E6 パールカラーにゆれて
俺とドーラ、イサさん、アンは部屋を出て車に向かった。
今から帰ればお城で昼食がとれるだろう。
「お待たせ」
車のドアに鍵は掛けていなかったが、ジュリーたちは外で待っていた。
「内緒の話は終わりましたか?」
「ああ、帰ろうか」
「道中、お気をつけて」
「ありがとうございます、御師さん」
ここには瞬間移動で何時でも来られる。
食料が手に入ったらまた届けてあげよう。
「ノリ!早く続きを見よう!」
「はいはい」
帰り道も車内はビデオ上映会だ。
往路と異なるのはジュリーが運転席の真後ろに座り、一言も喋らずに外を見ている。
「ジュリー、乗り物酔いしたのか?」
「・・・いえ」
「窓を開けるか?この車は天井も開くんだぞ」
「・・・大丈夫です」
いつもニコニコしているのに元気がない。
乗り物酔いでなければお腹が痛いのかな?
「ジュリー、体調が悪いんだったら俺が回復魔法をかけてやろうか?」
「・・・大丈夫です」
「それにしては元気がないな。俺に気を使わず頭が痛いとか、お腹が痛いとか言って良いんだよ」
「・・・」
「レディ・マリア、一ノ瀬殿には思いのうちをハッキリ伝えた方がいい。一ノ瀬殿は・・・少しばかり気が利かないから」
「セーラはハッキリ言うなぁー!」
気が利かない奴とか、相手の気持ちが分からない奴とは、若い頃から散々言われてきたが面と向かって言われると腹が立つ。
「・・・分かりました。ノリユキさん、ハッキリ言います」
「どうぞ」
「ノリユキさんが『魔族』との戦争を終わらせれば父や兄、弟以外に私の婚約者が帰ってきます」
「へー、ジュリーにも婚約者がいたんだ」
「この国の貴族は生まれたときに親が結婚相手を決めるんだ。私の婚約者もそうだ」
「ふーん」
「・・・今まで戦争から生きて帰った者はいませんでしたから、私はお婿さんを取って家を継ぐ男の子を産まなくはなりませんでした」
昔、会社の後輩が『男の子が欲しいから産科でもらっている』と言っていたが、この世界でも「産み分けゼリー」があるのか?
「しかし、私はノリユキさんと同衾してしまいました。婚約者が帰ってきたときに何と思われるか・・・。きっとふしだらな女と蔑まれてしまいます」
「気にしなければいいんじゃない?」
「それに・・・もしノリユキさんが戦争を終わらせられなかった場合は私は一人きりになってしまいます」
「戦争を終わらせられないって、俺が魔王に殺されちゃうってこと?」
「はい。そのときには私は未亡人になってしまいます」
未亡人なんて言葉は久しぶりに聞いた。昔のエッチな映画のタイトルにはよくついていたが。
「俺が戦争を終わらせても、終わらせなくてもジュリーが不幸になるってこと?」
「・・・はい」
「じゃあどうすりゃいいのよ?」
「ノリユキさんがロール家のお婿さんになって、私たちの領地を、私たちの国を守っていただければ・・・」
「セーラやコーメ、その他の若い女の子はどうするの? 俺が戦争を終わらせれば、みんな幸せになると思うよ」
「そ、それは・・・」
「一ノ瀬殿、もういい」
金髪さんが話を止めた。
「ここでそんな話をしたところで結論はでないだろう。城に帰って王様やロール侯爵を交えて話し合った方がいい」
「そうだな」
関係者一同を集めて意見交換をした方がいい。
ここは俺が司会者になりブレインストーミング法でアイデアを集めて、魚の骨図を作り問題の解決を図ろう。
ホワイトボードと付箋紙をプラムに用意させるか。
「ジュリーは俺が上手くやろうが、できなかろうがどっちに転んでも良いように魔王との会談に一緒に行くと言ったのか」
「・・・はい。自分勝手な言い分ですみませんでした」
「謝らなくてもいいよ」
「はい・・・」
そうか。
ジュリーもいろいろ考えているんだな。
「ノリ、それよりこの四角いパンはなんだ!?」
「お!食パンマ◯登場か」
「どう捏ねたらパンが四角くなるんだ?」
「パン生地を発酵させて四角い金型に入れて焼くんだ」
「なるほど。でも四角くする意味はあるのか?」
「薄く切って間にハムやチーズなんかを挟んでサンドイッチにしたり、フレンチトーストにしたり・・・あ、バゲットでも作れるか」
昨日、プラムが作ってくれたクラブサンドもバゲットで作っていたし、パンを四角く整形する理由ってなんだろう?
