タイトル未定2026/05/20 07:05
マスターのマンションに着いた頃は、すっかり真っ暗になっていた。
「流花、先にシャワーを浴びてください。ボクは、ジョギングに行ってきます」
「ジョギング?マスター、走っているんですか?」
「はい。日課にしています」
そう言ったマスターは、リビングから出ていき、しばらくすると戻ってきた。
戻ってきたマスターは、ジーパンから、ジャージのズボンに履き替え首にはタオルを巻いていた。
マスターの手には、ティーシャツとジャージのズボンがあった。
「ボクのですが、寝まきがわりに、着てください」
ティーシャツとジャージのズボンを受け取った流花は、ティーシャツを広げた。
「これって……もしかしたら、スイが買った旅行のお土産?」
「はい。流花も同じデザインのティーシャツ、水田さんからもらっていますよね」
「もぉ、スイったら!」
流花はマスターのティーシャツを抱きしめ、思い切り声を上げて笑った。
マスターは流花が今までずっとかぶっていた自分の帽子を取って、ジョギングに出かけた。
マスターがジョギングから帰ってくると、シャワーを浴び終えた流花がキッチンに立っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
マスターはリビングに顔を出しただけで、すぐ浴室に向かった。
シャワーを浴び終え、黒色のタンクトップにグレーの膝上のパンツ姿のマスターが、リビングに入って来た。
「あぁ、いい匂いだ。お腹が空いた」
流花は笑顔で料理を盛り付けると、テーブルに運んだ。
マスターはグラス二つと、缶ビールを持ってきた。
流花が作った料理が並び、マスターと流花はテーブルを挟んで向かい合って座った。
マスターは缶ビールをグラスに注いで、グラスを流花に手渡した。
「乾杯」
マスターと流花は、グラスを持ち上げ一気に飲み干した。
両目をつぶりグラスを持ちながら「あぁ〜」と言う流花にマスターは流花の空になったグラスに、ビールを注いだ。
「本当に、美味しそうに飲みますね。家でも、よく飲むんですか?」
「たまにね。ビールを冷蔵庫にストックしても、何本か母親に飲まれちゃう。お腹すいたぁ!いただきます」
流花は両手を合わせて、お箸を持った。
幸せそうにご飯を食べる流花を、マスターは笑顔でみつめていた。
食事が終わり、後片付けが済むと、マスターは大門が遊ぶゲーム機を棚から出して流花に見せた。
「流花は、やったことがありますか?」
流花は、首を横に振った。
「一緒に、やりませんか?」
「えーっ、できるかな?」
とまどう流花をよそに、マスターはゲーム機をテレビに接続した。
ソフトは、パーティーのソフトとカートのソフトしかない。
マスターは、カートのソフトを選んだ。
マスターが接続をしている間、流花はソファーに座っていた。
接続が終わり、マスターは流花の隣に座った。
流花にコントローラーを持たせ、説明をしながらカートのゲームを始めた。
最初こそマスターに聞きながら、ゲームをしていた流花だったが、少しずつコツを掴み楽しんでゲームをしていた。
回を重ねるごとに、「次は、あのコースをやりたい!」と言うようになった。
ゲームをやっている最中、複雑なコースに流花は声を上げた。
「ちょっとぉ、何処走っているのよ」
流花の声に、マスターは笑った。
上位三位以内をキープしていたマスターだったが、後ろから投げられたアイテムがクリーンヒットをして、またたく間に最下位に順位が落ちた。
「なんだよぉ〜」
マスターの悲痛な声に、流花は大笑いをした。
気がつくと、夜の十一時を回っていた。
さすがにゲームは、お開きになった。
ゲーム機を棚にしまい、マスターと流花はソファーに座った。
伸びをしながら、流花は言った。
「ゲームで、こんなに白熱をするとは思わなかった!」
「カートのゲームは、おまちさんが一番強いです」
「おまちさんが!」
「回を重ねるごとに、強くなっていきました」
カートをやるまちこを想像し流花た流花は、クスクス笑った。
「今日は、流花と過ごすことができて嬉しかったです。今度は……」
マスターがそこまで言うと、いつの間に眠ってしまった流花が、マスターの肩に乗っていた。
マスターはソファーを降りて、流花を横にした。
寝室からタオルケットを持ってきて、流花の身体にそっとかけた。
フローリングに座り込み、流花の寝顔を見つめるマスター。
……さっきまで、はしゃいでいたと思ったら、もう眠っている。
マスターは、思わず笑いそうになった。
流花の寝顔を、見続けるマスター。
bar「ジェシカ」で、初めて流花と出会ったマスター。
背の高さ、ショートカット、何処となく相手を近づけさせない雰囲気。
高校時代初めて付き合った初恋の相手、坂田瞳と重ねて流花を観ていた。
流花と距離が近づくに連れ、流花の明るさや強さ、瞳が持っていないものにマスターは気が付き、いつの間にか流花に惹かれていった。
そんな流花も、今では大学三年生。
自分との年の差を、嫌でも感じてしまう。
……それどころか、ボクは血の繋がりのない大門を育てている。
流花が大学の友人達と笑いながら歩く姿を偶然見てしまった時、改めて現実を感じた。
もし流花が、同世代の男性に心変わりをしたら……。
……ボクは、流花の背中をそっと押そう。
流花の寝顔を、じっと見つめるマスター。
流花の髪にそっと触れると、マスターは流花にキスをした。
その時、ドサッと何かが崩れる音がして、マスターは我に返り顔を上げた。
ソファーの足元に置いてあった流花のハンドバッグがいつの間にか倒れ、その反動でバッグの中身がいくつかフローリングに飛び出していた。
マスターは流花から離れ、フローリングに飛び出した物を、バッグの中にしまった。
その時、流花の携帯の着信音が鳴った。
着信音のコールが何回か鳴った後携帯は切れた。
マスターは流花の携帯を、バックにしまった。
携帯の画面には、「田中君」の三文字が浮かんでいた。
完




