13話 尊敬する先輩。。
13話 尊敬する先輩。。
『王シフトか!!』
七瀬は驚いた!
と、同時に近藤のこの指示の速さに、尊敬の思いも抱いた。
『田舎の中学野球で、こんな体験させてくれるとはな、帝岐出身なだけはある、、』
【王シフト】それは、プロ野球史上最強のホームランバッター、
【世界の王】が、打席に立った時の奇策、守備シフトだ。
サード、ショート、レフトが通常の守備位置に就かず、極端にセンターからライトへ守る。
つまり、左打席から見ると、反対方向のレフト側がガラ空きだ。
七瀬が驚いたのは、それだけではない。
ランナーは1、2塁にいる。
王シフトは、ランナーがいない時に発揮する。
元々、【世界の王】を打ち取る為にひかれた守備陣形ではない。
王にプレッシャーを与える為だ。
林がマウンドを馴らしている時に、七瀬はタイムを取り打席を外した。
右打席に入るつもりではなかった。
『面白そうだ、、』
そして、何より近藤の挑戦を受けてやろうと思っていた。
何しろ、相手も帝都大岐阜の先輩だ。しかし七瀬は帝岐史上最強チームの4番というプライドがある。
先輩になんか負けられない!
このプライドが、七瀬を右打席にいかせない。
七瀬は打席を外して、昔、資料で読んだ記事を思い出していた。
『確か、王さんは意地になって引っ張っていたな、、1回だけサードにバントして、誰もいないレフトへ転がってツーベースになったとか、、』
七瀬は、引っ張るか流すか迷っていた。
改めて、守備陣形を見る。
サードだけは、サードベースにいる。
セカンドランナーがいるから、流石に盗塁を阻止するためだろう。
セカンドベース右寄りにショート、そしてセカンド、ファーストは1塁線寄り、、
これでは、引っ張ったらゴロで間は抜けない。
レフトがセンター付近。右中間にセンター、、これも外野にフライが上がったら捕られる。
『うーん、、まあ、いいや。どうせインコースだろうから。』
そう思い左打席に入った。
林、1球目!
ビュッ!
アウトコースだ!
外に軽く曲がる!
「ボール!」
『ん?外??』
『そうか、インコースにスローカーブなら、俺が打席の位置を下がればど真ん中になる、、それはない、、なら、インコースにカットがセオリー。引っ張ってアウトが狙い、、だが、、コントロールミスか、?』
林が2球目を投げる。
!!
アウトコース、、だが高い!
「ストライク!」
『入ってたか、、』
七瀬は意図が分かった。
『流して、ヒット狙いならOK、、ってことか。引っ張るなら、、アウトコースだからな、、あんなに守ってたんじゃアウトだな、、』
七瀬のこの意図、、
実は、半分合ってて半分意図が違っていた。
近藤の意図、、
正直、王シフトには何の意味もなかった。
相手に考えさせる。それだけで充分だった。
問題は、左で本当に打てるのか、、
それを確かめたかったのだ。
もし、左でも打てるスイッチヒッターなら、インコースは危険だ。思いっきり引っ張られる。
しかし、急な思いつきで打てない左打席に入ったのなら、、インコースしか打てない。体から近いところはまぐれでも当たる。
そう考えると、アウトコース勝負をするしかなかった。
流して、ヒットならOK。2点止まり。。
この試合のプランはあくまで4対3で勝つ。
完封など考えていなかった。
もちろん、王みたいに、王シフトでアウトコースを引っ張ってくれたら、アウトの確率が高くなる。
2球投げて、ワンエンドワン。しかし七瀬は振らなかった。
この、2球を見ていた近藤だが、流石にスイッチヒッターかどうかは分からない。。
3球目!
またアウトコース、だがスローカーブだ。
七瀬振りにいく!
キン!
しかし、体勢が崩れながらのミートで、サードベンチ側にファウル、、。
この打席を見た近藤は、、
『これは、急造だな。七瀬君は左では打ったことが無い!』と気付いた。
4球目!
またもやアウトコースにカット!
七瀬、体勢を崩れながらも3塁観客席にファウル。
5球目!
またもやアウトコースにカット!
七瀬今度も、サード側にファウル!
だが、体勢は崩れなくなっており、段々とミートしてくる。
七瀬はあくまで流し打ちをしようとしている。
近藤は、
『流石の七瀬君も、王さんの真似は出来ないか、まあ当たり前か、、』
と思った。
王は、王シフトでも、問答無用で引っ張っていた。
6球目!
またもやアウトコースのカット!
今度は、しっかり捕らえた!
ジャストミートだ!
フォームも完璧!
打球はレフト線へライナー!
しかし、ファウル、、
ワンボールツーストライク。
近藤はここで、キャッチャーにサインを送る。
それを見たキャッチャーは、林にサインを送る。
7球目!
またもやアウトコースのカット!
七瀬見送る!
『ボール!』
ツーボールツーストライク。
近藤またもやキャッチャーにサインを送る。
8球目!
これもアウトコースだ!
スローカーブで来た!
これは、やや体勢が崩れた七瀬、、
キャッチャーは、三振だ!と思ったが、七瀬辛うじてファウル!
近藤は呟いた。
『恐ろしい、、あれは左打ちでも当てれない。普通なら空振りだっただろう、、しかし、、、』
近藤は、またキャッチャーにサインを出す。
『しかし、、それも伏線だ。この1球で仕留める為の、、』
9球目!
ビュ!!
!!!
ここに来てインコース!
しかも、今日1番のストレート!
速いストレートだ!
だが、、高い!明らかにボール!
釣り球だ!!
七瀬は振りにいっている!
近藤は、「よし!」と叫んだ!
キン!!!
打った!
「なに!!?」
打球はライトへ!
外野の3人がボールを追いかける!
近藤は、「嘘だろ!?」と叫んで、1塁ベンチから飛び出して打球を見る!
打球は、、
フェンスを越えた!
スリーランホームラン!!!
湧き上がる東名中ベンチ!!
七瀬は、バットを置いて、ファーストに走り始めた。
がっくりする林とキャッチャー。
近藤は、しばし呆然としながら、七瀬の走る姿を見ていた。
『なんて事だ、、あれだけアウトコースに伏線を張って、今日1番速いストレート、、それをインコース高目に投げたら、必ず振ってくる。高目の釣り球だ、、空振りするだろ、、普通、、』
ダイヤモンドを1周回って、ベンチに引き上げる七瀬。
チームメイトが駆け寄る!
そして、和田が喜びながらも七瀬に文句を言う。
「左打った事ないやろ!長いわ!ファウルばっか!」
七瀬は恐ろしい事を口にした。
「ああ、初めての左打席だから、ファウルで練習してたわ。」
それを聞いた、和田とチームメイトに、、
「嘘付け!カッコつけ!」
と総ツッコミを入れられた。
七瀬は、ベンチに座って相手ベンチの近藤を見ていた。
そして、尊敬出来うる人だ、、と思った。
守備シフトや、投球の攻め方ではない。
ピッチャー林のコントロールだ。
この打席、失投はおそらく一度もない。
そして、何より投球フォームにクセがない。
よくここまで鍛えてきたな、、
と感心と尊敬を抱いていた。。
4回の表
3対0。
東名中学は3点を先取した!




