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はじめまして。

ド素人のとまとです。

1週間に1話は上げていきたいと思います!

温かい目で応援してもらえたらと嬉しいです(^^)

空は、突き抜けるような群青色だった。


さっきまで見上げていた代◯木公園の、薄曇りの空とは明らかに違う。

鼻を突くのは、排気ガスの混じった都会の風ではなく、鼻腔の奥がツンとするほどに濃い、濡れた土と見知らぬ草花の芳香だった。


「……ねえ、パパ。ここって………。どこ?」


レジャーシートの上に座り込んだまま、母・まこがポツリと呟いた。

その膝の上では、一歳の息子・統太(通称とっくん)が、状況も分からず「あー、うー」と機嫌よく拳をしゃぶっている。

父・ヒロトは、呆然と立ち尽くしていた。足元には、食べかけのサンドイッチとキンパ、デザートに林檎が入ったタッパとバスケット。

目の前には、新宿のビル群ではなく、中世ヨーロッパの映画から飛び出してきたような、重厚な石造りの街並みが広がっている。

所々に見える看板や立て札に書かれた見たこともない文字。

歩いている人々の中には、可愛らしいフワフワな毛並みの尻尾や耳を生やした獣人であろう存在がいる。

あきらかに現代の日本や外国のものではない装飾の服装。


「どこ、かと言われれば……どこかの外国だと言いたいところだけど、……どう見ても……異世界、だよね?……」


ヒロトが乾いた声で答えると、まこは「やっぱり?」と、まるで夕飯の献立を確認するかのような軽いトーンで返した。


「いや、『やっぱり?』じゃないだろ!まこちゃん!、僕たちは今、神隠しか、それとも流行りの異世界転移に巻き込まれたんだよ?!」


「驚いてるわよ。ほら、見て。心臓バクバク。でも、とっくんが笑ってるし、パパも五体満足だし。落ち込んでお腹が空くより、次どうするか考えたほうが生産的じゃない?」


まこはよいしょ、と立ち上がると、お尻についた砂を豪快に払った。この底抜けの明るさが、団家のエンジンだ。


「……まあ、確かに、そうだね」


ヒロトは苦笑し、自分たちの置かれた状況を整理しようと周囲を見渡した。

二人がいるのは、巨大な石壁に囲まれた広場のような場所だった。

周囲には、さっきの獣人の他にも、マントを羽織った男や、腰に剣を下げた女たちが、奇妙な生き物——馬にしては角がありすぎる——が引く荷車と共に通り過ぎていく。

その時だった。ヒロトの右手が、唐突に熱を帯びた。


「うわっ、なんだこれ!?」


見れば、ヒロトの手の甲に、幾何学的な光の紋章が浮かび上がっている。

それと同時に、脳内に機械的な、しかしどこかユーモラスな声が響いた。


『——ファミリープラン・ライセンス、認証完了。メインユーザー:ヒロト。スキル【万物創造・極】を展開します。なお、配偶者および扶養家族には【全状態異常無効】および【愛されし者の加護】が付与されました』


「……万物、創造?」


ヒロトが何かに導かれるように、傍らにあった崩れかけの石壁に手を触れた。


「修復」


念じた瞬間、石壁が意志を持っているかのように組み替わり、数秒後には、滑らかな曲線を描く立派な「ベンチ」へと姿を変えた。


「パパ、今の何!? 異世界あるあるのスキルとやら!? まさかチート的なやつなの!?」


「わかんないけど……これがあれば、ホームレス生活は回避できそうだ」


ヒロトは自分の手を見つめ、震える声で笑った。

日曜大工が趣味で、壊れた家電を直すのが得意だった彼に、とんでもない「チート」が授けられたらしい。


だが、感動に浸る暇はなかった。


「おい、そこの不審な格好の奴ら!」


野太い声が響いた。振り返ると、銀色に光る鎧を身にまとった兵士たちが、槍を構えてこちらへ走ってくる。


「ひえっ、不審者扱い!?」


「そりゃそうよ、パパ。その得体のしれないロゴ入りのTシャツ、この街じゃ目立ちすぎ!」


まこが統太を抱き上げ、ヒロトの背中に隠れる。

統太は相変わらず「ばーぶ!」と声を上げ、向かってくる兵士たちに無邪気な笑顔を振りまいた。


「怪しい者ではないんです! 私たちはただの、迷子の家族で……!」


ヒロトが弁明しようとした瞬間、先頭を走っていた兵士が、統太と目が合った。

殺気立っていた兵士の顔が、一瞬でとろけるように緩んだ。


「……っ、なんて……なんて愛くるしい赤子だ……。この清らかな瞳……。天使か? 天使が降臨したのか?」


「へっ?」


兵士たちは槍を下ろし、あろうことかその場に膝をついた。

これこそが、統太に与えられたスキル


【愛されし者の加護】


あらゆる敵対心を無効化し、周囲を「推し活モード」に変えてしまう、団家最強の防衛システムだった。


「ああ、愛くるしい天使よ……。して、このような場所で何を?」


「ええと、その……私たち、お店を開く場所を探していまして。家族三人で」


まこがここぞとばかりに、営業スマイルで割り込んだ。

「お店?」と兵士が聞き返す。


「そうです。主人が何でも作りますし、私は美味しいお茶を淹れたり、美容関係やスイーツも作りますっ。そしてなんと言っても、この子が看板息子です!」


まこの言葉に、兵士たちは顔を見合わせた。


「そうだったのですね!ならばこの天使のために、最高の場所を提供せねばなるまい。幸い、ギルドの隣の空き家が……」


トントン拍子に話が進んでいく。ヒロトはまこの適応能力に感心しながら、握りしめた右手の熱を感じていた。

異世界、チート能力、そして愛する家族。

これから始まる生活は、きっと一筋縄ではいかない。だが、この三人なら、この石造りの街を「マイホーム」に変えられる。

しかし、ヒロトはまだ気づいていなかった。


彼らが案内されたギルドの空き家——そこには、前住人が残したとされる「開かずの地下室」と、この世界の根幹を揺るがす「ある秘密」が隠されていることに。


「さあ、パパ! 団家異世界支店、開店準備よ!」


まこの元気な声が、異世界の空に響き渡った。


足元では、統太が不思議そうに、石畳の隙間に咲く光る花を掴もうとしていた。


その花の蜜が、不自然なほど赤い光を放っていることに、まだ誰も気づいていなかった。


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