12話 天才のヒラメキ対智将のひらめき。。
12話 天才のヒラメキ対智将のひらめき。。
ジリジリ、、暑い。。
蝉の鳴き声が余計と、暑く感じさせる。
だが、野球の試合をしていると、そんな暑さは気にならない。
きっと、アドレナリンが出ているからなのか、
集中しているからなのか、
この暑さには、流石の七瀬も堪えていた。
何しろ、プロ野球はナイターが多いし、ドーム球場も多い。
夏の甲子園を経験しているとはいえ、七瀬の記憶からすると、12年前の話だ。
しかし、堪えていたとはいえ、集中はしている。
勝つ!
この事の為だけに、七瀬の野球人生は存在している。
2回の裏も三谷中学は0点。
未だに両チーム無得点だった。
3回表 東名中学の攻撃。
7番丹羽から始まる打順だが、三者凡退に打ち取られた。
相変わらず、カットボールを引っ掛けたり、差し込まれたりだった。
3回裏 三谷中学の攻撃。
こちらも相変わらず、ピッチャー和田に球数を多く投げさす作戦だ。ランナーを1人出すも無得点。
序盤、3回を終わって両軍無得点だった。
両チーム共、序盤3回で点が入らないのは市大会で初めてだった。
しかし、膠着状態ではなく、これから何かが起こる、、
そう予感させる両軍無得点だった。
4回表 東名中学の攻撃。
監督の間宮は、ここで円陣だ。と言い、七瀬に円陣の指示を出した。
中腰で輪になる東名中ナイン。
しかし、その輪の中心にいるはずの監督がいない。
ジーと待つナイン。。
『またか、、、、』
全員が全員、心の中でそう思った。
仕方がないので、七瀬が口を開く。
「あのピッチャーが投げてるボール、みんなには分かるか?
あれはカットボールだ。」
山之内が驚いたかのように話す。
「カットボール?プロでも投げれるのってあんまりいないんじゃ、、」
黒柳も続く。
「どんな球だっけ?」
ここで七瀬は説明する。
「カットボールはストレートが少し曲がるだけ。変化球とは言えないぐらい、バットに当たる直前にちょこっと曲がる感じだな。それが、内側か外側か、どっちに曲がるか分からないけど、基本インコースは食い込んでくる、アウトコースは外に逃げる。そんな感じか、」
和田が続く。
「でも、普通は球が速いと捉えにくいけど、球が遅いからな。、」
和田もピッチャーなので、カットボールは分かる。
しかし、相手ピッチャーの林の球は遅いので、意図的に曲げてるとは思わなかった。
山之内が話す。
「確かにいつでも打てそうだけどな。どうすればいいんかな。」
七瀬が答える。
「まあ、手としてはバスターだな。大振りを続けたら、打てそう打てそう、でいつのまにか試合が終わる。それなら、引きつけて強くミート、そんな感じでこの回いったらどうだろう。」
間宮は「よし!それで行こう!」と言い、円陣はとけた。
全員が思った。。
『あんたがなんか言え。。』
円陣を組み終わった直後、1番加藤がセカンドゴロでアウトになっていた。
2番大谷。
早々にバントの構えをする。
これを見た近藤は、「仕掛けてきたか。」と呟いた。
コーチが何か指示は?と聞いたが、いや相手の出方を見てからでいいでしょう。と答える。
林、1球目。
アウトコースだ!
大谷はバントの構えから、バットを引いて打とうとするが見送った。
「ボール!」
『へーこれがカットボールか、カットっていうより、ストレートの投げ損ない、シュート回転してるだけみたいだ、、」
2球目!
大谷はまたバントの構えだ!
今度はインコース!
バットを引いて振りに行く!
ゴン!
鈍い音がしたが、打球はサード後方にフラフラと上がる!
サードバック!ショートも追う!
が、ポテンと落ちた!
「フェア!」
ボールはヒットゾーンに落ち、打った大谷は1塁にストップした。
ヒットだ!
湧きあがる東名中ベンチ!
近藤は、「バスターか、、」と呟いた。
3番和田。
和田もバントの構えだ。
七瀬の次に期待のかかるバッターだ。
近藤は、バントはないと思い、内野にゲッツー体制をひかせた。
1球目。
大谷と同じく、アウトコース!和田はバットを引く!
が、打たない。
「ストライク!」
今度は、ストライクに入ってきた。
和田は頷きながら、自軍のベンチを見る。
2球目!
またアウトコースだ。
カキン!
打った!
ボールはゴロで1、2塁間へ!ボテボテだ!
しかし、飛んだコースが良かった。
セカンド追いついたがどこにも投げられない!
オールセーフ!
ワンアウト1、2塁で七瀬に打順が回った!
間宮は、七瀬に、「お前はバスターじゃなくてもいいからな。」
と耳打ちした。
対する近藤。
ピンチで七瀬!
近藤は、この展開だけは避けたかった。
さあ、どうするか、、
敬遠は避けたい。
まだ同点で、塁にランナーを埋めたくなかった。
七瀬が打席に入る、、が、次のバッターの山之内が七瀬に問いかける。
「おい七瀬!ヘルメットが違うぞ!」
七瀬は山之内に、「大丈夫。」と言いながら、軽く右手を上げた。
!!
左打席用のヘルメット??
近藤は、その光景を見ていた。
そして、すかさずタイムをかけ、内野陣に伝令を出す!
七瀬は、左打席に入ろうとしていた。
七瀬はスイッチヒッターではない。
左打席で打ったこともない。
それでも、この打席は左打席に入った。
その意図は??
それは、七瀬の天才級のヒラメキだった。
1打席目、、
振りの鋭い七瀬の打撃。
硬式の打ち方は、バットに当たった瞬間、振り抜くというより押し込む。重い硬式球をより遠くに飛ばす為、当たった瞬間に更に押し込むのだ。
その打ち方を軟式球ですると、ボールが潰れて打った打球がおじぎをする。
そして、1打席目は超スローボール。
勢いのないボールに対して、硬式の打ち方、押し込むと余計とボールは飛ばない。
それでも、フェンスギリギリまで飛ばした七瀬。
近藤は、フェンスギリギリまで飛ばした七瀬に対して、驚いていた。
その近藤の意図を、七瀬は理解していた。
それならば、、
右打席で飛ばないなら、力の入らない左で打てばよい。
まさに、逆転の発想。
天才七瀬のヒラメキだった。
対する近藤。
ベンチから伝令を出した近藤は、内野手だけではなく外野手もマウンドに呼んだ。
審判が急かすように、マウンドのすぐ近くで見ているが、近藤は御構い無しで時間をかけさせていた。
ここが勝負の分かれ目、、
近藤も、帝都大岐阜で修羅場をくぐり抜けた男。
この、勝負勘はさすがである。
通常の倍をかけて、伝令が作戦を伝えて輪がとける。
そして、その直後信じられないモノを見る事になる。
これには、自軍のコーチはおろか、観客席、東名中学ベンチ、
そして七瀬までも驚いていた。
近藤が、七瀬が左打席に入った瞬間にひらめいた作戦だった。。




