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20.新しい家族

 サナがレオを生んだ年に、サナが23歳、レンが30歳、カナエが4歳だった。丸一昼夜苦しんで、なかなかお腹から出てこないレオに、サナは痛みで息も絶え絶えだった。初産なので経験したことのない痛みが、夜通し続く。苦しみに苦しみ抜いている間、レンはずっとサナのそばにいた。

 小さなカナエも内心、サナが死ぬのではないかとものすごく怖くて、レンとサナのそばを離れられなかった。

 痛む腰を摩り、浮腫んできつい脚を揉み、出産まで一睡もせずに立ち会ったレンとカナエは、生まれてきた皺くちゃな小さな小さなレオに、サナと三人で号泣してしまった。

 それだけ苦しい思いをしたのに、医者が告げた言葉が、レンには信じられなかった。


「安産で本当によろしかったことで」


 魔術で戦うことも恐れないサナが、死ぬほど痛いと一昼夜苦しんで、ようやく産んで、消耗し切って気絶するように寝ているのに、母子共に無事ならば安産ということになる。領主の出産は『安産』だったという言葉が広まれば、それを盾に、すぐにでも仕事に引き戻そうとする何も理解していない輩がいて、セイリュウ領でも叔父以外に味方がおらず、必死で15歳のときから領主として政治を行ってきたサナは、休む間もなく、領主として引きずり出される。

 一睡もせずにサナのそばにいて、お産を全部見ていたからこそ、レンの判断は素早かった。


「サナさんは、出産で死にかけた。分かったね? 死にかけたと。それで、回復までは短くても一ヶ月は安静にしとかないかんとよ?」


 物凄い迫力で医者に詰め寄ったレンに、医者は頷くしかなかった。

 死にかけたという噂で、周囲に心配はかけたものの、サナは一ヶ月何もせずに、赤ん坊にお乳だけあげて、他のことはレンや使用人に頼んで体を休めたおかげで、回復も早かった。

 女の領主はこれだから役に立たないとか、出産如きで休むなど領主としてなっていないとか、コウエン領の元領主やモウコ領の元領主を筆頭に、頭の硬い男どもがセイリュウ領領主の名を貶めようとしていた。それに関しては、カナエがレンと共に同じ時期に生まれたローズの第一子、ユーリのお祝いに駆け付けたときに、魔術が暴走したふりで吹っ飛ばしておいた。

 そういうことがあったので、第二子のレイナのときも、レンはサナに一ヶ月の休息をとらせた。


「上のひとが休まな、下のひとは休めんけんね。ゆっくり産休を取るのが当たり前になったら、サナさんの功績やからね」

「ほんまに、うちは果報者やわ」


 大事にされていると、サナが涙ぐんでいたのをカナエはよく覚えている。

 レンがどれだけサナを大事にしていても、周囲はそうではない。レイナが生まれたら言われたのが「三人目は?」だった。

 出産は良いイメージが先行するが、どの時代も、どれだけ医学が進んでも、命懸けである。

 次々と子どもを産む機械のようにサナが扱われたことに、レンは激怒して、「うちには、カナエちゃん、レオくん、レイナちゃんの三人、もういます」とはっきり答えた。それ以降、サナが妊娠の兆候を見せたことはなく、レンもカナエ、レオ、レイナの三人で満足している様子だった。

 レオが14歳になった夏休みに、サナとレンから重大発表があった。


「実は、赤さんができたんや!」

「レオくんもレイナちゃんも大きいし、もう赤ちゃんはと思ってたけど、サナさんのお腹に来てくれて」


 23歳でレオを産んだサナは、37歳になっている。夏休み中に誕生日を迎えるので、出産する頃には38歳になっているが、初産でもないし、産めない年でもない。高齢出産になるので危険は伴うが、授かった命を、レンもサナも諦める気は全くないようだった。


「お母ちゃんのお腹に赤さんが……!?」

「お父ちゃんとお母ちゃん、ラブラブやもんなぁ。大陸にはしばらく行かれへんなぁ」

「カナエが研究過程を卒業したら、レオくんと預かって、旅行に行ってきても良いのですよ?」


 その頃には、赤ん坊は3歳近くにはなっているだろう。

 年の離れた妹か弟が生まれることに、あまり抵抗がなかったのは、ラウリのところに一昨年の終わりにミルカが生まれているからだろう。ローズとリュリュの夫婦は途切れなく妊娠と出産を繰り返して、六人の子どもを作っているが、サナはローズのように産んですぐに職務に戻れる体質ではない。


「ローズ女王陛下は、産まれたらすぐに乳母に預けて、職務に戻りますよね。おばさんと、何が違うのでしょう?」

「鍛え方ていうたらあかんのやろうけど……体質が違うんやと思う。ローズ女王はんは、テンロウ領と同じ北の人種やろ? うちは、セイリュウ領の東の人種や。北の人種の方が体が大きくて、出産も軽いひとが多いんやて」


