第39話 血筋
帰宅した長屋は、一番にベッドへと飛び込んでいた。
「はぁ……。最近よく不審者と遭遇するなぁ……」
しかし、それは自分の特殊な環境が関係しているのだと理解もしていた。
その上で、考えねばならないことがある。
「俺は一体、どんな組織からどんな感情を向けられているんだ……」
自分の立ち位置を理解するのは、己を客観視するのにちょうどいい。
「えーと、まず思い浮かぶのは……、あの不審者か」
先ほども出会った久野という不審者。あの話しぶりからすると、どうやら30世紀政治革命時に生き残っていた皇室の子孫が36世紀まで続いているらしい。神武天皇から受け継がれた血筋を持っていて、かつ30世紀政治革命以前の政治思想を持っているのならば、大統領を引きずり下ろすという思想も理解できなくはない。
その上で、久野━━ひいては皇族と推定される高山宮家から、味方になるか敵になるかの選択を強いられている。これはつまり、長屋が潜在的に持つ政治的なアドバンテージを利用したいと考えられる。
「仮にそうだとして、俺に何を期待しているんだ……?」
一番に考えられるのは、皇族の仲間入りをするというものだ。しかし長屋の記憶にある21世紀の解釈あるいは一般常識では、男性が皇族に入るのは困難を極めるものとされる。
皇室が日本の中心にいられたのは、2000年以上続いた男系男子の血筋に他ならない。これを別の言い方をすれば、男性が持つY染色体が脈々と受け継がれてきたからということになる。ここで一度でも女系の血筋になれば、受け継がれてきたY染色体が断絶することになる。これは西洋文化圏の見解によれば、王朝の交代となる。つまり、2000年以上も続いた歴史が途絶えることになるのだ。
今は36世紀である。30世紀政治革命によって日本の王朝の歴史は途絶え、今の高山宮家の血筋はどうなっているのか不明である。しかしその血の一部には、神武天皇のDNAが刻まれているはずである。それが今の高山宮家が存続出来ている唯一の理由と思われる。
閑話休題。
「ここに絡まれたのは厄介だなぁ……」
とにもかくにも、政治的なやり取りが発生するのは間違いない。これはさすがに長屋一人の手には負えない事案だ。
そんな時、長屋のスマホにメールが飛んでくる。馬渕からだ。
『突然のメール許してちょうだい。最近、長屋君が面倒な奴らに絡まれているという報告を聞いたわ。確かに長屋君は特殊な生まれをしているから、身の危険を感じることが多いと思う。そのために拳銃を渡したのだけれど、それでも不安だったり危険を感じた時には、人類維持局の研究室の地下に来なさい。頼りになる物が置いてあるわ。では頑張って。P.S.本日から精液に提出を郵送でお願いね』
そんなことが書かれていた。
「拳銃より頼りになる物ってなんだよ……」
とにかく分からないが、最悪の時には思い出すようにしようと長屋は思った。
「そうだ、拳銃で思い出した」
長屋に対する不審者との関係で、割と面倒な部類の連中だ。
「あの新日本婦人会とかいう組織……。結構ダルそうなんだよな……」
今のところ、嫌がらせ未満のことしかされていないが、注意する分には越したことはないだろう。
「そんでもって、大統領との関係も少しあるんだったな……」
以前やってきた大統領の特使であるナナ。そしてそのバックにいるであろう大統領の存在。
このように客観的に見てみれば、なんとも面倒な連中に囲まれている長屋である。
「はぁ、どうしたものかな……」
そんな中、アプリのYYから通知が入る。とあるニュースアカウントの速報だ。
『首相公邸に大型ロボ兵の部隊が集結。大統領の承認なしで動員している可能性』
なかなかに不穏な動きが露骨に出てきていた。




