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タイトル未定2026/05/20 06:50

 流花が通う大学。

 夏休みを目前としたこの数週間流花達は、製図室にこもって課題の「複合施設の模型」を個々で作っていた。

 課題が初めて出された頃は、和気あいあいとして取り組んでいたが、 現在は無言の時間が過ぎていた。

 よく喋る佐野ですら、真剣な表情をしていた。

 製図室では、ボードをカッターで切る「シュッ」と言う音や、歩き回る足音が聞こえる。

 接着剤のキツイ匂いが辺り一面に漂っていたが、誰もが一心不乱に、模型を作っていた。

 夏休みが始まるまでに、納得がいく作品を作る!

 誰もがそんな思いで、作品を作っていた。

 製図室の利用時間は、夜の十時だった。

 掃除をやる時間を考え、誰もが九時で製作を終わらせた。

 流花達四人は、ほぼ課題の製作を完成させていた。

 これで、心置きなく夏休みを迎えることができる。

 そのせいかキャンパスを出ると、佐野が言った。

「なんか、食いに行こうぜ」

 佐野の言葉に、流花が言った。

「遅いから、私は帰るよ」

「流花ちゃん、家が遠いもんね」

 少しがっかりしたように、渚が言った。

「じゃあ、俺も帰るよ。流花ちゃん一人じゃ心配だから」

 流花の手を取った田中は、流花の返事も聞かず歩き出した。

 田中に引っ張られるように流花は歩き、渚と佐野は呆気に取られて見守っていた。

 渚は、ぽかんとして言った。

「田中君って、あんなに強引な子だっけ?」

「田中も、男だってことだ」

「何、それ〜」

 渚は、くすくす笑った。

 佐野は、渚の肩を抱いて歩いた。

 歩きながら、佐野は言った。

「流花ちゃんって、マスターと付き合っているんだろ」

「大学一年の夏頃から、付き合いだしたって言っていた」

「じゃあ、一年以上は付き合っているんだ。そんな風には、見えないなぁ」

「いつも、流花ちゃんと一緒にいるからね」

「田中の気持ちがわかるから、田中を推してやりたいけど……」

「流花ちゃん、マスターと付き合っているもんね」

 少し、しんみりとなって黙り込んで歩いていた二人だったが、急に佐野が言い出した。

「もう、遅いし。俺んとこに泊まれよ」

 佐野はアパートで、一人暮らしをしていた。

「うん」

 渚は頷き、佐野に寄り添って歩いた。


 その頃流花は、田中に手を取られ引きづられるように、繁華街を歩いていた。

「……ちょっと、田中君!」

 やっと流花は田中の手を振り払い、人並みの邪魔にならないように歩道の隅に行った。

 流花は夜空を見上げ、大きく息を吸って吐いた。

「……田中君、足速いね」

 流花に何を言われるか構えていた田中だったが、思ってもいないことを言われ拍子抜けをした。

「……流花ちゃん……やっぱ、変わってる」

「えっ、えっ?」

 慌てる流花を田中は笑い、流花を抱き寄せた。

「流花ちゃんに彼氏がいるのはわかっている。でも俺は、流花ちゃんが好きだ」

 ぽかんとして、田中の言葉を聞いていた流花は、我に返り慌てて田中から離れた。

「うざい男がいるって、マスターに言っても良いよ」

「……田中……君?」

「マスターに、会ってもいいよ」

 突然流花は声を上げて、笑い出した。

「もう、冗談ばっかり!やめてよ!」

 笑いを収めた流花は、一息ついてから言った。

「じゃあ、私帰るね。またね!」

 流花は、思い切り駆け出した。


 流花が住んでいる古いアパートに着き、バックから鍵を出して部屋の中に入った。

 真っ暗な部屋に明かりをつけると、テレビが置いてある畳の部屋には布団が敷きっぱなしになっていて、小さな台所には使ってそのままの食器が散乱していた。

 帰ってくるといつもの見慣れた風景だが、思わずため息が漏れる。

 流花は、自分の部屋に行った。

 窓を閉め切っていた為、部屋はもわんと蒸し暑かった。

 窓を空け広げ、扇風機をかける。     エアコンは、母親が使っているテレが置いてある部屋にしかない。

 流花はシャワーを浴びに、浴室に向かった。

 母親はずっと、夜の仕事をしていた。

 ここ数年小さいながらも、自分の店を持ち、店の「ママ」になり、若い女の子を雇って仕事をしていた。

 流花と母親は、完全にすれ違いの生活をしていた。

 ズボラで放任主義の母親だが、流花の学費は母親が毎月出していた。 母親が何をしようが、流花は一切文句を言わなかった。

 シャワーを浴び終え、浴室から出て来た流花は自分の部屋に入った。

 部屋の中は、少しは涼しさを感じられた。

 流花は扇風機の前で四つんばいの格好をして、扇風機の風にあたっていた。

 そのまま仰向けにひっくり返り、畳の上で大の字になった。

 流花の視線が、いつも大学に持って行く大きなカバンに付けている防犯ブザーのキーホールダーに止まった。

 防犯ブザーのキーホールダーをじっと見つめていた流花は、起き上がると充電をしていた携帯を取り出し、マスターに電話をかけた。

 流花はマスターに、過去に数回しか電話をかけたことがなかった。

 マスターは、携帯にすぐ出た。

「夜遅く、すみません。今、大丈夫ですか?迷惑……でしたか?」

 マスターの言葉に流花は、安心して続けた。

「夏休み前の課題が、やっと終わりそうで嬉しくて、電話をかけてしまいました」

 マスターの労いの言葉に、流花は笑顔になった。

「これで、心置きなく夏休みが過ごせます」

 マスターが、夏休みに何をするか聞いてきた。

「特に予定はないけど、バイトでもやろうかな。明日、ネットで探してみようかな」

 そこまで言った流花は、思わず声を上げた。

「本当に?良いんですか?じゃあ、その日は、絶対空けておきます!私も、楽しみです

 マスターも、嬉しそうに応えた。

「はい、わかりました!マスターおやすみなさい」

 流花は、携帯を切った。


 寝室で静かに眠る大門を見届けたマスターは、寝室のドアをそっと閉めた。

 マスターは自分の寝室に戻り、ベッドに腰掛け、ベッドの上に置いてある目覚まし時計を見た。

 時間は、夜の十一時。

 布団の中に入ろうとした時だった、目覚まし時計の隣に置いてある充電器にささった携帯の着信音が鳴ったのは。

 携帯を充電器から外すと、待ち受け画面には、流花の名前が表記されていた。

 マスターは、慌ててベッドに座り直して携帯に出た。

 夜遅く電話をかけて謝る流花を、安心させるようにマスターは言った。

「大丈夫ですよ。流花が電話をかけてくるなんて、珍しいですね」

 夏休み前の課題が、やっと終わりそうで嬉しそうな流花だった。

「課題、お疲れさまでした。夏休みの予定は、ありますか?」

 夏休みをバイトで過ごそうと言う流花に、マスターは言った。

「まだ詳しいことは決まっていませんが、お盆の何処かで大門が友達家族と遊園地に出かけます。その日、ボク達も何処かに出かけませんか?」

 想像以上の流花の喜びに、マスターの表情がほころんだ。

「ボクも楽しみにしています。行きたい所があったら、言ってください。電話、ありがとう。おやすみ」

 マスターはそっと携帯を切った。

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