1-1
「さて、フェネアン・アポートル職員。きみがなぜ所長室に呼ばれたのかは分かっているか?」
「知ったこっちゃねぇよ」
向かい合うソファの片方には額に血管を浮かび上がらせ、顔を青くし、肩を震わせながらテーブルに両肘をついて組んだ手を顎に押し付けるよう座っている男性が居た。彼は声をも震わせながら、正面にいる、白衣を着崩した男性へ問いかける。
「アポートル職員」
「新人のあいさつ回り前にちゃんと教育しておかねぇのが悪いんだろーが。ちょっと灰皿借りるぞ」
無遠慮にテーブルに置いてある灰皿へ手を伸ばし、胸ポケットから煙草を出すと返事も聞かずに火をつけた。吐き出される紫煙は二人の間を漂い、霞に消えていく。
濃い茶に金色のメッシュが入った髪をキュッと後ろにまとめて縛り、前髪はピョコンと跳ねさせていた。小さめの丸眼鏡を筋の通った鼻の頭に乗せ、白衣の裾は破れ放題破れさせている男性――フェネアンはソファの背もたれにふてぶてしく寄りかかると足を組み、済んだ空色の瞳で局長をにらんだ。クッと口の端を上げ、煙を吐き出す。
「さぁて、これで被害者は何人目だろうな?」
「いい加減にしてくれないか! 毎回毎回、ちょっとしたことで騒ぎを起こすな。私の立場も考えてもらいたい!」
「オレはお袋にもらったこの名前、響きだけは気に入ってんだよ。……女性みたいな名前ですね、なんざ言われて黙っていられるか」
「だからと、何も知らん新人に回し蹴りを食らわせることはないだろう!」
「そりゃあ新人に何にも話してねぇてめぇらの不手際だ」
フェネアンは短くなった煙草を灰皿に押し付け、新たに咥えなおすと立ち上がった。気怠そうに首を鳴らすと肩を回し、ドアに向かう。
「アポートル職員、話はまだ終わって」
「クビにしたきゃサッサと切れや、人が出した辞表を散々突っ返しやがって……。上の方針かどうか知らねぇが、オレは親父の二世になるつもりはサラサラねぇ。そんで、このスタンスを変えるつもりもねぇから、お前らが合わせろ」
吐き捨てるように呟き、フェネアンは煙を揺蕩え(たゆたえ)ながら、加減も知らずにドアを閉めていった。
研究所の外に向かい、日の当たらない壁際に背を預けてしゃがみ込んでいると、影が顔にかかった。視線だけをそちらに向け、頭を掻く。
「よ、アンちゃん」
「シャル、てめぇ……本日二人目の被害者になりたいようだな?」
「冗談だよ、冗談」
と、彼は煙草を吸うフェネアンの隣に同じように腰を降ろした。それから自身も煙草を取りだし、手を伸ばす。
「ライターぐらい持ち歩け」
「アンみたいにヘビースモーカーじゃないんでな。さすがに所長室でまで吸えないわ」
歯を見せるように笑い、煙草の先端を火に潜らせると静かに煙を吐き出した。それから白衣のポケットを漁り、何かを掌に乗せる。
「……お前んとこのガキ、バンボルの使い方荒過ぎるだろ。この間復元させたばっかりじゃねぇか、またそのチップいかれたのか」
「頼むよー。ほら、お前が吸ってる煙草……ルーシオだっけ、カートンで驕るから」
「二カートンな」
「マジでか。一番高い煙草だろそれ」
「ちったぁ反省しろよ。オレぐらいだぞ、こんなガラクタ仕事外で直してやんの」
舌打ち交じりにチップを受け取ると、フェネアンは煙草を地面に押し付けた。吸い殻は普段からベルトに下げて持ち歩いている携帯灰皿に突っ込み、ズボンのポケットに両手を突っ込んで立ち上がる。
「んで、今度は何の不調だよ? 外身だったらお前の専門だから、プログラム面での問題だろ」
「技術面でもお前には負けてるわ。あれだ、笑わなくなった」
「……お前んところのバンボル、確か子鬼の容姿だったよな……」
「おう、あの子鬼がニコリともせずに朝っぱらから起こしに来てみろ、心臓止まるぜ」
「いっそそのまま永眠しちまえ」
「家族が路頭に迷うわ」
そんな軽口を叩き合いながら、二人は口の端をニヤリと上げて笑い。それぞれ煙草休憩を終えるように自分の部署へと帰るのだった。