「うーん、俺が思うにパン工場で量産しやすくするためじゃないのかな? 四角いと荷車にも乗せやすいだろ?」
「なるほど。パンを量産か」
「長いオーブンにベルトコンベアで金型を流して焼くんだ」
「ふむふむ、面白そうだな」
ドーラも何か思いついたようだ。
「戦争が終わったら工場を作って人を雇って、そんでもっていろいろな製品を安く供給できる体制を整えようか」
「そうだな。それがいい」
城下町を抜け、お城の跳ね橋を渡る頃にはお昼になっていた。
車を東屋の隣に停め、金髪さんと雛の荷物を下ろすと全員で俺の部屋に行くことにした。
「ノリの部屋は瞬間転移魔法じゃ入れないんだよな」
「いいから歩いて行こうよ」
瞬間移動で皆を連れて跳んでも良かったが、ドーラと一緒のときはなるべく歩いて移動しようと思っている。
「昼食後に王様と会いたいんだけど、何処に行けばいいのかな?」
「私が王様にお伝えしておきます」
「悪いけど頼むよ」
「はい」
雛は剣、盾、防具をつけたままお城の中へ走って行った。
電話が無いということはちょっとした用事でも会いに行かなければならない。
お城には内線電話が欲しいな。
「エリックさんにも会いたいんだけど」
「分かりました。御爺様を連れてノリユキさんの部屋に伺います」
「よろしく頼むよ」
「はい」
ジュリーも小走りでお城の中へ行った。
「俺たちも走ろうか?」
「一ノ瀬殿、急いでいないのに廊下を走るというのはいかがなものか」
「急ぐんなら走るより瞬間転移魔法の方が早くないか?」
「いや・・・歩こうか」
お城の庭から俺の部屋までは歩いても大して時間はかからなかった。
「プラームっ!今、戻ったぞ」
「お帰りなさいませ、一ノ瀬様」
「お昼御飯は用意できているか?」
「はい。本日はロール卿から差し入れを頂きまして、パンに挽き肉を焼いたものを挟んだサンドイッチとポテト細切りにして揚げたものです」
もしかしてハンバーガーとフライドポテト?
「皆の分もあるかい?」
「ございます。此方の部屋でお召し上がりになりますか?」
「あぁ、6人分を用意してくれ」
「畏まりました」
俺の部屋のリビングで6人が食事をするには少し狭いが、俺は書斎の机で食べればいい。
ドーラはどかっとソファーの真ん中に座り、金髪さんは防具を脱いでから端に座った。
「で、ノリはいつ魔王のところに行くんだ?」
「明日にでも行ってみようと思うけど、やっぱりアポを取ってからの方がいいかな?」
「アポってなんだ?」
「アポイントメント。相手先との会合の約束を取り付けることだ」
「戦争中なんだし、いきなりで構わないんじゃないか?」
ドーラは無礼だから、戦争をしていなくてもいきなり訪れるのだろう。
「いや、アポを取ってからにする。手紙でも書けばいいだろう」
「その手紙は誰が届けるんだ?」
「郵便屋さんなんていないんだろうな」
「特使でも出すか? いきなり魔王に殺されると思うが」
「ドーラが瞬間転移魔法で届けてくれないかなぁ」
「えー、やだよー。面倒くさい」
「王様に相談するか」
コンコンっ
誰かが部屋のドアをノックをしているが、プラムが対応してくれる。
「はい」
「エリック・ライラ・ロールだ」
プラムが俺をチラッと見たので頷いた。
先に誰が俺の部屋に来るのか言っておけば良かった。
「どうぞ」
「うむ」
エリックじいさんとジュリーが連れ立って部屋に入ってきた。
「エリックさん。昼食の差し入れ、ありがとうございます」
「がははははは、此方の世界でも上流階級になると昼食を食べるからなー」
「どうぞおかけください」
「がははははは、ジュリーも座れ」
「はい、御爺様」
プラムがエリックじいさんが差し入れてくれたハンバーガーとフライドポテトをワゴンに乗せ部屋に入ってきた。
コーヒーの良い香りもする。俺の預けたコーヒー豆を使ったな。
「どうぞ」
「がははははは、このコーヒーは良い香りがするな」
「砂糖もミルクも入れずに飲んでみてください」
「美味しいです」
「よかった」
俺も飲んでみたがいつもよりも濃い気がする。
プラムに渡したコーヒー豆は3~4回分だけだからこれでお終いか。
「プラム」
「はい」
「コーヒー豆はこれでお終いだな」
「いえ、増やしました」
「増やした?」
「魔術師に依頼してコーヒー豆を増やしていただきました」
「は?」
言っている意味がわからん。
コーヒー豆を増やすとはどういうことなのだろう?
