タイトル未定2026/05/20 06:53
大学の教室で、流花と渚はお互い携帯でバイト募集のサイトを眺めていた。
「休みが、自由に選べる所が良いよね」
携帯をスクロールしながら言う渚に、流花の隣に座って黙ったまま携帯を眺めていた田中が言った。
「ここは、どう?」
田中は自分の携帯を、流花と渚の目の前に差し出した。
ファミレスの洗い場の仕事で、時間や曜日は自由に決めることができ、友達同士の募集もオッケーだった。
渚が、喜びの声を上げた。
「良いじゃん!流花ちゃんどう?」
「いい条件が、揃っているね。私も、ここで良いよ」
「じゃあ、ここに決めるよ」
田中が代表者となって、ファミレスにメールを送った。
必要事項を載せたメールを田中が送った後、それまでトイレに行って居なかった佐野が戻って来た。
「バイト決まったか?」
佐野は、渚の隣に座りながら言った。
メールを送信した、田中が答えた。
「今店に、メールを送った」
「そうか!どんなバイト」
「ファミレスの洗い場」
「田中に、ぴったりな仕事じゃん」
「佐野は、工事現場の仕事だったよな」
「おう。工事と言っても、病院を建てる工事現場の仕事だ。仕事をしながら建築現場が見れるから、一石二鳥だよ」
「佐野らしいな」
佐野と田中の会話に、流花と渚は笑った。
午前の診療時間が終え、患者たちも居なくなり、診療所は静まり返っていた。
マスターの診察室で仕事をする園田亜美と、院長の診察室で仕事をする久保由美は診察室の奥にある窓際で、午前中に使った器具の消毒をしていた。
小声で、亜美が由美に言った。
「先生、いつもより機嫌が良いの」
「そうなの?よく、わかるね」
「すぐ、顔に出るからわかるわよ」
「単純!」
亜美と由美は、くすくす笑った。
笑い終わった後、由美が言った。
「何か、良いことがあったのかなぁ」
「彼女と、うまくいっているんじゃないの?」
「そうかも……って、やだぁ。ねぇ、先生に彼女って、いるかなぁ。やっぱ、いるよね」
「いるんじゃないの?逆に、いない方がおかしいよ。先生の指輪。あれ、彼女とお揃いのペアリングだったりして」
「だよね」
由美は、少し落ち込みながら作業を続けた。
不意に由美は顔を上げ、好奇心旺盛な声を上げた。
「ねぇ、先生の彼女ってどんな人かなぁ」
「ん〜紫野師長と仲が良いから、師長みたいな、ハッキリ物申す姉御肌タイプの年上女性の彼女と見た!」
亜美が想像をした、マスターの彼女を聞いた由美は、少し考えてから言った。
「私は、甘えん坊でわがままで、目が離せない年下彼女!」
「それ、由美ちゃんまんまじゃん」
「私、わがままじゃないよ。ひど〜い!」
亜美が笑うと、つられて由美も笑った。
その時、当のマスターが診察室に入ってきて机の椅子に腰掛け、机の上のパソコンに向き合っていた。
その姿を見た由美が、マスターに近づいた。
「先生……」
由美の声に、マスターは顔を上げた。
「先生の指輪、素敵ですね」
仕事上は別として、緑以外の看護師に、話しかけられたマスターは戸惑っていた。
そんなマスターをよそに、由美は聞いてきた。
「もしかして、彼女とお揃いのペアリングですか?」
マスターは何も言わず、パソコンを立ち上げた。
その行為に、由美は亜美の方を見て亜美と「やっぱりね」と言いたげに、視線を交わした。
「先生の彼女って、どんな方ですか?」
「もう、昼休憩ですよ。休憩を取ってください」
マスターの言葉に、亜美と由美は返事をして、マスターの診察室から出ていった。
マスターの診察室を出て行った亜美は、興奮するように由美に言った。
「由美ちゃん、露骨ぅ~」
「だって、知りたいじゃん!先生の彼女。どんな彼女かなぁ」
「やっぱ、しっかり者の年上彼女でしょ」
「え〜っ、甘えん坊の年下彼女だよ。初めて、先生に話かけちゃった!」
亜美と由美は静かに、女子トークをしながら、待合室の前を通り過ぎて休憩室に向かった。
待合室では、緑がロールカーテンを下げて亜美と由美の会話を盗み聞きをして、小さく笑っていた。
その頃大学のキャンパスで、お昼を過ごしていた流花と渚がテーブル席に腰掛けていた。
テーブルの上には、まだ手を付けていないお弁当が乗っていた。
流花の言葉に、渚は驚きの声を上げた。
「マスターとやっと、デートするんだ!良かったね」
「デートだなんて……」
「何でもいいよ。ねぇ、デートの時、私が選んだ服着るんでしょ」
「ん……そのつもり……」
煮え切らない流花に、渚は念を押しように言った。
「本当に、着ていくんだよ!」
「うん。そのつもりでいるよ」
「当日は、何処に行くの?」
「それが、まだ決まらなくて」
「もし、よかったら、この店に行ってほしいんだけど」
言いながら、渚は携帯を流花に見せた。
「凄く気になった店なんだけど、まだ行ったことがなくて。行く場所が決まっていないならどうかなって、思って。もし行ったら、どんなお店だったか教えて。もちろん、無理して行かなくても良いからね」
流花は携帯の画面に、釘付けになっていた。
「待たせて、悪かった!」
佐野の声に、渚は顔を上げた。
「もう、遅いよ」
佐野は渚の隣に座り、田中は携帯を渚に返していた、流花の隣に座った。
「佐野、売店に行くならもっと早く行けよ。凄い混んでて、もみくちゃにされたよ」
「つきあわされた田中君、災難だったね」
渚が笑うと、佐野が涼しい顔で言った。
「まぁ、まぁ。無事にたどり着けたんだし。良いじゃないですか。食べようぜ」
楽しく言い合う渚達を、流花は静かに見守っていた。




