2-5
その後フェネアンは職員たちに一つの指示をし、トレートルの手を取ると研究所を後にした。家に帰ると即座に荷物をまとめ始め、新しい白衣に腕を通す。
「ん、長さも良いくらいだな」
「……えっと、お膝の下くらいまで、ありますけど……」
「いいんだよ、どーせ包帯代わりに破いていくんだ、最初っから長い方が便利だろ。ガキ、お前は荷物か何かないのか」
トレートルはフェネアンを見つめたまま、無言だった。その間にもフェネアンは研究所の職員カードやクレジットカード、着替えをいくつかバッグの中に詰め込んでいき、余ったスペースには煙草の箱と飴やガムなどの菓子を詰め込んでいく。
「おい、ガキ」
振り返ってみると、キョロキョロと家の中を見回し、本棚に陳列する本を手にしてみたり机の上に置かれているコンピュータを覗き込んでみたり、実に好奇心旺盛な子供のようなことをしていた。
「トレトル」
「………」
「トレートル!」
「はい」
ようやく、トレートルは反応を見せた。フェネアンは額に手を置き、息を長く吐き出しながらその子を見る。
「お前はなんか、荷物はねぇのか」
「特にありません」
「そうか、なら色々弄らず大人しくソファにでも座ってろ!」
勢いよくソファに向けて指を突き出すと、トレートルは大人しくそちらに向かい、腰を降ろした。ユラユラと体を揺らしながらフェネアンを見つめるその目に、彼は小さく舌打ちをすると、片手で楽に扱うことができる大きさのコンピュータを最後にバッグの中に入れて床の上に放る。自然に、胸ポケットに手を伸ばすが、それを止めると飴玉を一つ口の中に入れた。
「おいガキ、いるか」
トレートルはまたも反応せず、相変わらずフワフワとソファの上に座っていた。フェネアンは長いため息をつき、トレートルの頭の上にガッシリと手を乗せ、彼に視線を合わせて座る。
「おいトレトル、オレがガキと呼ぶときとトレトルと呼ぶときは、お、ま、え、を、呼んでいる時だ。解るか? トレートル」
キョトンとし、何度かまばたきをすると、トレートルはコクコクとうなずいた。それを見てフェネアンも納得したような表情を浮かべ、子供の体を抱え上げるとそのままベッドに放り投げる。トレートルは抵抗もなくベッドの上で体を跳ねさせ、フェネアンを見上げた。
「明日の朝、ここを出る。もう寝ろ」
「えと、アポートルさんは?」
「ガキを床に寝かせるほど腐っちゃねぇよ。適当に煙草呑んでから寝るから、先寝とけ」
そう言ってトレートルに毛布を投げつけると自身は煙草を咥え、外に向かうのだった。




