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彼がそれほどまでに研究所に居たくない、ということは知っていたが、シャルは苦い表情を浮かべずにいられない。
「いいのかよ、それで」
「……オレが行くのが一番いいだろ。どっちにしろ、ウイルスに冒されたバンボルを全て廃棄してしまうのに、どれくらい時間がかかるのかわからない。廃棄しながらも新たなバンボルを作らないといけない労力を考えてみろ、初期化した方がよっぽど速い。……オレは元々、この業界、上の奴らのせいで無理やり居させられてるんだ。首切られても痛くはねぇし、養うべき奴もいねぇから今までの給料で十分生きていける。……お前らじゃ、そんな訳にはいかないだろうよ」
トレートルを抱えあげながら話す彼の表情は、至って真面目なものだった。シャルはそんな彼に、眉を寄せるようにため息をつくことしか出来ず、トレートルは二人を交互に見つめて首をかしげる。
フェネアンはトレートルを下に降ろすと、再び会議室のドアに向かい始めた。それを追いかけようとして振り返るが、それを察したのだろうフェネアンに制止されてしまう。
「オレはもう一回、他の研究所の奴らに……クソ共の指示とは別の指示を出してくる、確か今日、アレが届く日だったよな? オレの分を回収して来てくれ」
「あ、あぁ。白衣な、……もう一つ聞くぞ、アン」
「なんだよ」
「お前、移動手段はどうするつもりだ? セントラルまで行くんなら、空港からが一番だが……」
「乗らねぇよ」
「車はもちろん」
「誰が、あんな鉄の塊を使うかよ。一生遊べるだけの金積まれても、使わねぇ」
平然と言い切る彼に、シャルはがっくりと肩を落として床に頭をつけた。フェネアンはきつく眉を寄せ、眼鏡を合わせなおすと再びドアに体を向ける。
「それに元々、ある程度時間をかけてセントラルには向かうつもりだ」
「? なんでだよ。こんな騒ぎ、サッサと収拾したほうがいいだろ」
「あぁ、そうだな。だけどその前に、お前らの負担軽くしてやろうってんだ。……あとでお前たちにも同じ指示を出す、石頭に何言われても、後でオレにぶっ殺されるからこうするしかねぇ。って言い張っておけ」
フェネアンの不敵な笑みに、シャルはそれ以上突っ込むことは出来なかった。そうしていると外の人々に指示を出し終えたのだろう他の職員たちが戻り、ニヤニヤと笑みを浮かべているフェネアンをわずかに避けながら椅子に腰を降ろす。
「えっと、アポートルさん。これからどうすれば……」
「お前らはこれからオレが出す指示に従っておけばいい、絶対あのクソじじいに屈するな。……オレは明日からしばらくここを離れる、もし万が一、どうしようもねぇ事案が出た時は電話して来い」
と、先ほど外してポケットに入れたばかりのインカムを再び耳に着け、会議室を後にしたのだった。