「ドーラ」
「なんだい?」
「今、プラムが俺の渡したコーヒー豆を魔術師が増やしたって言っているんだけど・・・」
「あぁ、そんな魔方陣があったなぁ」
「何それ?」
「物質複製魔術って奴だ。簡単なモンならいくらでも増やせるぞ」
「マジで!?」
そんな便利な魔方陣があれば燃料タンクに残っている軽油を増やしてもらおう!
「プラム!」
「はい」
「その魔術師は液体も複製できるのか?」
「コーヒーやビールと言った物は試したことがありませんが・・・」
「飲み物じゃなくて燃料だ」
「燃料ですか? 魔術師に聞いてみないと判りかねます」
「あとで軽油を渡すから増やせるかどうか、魔術師に聞いてみてくれ!」
「畏まりました」
もし軽油が増やせなくても、美味しいコーヒーは何時でも飲めるようになったので良しとしよう。
「さて、婿殿。ジュリーから簡単に話は聞いたが・・・」
エリックじいさんが口を開いた。
「婿殿は結婚はするが当家に婿には入れないと?」
「はい。私はひとりっこで先祖からの墓を守らねばならないのです」
「元の世界に戻れると思っているそうだが?」
「はい」
「うーむ。それで、ジュリーを嫁にもらうために魔族との戦争を終わらせると聞いたのだが・・・」
「はい。私が終わらせてみせます」
「どうやって?」
「魔族は人を全て滅ぼせば自分たちが元いた世界に戻れると思って戦争を始めたと聞いています。だから、元いた世界に戻りたい奴を戻せば良いのではないかと思っています」
「なるほど」
エリックじいさんは顎を手で摩りながら何かを考えている。
「うーん、ではこの結婚は・・・ワシは益々(ますます)賛成じゃ」
「はいっ!」
「でも御爺様、戦争が終われば私の元婚約者も国に帰ってきます」
「がははははは、その婚約は破棄じゃ!」
「そ、それでは・・・」
「ジュリー、考えてもみろ。婿殿がこの戦争を終わらせられれば『英雄』だ。『英雄』がワシの義理の孫になるんだぞ、素晴らしいではないか!」
「そうですが・・・マクラグレン伯爵家にはなんと申し上げれば・・・」
「がははははは、それはワシと王様で話を付ける。それにトーマスならすぐに他の女が嫁に来るだろうから、心配はいらない」
「それでは、私はノリユキさんのところにお嫁に行ってもいいんですね?」
「もちろんじゃ!がはははははは」
案ずるよりも産むが易しというが、このエリックじいさんに任せておけば万事上手くいきそうな気がする。
「それよりも俺の嫁になることはジュリーの希望なのか?」
「はい」
「本当に良いんだな?」
「はい」
「そのトーマスに惚れていたんじゃないのか?」
「うーん、実は会ったことは1、2回で、それもまだ幼い頃なのでよく存じ上げない方なのです」
「へ?」
「がははははは、ジュリーが生まれたときにワシがマクラグレン伯爵と話をして決めたことじゃ。ワシもトーマスがどんな若者に育っているのか知らん!」
「へ、へぇー」
貴族とはこんなものなのか?
平民の俺にはよく判らないが、ジュリーがいいっていうんなら嫁に来て貰おうか。
年の差が29歳だから『夢が実現する』のベースの人と同じになっちゃうな。




