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「本日はご乗船、まことにありがとうございます。こちらデルフ号はメーヴェ船乗り場から地下水脈を海に向かって進み、リベルラ港へ四日掛けて向かいます」
丸一日使ってメーヴェ船乗り場にたどり着き、半ば駆け込むように乗船すると、呼吸を整える間もなくそんなアナウンスを聞いた。船の中は見かけによらず広く、カプセルベッドが備え付けてある。食事処も整備されており、簡単なシャワールームさえあった。
「へぇ、潜水船なんて言うから、ちゃちいのかと思いきや……。普通の客船とあんまり変わらないじゃないか」
船の中を行きかうのは、子供を連れた家族だったり、スーツを着込んだ人だったり。トレートルも辺りをキョロキョロと見回し、フェネアンを見上げた。
「フェネアンさん、髪の毛の色も変わりましたね! みなさん茶色か黒だったのに黄色になりました」
「あー? あー……そうか、そうだよな」
と、フェネアンはバッグを開き、中からインカムを取り出した。それを自分の耳に掛けるとしばらく弄り、不意にそれをトレートルの耳に引っ掛けてマイクの長さを調整する。
「それ、つけてろ」
「どうしてですか?」
「今から別の大陸に行くからな、慣れないと気になるだろうが我慢しろ」
それだけ言うと、フェネアンはベッドに横になり目を閉じてしまった。トレートルは耳に掛けられたインカムを突きながらも、彼の隣に空いている隙間へその身を潜りこませる。
「おやすみなさい」
呟いてみるも返事はなく、トレートルは白衣に包まるようにして目を閉じた。
デルフ号は昼間の間は潜水して進み、夜になると海面に浮上して静かな波に揺られながらゆっくりと海を掻き分けていった。フェネアンは夜の間甲板に出ると、昼間に一切吸うことが出来ない分思い切り煙草を堪能する。禁煙をするつもりは全くないのに、せざるを得ないこの状況は、自身にとってはとてつもない精神的負担だ。
しかし、そう苛立ったところで、セントラルに行くと言い出したのは自分であり、愚痴っても仕方がないことも重々承知しているので思わず苦笑する。夜闇に溶ける煙は背後に流れ、フェネアンはなんとなくそれを視線で追った。
「……次はリベレ研究所の管轄地域、か。長らく会ってないな」
煙を追うついでに周りを見てみると、夫婦やカップルが多く、彼らは各々に星空を眺めていた。釣られるように空を見上げ、眼鏡に手を伸ばす。
「オレにはあの星が、あいつらと同じようには見えない……。……クソ親父が」
小さく舌打ちを漏らし、煙草を甲板に落として足で踏み消すとそれを拾い上げ、携帯灰皿に捨ててベッドに戻るのだった。
四日ぶりに地面に足をつけると、波に揺られていた影響か体がフワフワと浮いているような気がした。トレートルも同じなのだろう地面を見つめたまま体を左右に揺らしており、そんな彼の体をヒョイと抱えあげると肩に座らせる。インカムはキチンとつけているようで、フェネアンはガムを噛みながら港を後にするため歩き始めた。
「フェネアンさん、フェネアンさん」
「どうしたガキ」
「どうして肩車をしてくれるんですか?」
「今からとりあえず、リベレ研究所に向かう。……迷子になられたら探し出すのが面倒だからな」
キョトンと首を傾げ、それでもどこか嬉しそうにフェネアンの頭にしがみつくと。トレートルはキューっと目を閉じるのだった。




