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「フェネアン、お前……」
「何だ」
「自分の表情の凶悪さと背丈と声の低さと、自覚あるか?」
研究所の中を会議室に進みながら、シャルは苦笑していた。フェネアンはそれに目を細めて煙草の灰を灰皿に落とす。
「知るか」
「あのな、お前な、人より背が高いのよ。こう、人ごみにいたら一人だけ頭がポコッと飛び出てるくらいには。そんで声は低めだし、目が良くないせいでもあるんだろうけど……どっかの刑務所から出て来た凶悪犯か! ってくらいには目つきが悪いんだよお前! どうすんだ、さっきので心臓止まる奴出てきてたら!」
「となりの地方じゃゴロゴロいるサイズだろうが、てめぇらが小さいんだよ」
ピクリと眉を動かし、フェネアンは自分より下にある頭へ視線を向けた。抱える子供は未だ目を覚まさず、時折、筋肉のけいれんか何かで指が動かなければ死んでいると思ってしまっただろう。小さいくせにずっしりと重い体に、腕に力を再度込めると白衣のポケットの中から何かを放る。シャルはそれを慌てて受け止めた。
「ほらよ、お前んとこのチップ。……とりあえず外の連中はなんで騒いでた、あと石頭の指示はなんだ」
「お、おう。サンキュ。……必須条件が破損したバンボルは、廃棄しなければならない。ってルールがあるだろ。だけど自分たちにとっては大事なものだから、修理をしてほしいって。所長からの指示は、マニュアル通り廃棄しろ……って」
「こんだけの数をどうやって廃棄して、どう処理しろってか? とにかく今いる奴らを部署関係なく会議室に集めろ」
フェネアンはそのまま会議室に向かい、シャルは彼の指示に従って放送室へ向かった。会議室にたどり着くころシャルの声で放送が鳴り響き、フェネアンは机の上に足を放り投げるよう椅子に腰を降ろすと、子供を自分が座ったイスのそばにある、壁際のソファの上に寝かせる。
その子供の上着には細身のベルトが通っており、背後の腰辺りにはチェーンにつながれた、水晶のような球体がぶら下がっていた。それを掌にころがし、顔を近づける。
「何だ、これ……?」
「アン、とりあえず今研究所の中にいたメンバーは全員集まったぞ」
シャルの後ろからぞろぞろと会議室に入って来る職員たちに、フェネアンはとりあえずその子供と球体を放って置き、机に向かう。
「……今回の騒ぎだが、コンピュータウイルスの伝染だと思う。このままじゃ世界中のバンボルがお陀仏だ」
「アポートルさん、ウイルスの伝染とはどういうことです。なぜバンボル通しでウイルスが」
「てめぇ研究所で働き始めて何年目だ、脳内すっからかんかアホ」
話を遮り、フェネアンは鼻で笑うと会議室にあるプロジェクタを操作し、コンピュータを開いた。そこに画像が映し出され、自身のタブレットとコンピュータをつなぐと何かの図を書きはじめる。
「まずバンボルの外身。これは研究部が購入者に依頼をされるか、てめぇら研究部で企画を立てるかしてどうすれば希望通りに動くのか、どう骨格を組み立ててどう命令を出せばどんな動作が出来るようになるのかを設計図に書き下ろす。それからその設計図は技術部に流され、実際に作ってみる。まぁほとんどの場合夢空想で来る設計図だから、技術部の奴らは苦労するわけだが」
挟まれたフェネアンの嫌味に、技術部の職員はいっせいに小さく頷いた。研究部の職員は眉を寄せて苦い表情を浮かべるが、フェネアンはそんなことをお構いなしに一体のバンボルが出来るまでの過程を図面化していく。
「そんで出来たバンボルの外身に『頭脳』を入れるのが、オレ達プログラマーだ。……つってもセントラルにある、全ての地方の研究所を総括している中央管理室の連中が元々作り置いてるプログラムをそのまま入力するだけだけどな。……バンボルの外身が違えば、同じプログラムでもそれなりに違いが出来る。
……無論、バンボル通しで会話も出来る。が、今回はこいつが仇となった」




