第27話 一番
とりあえず黒須の誤解というか、ちょっとしたすれ違いは解消されたようだ。
(そうすれば次の段階に移るか)
長屋は黒須に話しかける。
「茜、その件で少し話がしたいんだ」
「話?」
黒須は鼻をすすりながら、長屋のことを見る。
「そう。高崎さんの話なんだけど……」
「高崎さん……?」
瞬間、黒須の雰囲気がどす黒く変化する。
「陽介君……? もしかして、私よりあの女のほうがいいの……?」
「いやいやいや! そういうことじゃなくて……! ……もちろん一番は茜だよ」
そのようなことを言われて、キュン……とした表情で長屋を見る黒須。
(こんな女性向けゲームのキャラみたいなセリフ言うことになるなんて思わなかったな……)
とにかく、話を続ける。
「この間、高崎さんに怒鳴ってたよね?」
「あ、あれは……」
「茜としては、俺が高崎さんに取られるのが嫌だったってのが本音だと思うんだ」
「……そうなの。もしかしたらお母さんと同じようになるかもって思っちゃって……」
「俺は、高崎さんの事情も知りたい。もちろん一番は茜だ。その上で、高崎さんに関わっていきたいと思ってる」
長屋からの真剣な提案に、黒須は少々悩んでいる。
「陽介君の考えは大切にしたいとは思う。けど、私の直感というか、心の奥にある本心のようなものが邪魔している感じなの」
「なるほど……。それが茜の譲れない考えだと思う。でもすぐに変える必要はないよ。自分の信念や思想って、長い時間をかけて変化変質していくものだと思うから」
「なるほど……」
説得するように話していたら、いつの間にか説教臭くなってしまった。しかし茜は納得してくれたようだ。
「それで高崎さんの話なんだけど、正直な話、二人目の彼女にしてもいいと思ってる。俺の思いつきだし、高崎さんが可哀相とか思ったわけじゃないけど、それでも高崎さんにも譲れない思いがあると思うんだ」
先日言っていた、地頭が良くないという自白が、その譲れない思いなのだろうと長屋は推測する。
「うーん、でも……」
黒須の心は揺れ動いている。自分の信念では拒否したいのだが、長屋の考えも尊重したい。まさに乙女心の揺れ動きのようだ。
しばらく考えた後、黒須は考えを決めた。
「……分かった。陽介君がそういうなら、高崎さんを迎えてもいいと思う。私は私で酷いこと言っちゃったから、謝りたいのもあるし」
「よし。そういうことなら、明日から行動に移そう」
そういって決意を決めたところで、1階から音がする。
「ただいまー。あれ? お客さん?」
「あっ……! お母さん帰ってきちゃった!」
「え、ちょ、大丈夫?」
「分かんない……。とにかく、私が時間を稼いでくるから、その隙に陽介君は逃げて!」
「分かった……!」
こうして少々ドタバタした後、長屋は無事に黒須の家から脱出することができた。
そのままがむしゃらに走っていく。
「はぁ、はぁ……。ここまで来ればお母さんも気づかないだろ……」
そして顔を上げてみると、どこかの大通りに出ていた。
「しまったな……。あまりにも適当に走りすぎて、ここがどこだか分からないぞ……。仕方ない、地図見るか……」
スマホで現在地を調べていると、目の前に巨大な人が通り過ぎたような気がした。
「……ん?」
あまりにも異質な何かが通り過ぎたため、長屋は顔を上げる。するとそこには、迷彩柄の巨大人型ロボットが道路を闊歩していた。
「な……、なんだあれ……」
その時、近くにいた女性が話している声が聞こえてくる。
「あれ、軍のロボット?」
「そう。共和国軍の戦闘用人体拡張ユニット、11式格闘サポーターだね」
その言葉を聞いて、長屋はすぐに検索する。
『11式格闘サポーターとは、アメリカ連邦にて開発され、共和国軍も採用されている戦闘用人体拡張ユニットと称される大型ロボットである。現在の主流はパイロットが搭乗するタイプだが、人工知能による無人型の研究もされている』
ぶっちゃければ、空想の産物のようだ。
「ここに来てSFの要素出てきたな……。そういえばここ36世紀だった……」
今更ながら時代の変化を感じている長屋であった。




