうかぁ。シロちゃんの親友かぁ。シロちゃんの親友に出会えるなんて、おじさん嬉しいなぁ」

 流花が「親友です!」と言ってくれたことが、若菜は嬉しかった。

 常連客は、若菜に言った。

「おじさんは、シロちゃんのファンなんだよ。シロちゃんに会いに、この店に通っているんだよ」

「そうなんですか!もぉ、シロちゃん隅に置けないなぁ」

 若菜と常連客は声を出して笑い合い、流花はキョトンとして目の前の二人を眺めていた。

 マスターは相変わらず、少し困った顔でそっと見つめていた。


 常連客が帰ると、若菜は流花に言った。

「シロちゃん居るかなぁって、思っていたんだ。シロちゃんがに会えて、嬉しいよ」

 言いながら若菜はバックから、ティーシャツを出した。

「旅行に、行った時のお土産」

 若菜はお土産のティーシャツを、流花に手渡した。

「スイ、ありがとう」

 受け取ったティーシャツを流花は眺めた。

 側でマスターも、ティーシャツを眺めた。

「スイ何処に、行ってきたの?楽しかった?」

 若菜は、旅行先を答えた。

「もう、楽しかった!美味しいものたくさん食べてきちゃった。シロちゃん、旅行に行かないの?」

「行きたいけど、大学の課題が山積みで、旅行なんて夢のまた夢」

「そうなの」

 少ししんみりとした口調で言った若菜に、流花は明るく言った。

「スイ、お土産ありがとう!マスター、お土産をしまいに席を外します」

 マスターが静かに頷くと、流花はカウンターを出て奥の部屋に行った。

 流花が居なくなると、マスターは若菜に言った。

「あのお土産……ボクにくれたお土産と、色違いのティーシャツですね」

「気が付いた?色違いのお揃いのティーシャツを、シロちゃんと着てほしくて」

 マスターは照れくさそうに、額に手を当て目をつぶって笑った。

 流花が戻ってきたと同時に、来店を告げる鐘の音が静かに鳴った。

 ティーシャツにジーパン姿の馬場と、デニムのロングタイトスカートのちはるが店に入って来た。

「シロ、久しぶり〜」

「馬場さん!友光さん!」

 奥の部屋から出てきた流花は、馬場とちはるの前に駆け寄った。

「今夜この店で会おうって、スイを誘ったんだ。まさか、シロにも会えるなんて」

「そうだったんですね!」

 流花は、喜びの声を上げた。

 

 若菜と馬場とちはるの三人はテーブル席に座り、馬場はハイボール、若菜は烏龍茶、ちはるはカクテルをオーダーした。

 流花は三人がオーダーした飲み物をテーブル席に運び、飲み物をテーブルの上に置くと、ちはるはギラついた目つきで流花を見て言った。

「今、スイから聞いたわよ!マスターと、付き合っているんだって?」

 突然のちはるの言葉に、流花は戸惑いながら言った。

「えっ……まぁ」

 流花とちはるの間に、若菜が入った。

「シロちゃんもマスターも、いつまで経っても煮え切らないから、アタシがシロちゃんの背中を押したの」

 若菜が言うと、ちはるは満足気に言った。

「スイ!よくやった!」

 若菜とちはるは「イエ〜イ!」と言って、グラスを持ち上げた。

「シロ、マスターと何処かに出かけた?」

 ちはるの問いを、若菜が代弁するように言った。

「シロちゃん、課題が山積みって言っていたよね。出かけてなんて、いないんでしょ」

「う……うん」

 流花はつぶやくように、頷いた。

 それまで黙って聞いていた馬場が、呆れた声で言った。

「二人で何処にも行かないなんて、本当に付き合っているのか?こりゃ、デートの計画まで俺達が立てないといつまでたっても進まないぞ。ったく、世話が焼ける!」

 若菜と馬場とちはるが笑い合う中、流花は「もぉ、やめて!」と顔を赤くして、声を上げた。


 最後の客がいなくなり、マスターはラストオーダーを締め切った。

 barの灯を消し、厨房で料理を作るたきこは帰って行った。

 マスターはカウンターの中で椅子に腰掛け、パソコンに向かって売り上げ計算をしていた。

 流花はモップを手にして、ホールの掃除をしていた。

 先程まで賑やかだった店内は、静まり返っていた。

 マスターがパソコンのキーを打つ音と、流花のモップで床を掃く音だけが高く響く。

 時間が静かに流れ、パソコンに向かっていたマスターは椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。

 その頃流花は、テーブルと椅子を雑巾で拭いていた。

「先に着替えます」

 マスターの言葉に流花は顔を上げず「はい」と返事をした。


 着替えを終えたマスターが部屋から出てくると、ホールの掃除を終えた流花はマスターと入れ違いに、部屋に行った。

 流花がいなくなると、マスターは客が座るカウンター席の椅子に座った。

 しきりに流花に話しかける常連客や若菜、馬場、ちはるを思い出していた。

 ……久しぶりに、賑やかな夜だったな。

 この店、ならではと言うか。

 マスターは声を立てず、小さく笑った。

 マスターが思いを巡らせていると着替えを終えた流花がホールに戻って来た。

 マスターは椅子から立ち上がり流花の背後から流花を抱きしめた。

 それはまるで、流花が何処かへ行かないように。

 突然抱きしめられた流花だったが、全身でマスターを受け止めた。

 マスターはゆっくり、流花の後頭部に顔を埋めた。

「流花……やっと、二人きりになれた」

 静かに時間が流れていく中、背後から流花を抱きしめていたマスターは顔を上げ、流花をカウンター席に座らせるとカウンターの中に入って行った。

 マスターは、すぐ流花の元へ戻ってきた。

 椅子に座っていた流花の手を取ると、流花の手の中に茶色で丸型のキーホールダーを手渡した。

 キーホールダーには、小さな白色の花がチェーンにつながれていた。

 椅子に座っていた流花は、顔を上げた。

「マスター、これは?」

 椅子に座っている流花の隣で、カウンターの前で後ろ向きに立ち、両手をカウンターに置いたマスターが答えた。

「防犯ブザーです」

「防犯ブザー……」

 流花の手の中の防犯ブザーは可愛らしくて、見た目防犯ブザーには見えなかった。

「バックに、付けてください」

 防犯ブザーを手にした流花は、マスターを見上げた。

 そこには、夜道を歩く流花を心配する横顔のマスターがいた。

 ……マスターったら、まるで私の保護者みたい。

 でも、それで良い。

 保護者みたいなマスターだから、私は素直に甘えることができる。

 流花は、包み込むように防犯ブザーを握りしめた。

 マスターも包み込むように、椅子に座っていた流花を抱きしめた。

 流花は、マスターの腕にそっと触れた。

「マスターの腕って、こんなに筋肉質だっけ?」

「密かに、鍛えているんです。タバコもやめました」

「本当に?」

 マスターと流花は、小さな笑い声を上げた。

 流花が中学生の時、夜中に母親が連れて来た店の客に性的暴行をされそうになった事実を、流花本人からマスターは聞いた。

 自転車通勤も、夜のジョギング、少しずつやっている筋トレも、タバコをやめたのも……。

 ……ボクが、流花を守ります。

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