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リコルド  作者: 夢野 幸
第六章 ~Side フェネアン・アポートル~
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3


「フェネアンさん、今日も通信機がつけっぱなしです」

「だから、お前には話しただろう。辛気臭い声を聞きたくない、そのためにはタブレットがいつでも通信状態であってほしい。通信機をつけっぱなしにしていると連絡がこっちでしか取れないから必然的にそうなる、とな」

「その辛気臭い声って、一体なんなんですか」

「お前にゃ関係ない話だ」


 丸三日つけられているモニターに、トレートルは苦言を漏らした。だが部屋の主はそれをバッサリと斬り捨て、手元の書類を険悪な表情で睨みつける。

 目の下に刻まれているクマは彼の表情を五割増しで険悪なものにしており、彼の周りにはシャルとトレートルしか寄り付かなかった。

 つまりは、彼の凶悪な表情を「見慣れている」人だけだ。


「だってフェネアンさん、夜も寝れてないじゃないですか。ボク知ってるんですよ、夜中にお仕事の電話だったり、他の電話で起きているの」

「とうとう、オレのタブレットの履歴まで見るようになったのか。夜中って言ったらお前は充電中だろうが」

「ボクがフェネアンさんの体調を管理しなかったら、誰がするんですか!」

「保護者かお前は!」


 濃く淹れたコーヒーを片手に、新しく来た依頼や今手元にある企画、納期が近いバンボルの資料の山に次々と目を通していた。あっという間に空になるコップに新しくコーヒーを注いでやりながら、トレートルは頬を膨らませる。


「フェネアンさんがキチンと管理をしないからです」

「るっせぇ」


 机の上に無造作に置いていたタブレットから音楽が流れ始め、フェネアンはコップからコーヒーがこぼれるのも構わず叩き付ける様そこに置くと、即座に受けた。

 汚れそうになっている書類を慌てて片付け、机を拭いているトレートルの頭を軽く撫でると頬をかく。


「すまん、トレ。もしもし、こちらファルケ研究所……はい! そうですか、本当に!」


 この三日間寄りっぱなしだった彼の眉が緩み、凶悪な表情が一変して晴れ渡った。

 どうやら最近の電話は他人に聞かれたくないらしいことはすでにわかっているので、机の上を拭き終えるとドアの鍵を閉めに行った。普段ならば電話に出る前に自分も払われてしまうのだが、今日はそんな余裕もなかったようだ。

 ならば堂々と居座り話を聞いてやろうと、トレートルはフェネアンの膝の上に悠々と座り込んだ。そんなことすら気にせず話を続ける彼に、よほどの朗報が入ったのだな。と少しばかり、自身の表情も柔らかくなるのが判る。


「色々と無茶ばかり言ってしまい、すみませんでした。うちのバカ野郎には、くれぐれも何も言わないでくださいよ。気にされたら面倒くさい、私が勝手にやったことなんですから」


 声調は明るくても、その顔には疲労が浮かんでいた。無意識だろうか、ポンポンとトレートルの頭をなでながら、緩く目を閉じる。


「……わかりました。まぁ訳も判ってないから不安なのも解りますが、何の相談もせずてめぇ一人で悩んでた罰だ。ってことにしておいてください。……ありがとうございました」


 いい返事が聞けたのだろう。フェネアンは礼を言うと電話を切った。トレートルを降ろしてフラリと立ち上がり、モニターの前に立つ。


「グラン、グラン。いるか」

『いるよ、フェネアン。……ひっどいクマじゃないか! きみね、ただでも目にハンディキャップを背負ってるんだから、もっと気をつけないとダメだろう! それで、どうしたの? 通信を繋げたまま全然顔も見せないで』

「……サンキュ。用は全部終わったよ、三日も悪かったな、通信を繋げたままで」


 疲労を隠そうともしないままに呟き、髪の毛を解いた。クシャリとかき上げると緩く頭を振り、長いため息をつく。7


「顔を見せなかったのは、欠けてるやつのフォローに走りまわってたせいで、ずっと繋げてたのは今そいつの声を聞きたくなかったからで。だけど、あいつ、ちゃんとオレの指示通りに動いてて……。あぁ、何て言ったらいいんだろうな。とりあえず全部終わったみたいだ。いい結果で、終わったみたいだ」


 言いながらフラリと体を泳がせ、そのままドカリと椅子の背もたれに深々と寄りかかった彼に、渋い顔をしていたグランもそれ以上の苦言を漏らせなかった。半ば閉じかけている瞼にため息を漏らし、トレートルに視線を向ける。


『トレ君、たぶんフェネアンはこのまま寝ちゃうから、通信を切れるかな? あとはそっとしておいてあげてよ。……またこの子は、一人で頑張っちゃうんだから』


 肩をすくめながら言う彼の目は、父親の様だった。トレートルは返事をするとグランの指示通りに通信を切り、フェネアンのタブレットに手を伸ばす。

 ロックを解除してみたが、着信などは何もないようだった。夜中ならば履歴までのぞき見たのだが「終わった」ことに気が抜けたのだろう、静かな寝息を立て始めている彼を休ませるため、電源を切ると足音を殺してドアに向かう。


「……グランさんがうらやましいです」


 心に残るモヤモヤを振り払うよう頭を振り、静かに廊下へ出るのだった。


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