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リコルド  作者: 夢野 幸
二部 第七章 使えるもんは使うだけさ
74/97

7-1

 朝日がまだ頭を覗かせ始めた頃、小柄のキャリーバッグを引き、書類やタブレットなどを突っ込んだバッグを肩にかけてフェネアンは家から出て来た。すでに唇には煙草を咥えており、職員カードとクレジットカードがキチンと入っていることを確認すると長々しいため息をつく。


「さぁて、セントラルまで一週間……頑張るしかねぇよなぁ」


『お前はここのところロクに休みもしないで仕事をし過ぎ、所長会議にはオレが代理で行くからお前は子供たちの相手をしておけ』

 

 珍しく眼光を鋭くさせたシャルに胸倉を掴み上げられ、目を丸くしたのはつい昨日の話だった。加えていた煙草をうっかり落としてしまい手の甲に負った火傷の痕を恨めしそうに見つめ、再び大きなため息をもらす。 

 パルフェの一件のせいで自身の仕事が増えてしまい、最近は家に帰る間ももったいないようにしてコンピュータと向き合っていた。当然睡眠時間が減り、それに比例するように食欲も減っていく。

 他の職員に仕事を割り振ればここまでなかったのだろうが、自身が勝手にした行動、勝手に決めた処分の結果増えた仕事を、別の者に負担させたくはなかった。そうすると自分が頑張るしかない、と思っていただけなのだが。

それが、小姑トレートルだけではなくパシリシャルの気にも障ったらしい。

 

 真夜中だというのに半ば追い出されるように研究所を後にし、仕方なく帰路についた。

 そして家に着くなり、気が付いたのだ。


『ガキの面倒を見るよりも、所長会議に出る方がよっぽどマシだ』


 ということに。


 それから遠出の支度を始めるのは早かった。下着と上着を数着、小型のコンピュータ、タブレットの充電コード。空いている隙間の半分には煙草を、残り半分には非常食を詰めた。

 ようやく終わって出発できたのが、つい先ほどの話だ。どうやらトレートルは研究所に泊まってしまったらしく、今回は助かったと胸をなで下ろす。


「……このまま出て行ったらすっげえ面倒か……書置きして電源おとして行こう……」


 言われそうな小言、叱責の嵐は容易に想像できた。そのことにげんなりしながらもフェネアンは一度家に戻り、適当なメモ用紙に一文書いてタブレットの電源を落とすと今度こそ家を後にする。

 ――セントラルまで、今までと同じように行っていたら二週間はかかってしまうのだ。

 ほんの少しの時間も惜しむよう、煙草の煙を肺に満たしながらも、フェネアンは歩き始めた。


 オイレまでを夜通し一晩で行き、寝る間もなくすぐに乗れる高速船に乗り込むとリベルラ港で仮眠を取り。一番早い船に乗り込むとそのままツィカーデまで一日波に揺られた。

 シュランゲでは以前お世話になった家族に頼み、馬車でレザール港まで一晩で行ってもらった。この時点ですでに四日、ほぼ寝ないで移動をしていたせいか、おじさんから眠るように促され死んだように眠る。食事はどうしていたのかと尋ねられ、道中歩きながら非常食や飴玉を口に放り込んでいたと答えればこっぴどく怒られてしまった。そして、以前約束していたドライフルーツを、食べられるだけ食べなさいと渡してくれた。

 そしてランケからヴィンデに二日かけて歩き、予定通り七日目には、セントラルに着いていた。

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