 特に、サナは南のコウエン領の大柄なレンの子どもを産むのだから、出産がどうしても重くなってしまう。体も小柄で細身のサナと、体型の近いカナエは考え込んでしまった。


「カナエも、赤ちゃんを産むときに大変なのでしょうか?」


 想定している相手はレオで、14歳の時点で既に体付きは父親のレンと変わらない。レンが15歳までに急激に伸びたと言っていたから、もう一年は伸びるのだとすれば、レンを超えてしまいそうなくらいレオは大きかった。


「俺が大きいから、カナエちゃんを苦しませるんか!?」

「そうとは限らんっちゃけど、カナエちゃんもお産が重い可能性はあるよね」

「赤ちゃん……」


 まだ膨らみの目立たないサナの着物の帯を、カナエはまじまじと見つめてしまった。

 悪阻のあるサナのために、食べられるものを作ろうとレオは厨房で張り切るし、レンはサナが仕事を休む間にできるだけそばにいるために、工房の仕事の割り振りを始めた。サナが出産で休んでいる間に、代理を務められるように、カナエもサナについて領主の仕事を学び始めた。

 夏休みは、新しい家族のための準備に追われて、あっという間に過ぎ去っていった。遊ぶ計画も立てていたが、それよりも産まれて来る赤ん坊がカナエには楽しみでならなくて、レオも同じく弟か妹が増えるのを楽しみにしていた。


「うち、自分より小さい子とか、想像もつかへんわ」


 末っ子のレイナは、口ではそう言いながらも、サナのそばをべったりと離れず、食べ物や飲み物に気を配ってくれていた。


「弟やろか、妹やろか」

「レオくんのところも、弟妹が増えるんですね」

「いいなー。私も、お父さんたちに、もう一人引き取ってもらおうかなぁ」


 夏休みが終わって、魔術学校に通うためにテンロウ領の王都の別邸に戻ると、ラウリとナホも祝福してくれた。特にラウリに関しては、次々と妹たちが産まれた上、昨年には弟も産まれているので、詳しいお世話の仕方などを聞けた。


「乳母車も良いものができていますし、抱っこ紐にもおんぶ紐にも使えるものもありますよ」

「レオくんが小さい頃には、カナエも小さかったので、使えなかったのです」

「赤さんってこれくらいやろか?」

「間違いなく、サラちゃんより軽いからね?」


 うっとりと練習するように足元の丸々と太ったスイカ猫、サラを抱き上げるレオに、ナホが的確なツッコミを入れる。ナホやラウリは、レオやレイナをサナが産んだ時期に、ナホの父のイサギとエドヴァルドが差し入れていて、お乳の出が良くなったという蕪マンドラゴラを畑で育て始めていた。

 毎日丸々と太っていく蕪マンドラゴラと、週末に帰るたびに大きくなるサナのお腹。

 秋の祭りが終わって、年末の試験を終えて、冬休みに入った頃が、サナの出産予定日だった。ナホとラウリに持たされた蕪マンドラゴラを連れて、レオとカナエは帰省する。

 予定日も間近になって、サナは仕事を休んで、出産に備えていた。


「お母ちゃん、俺も立ち会ったらあかん? 俺のときはカナエちゃんも立ち会ったんやろ?」

「私も、ええやろか?」


 真剣な眼差しで問い掛けるレオとレイナの兄妹の姿に、カナエはレオが産まれる前のことを思い出していた。実子が産まれてしまったら、もしかすると自分は要らなくなるかもしれない。どれだけサナがカナエを次期領主にすると言っていても、赤ん坊の顔を見れば気が変わるかもしれない。

 心配は、レオが産まれて吹き飛んだ。

 レオはレンに似てとても可愛かったし、泣くたびにカナエがサナやレンに教えて、おむつを持っていって、眠らないでぐずっているときにはベビーベッドの隙間から手を差し込んで撫でるとよく眠って、「カナエちゃんがおらなあかんわ」とまで言われるくらい、カナエは必要とされた。

 小さなレオの存在が、揺らぎそうになっていたカナエの家族の中の地位を、確かなものにした。


「お母ちゃんが泣き叫んでも、ドン引きせんでな?」

「お産は大変なもんやて、俺も知っとるわ」

「うち、なんでもするさかい」


 手伝うから言って欲しいという兄姉に望まれて、赤ん坊は産まれてくる。


「仕方がないから、カナエもお手伝いしてあげるのです」


 お母さん。


 呼んだカナエに、サナの黒い目が見開かれて、潤んだ。

これで第二章は終わりです。

引き続き、番外編をお楽しみください。


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