第14話 通話
「はぁー……」
長屋は帰宅し、ベッドに身を投げる。そして天井をボーッと眺め、今日あったことを思い出す。
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2時間ほど前、黒須が唐突に長屋へ告白をした。本当に突然のことだったため、長屋はおろか黒須本人も困惑していた。
「えっ……と、黒須さん?
「あっ……、ご、ごめんなさい! 急にこんなこと言われても迷惑ですよね……」
黒須は見るからにしょんぼりとする。
それを見た長屋は、思わず口走っていた。
「いっ、いや! 迷惑じゃないです! その……同い年の女子から告白されるなんて初めてだから、どう受け止めればいいのか分からないけど……。でもすごく嬉しい……かな」
長屋は顔が熱くなっていくのが分かる。本来の性格ならばしないであろう発言がポンポンと飛び出してくるのだ。
(まずい、混乱してる。今すぐこの状況を打破しなければ……!)
長屋は立ち上がり、黒須に手を差し伸べる。
(えーと、まだ校内案内の途中だし、その話をしなければ……。いや、その前に黒須さんの返事をしないと……)
頭の中の思考がグチャグチャと散らかっている状態で、長屋は口を開く。
「その、お願いできますか……?」
その言葉を聞いた黒須が、ばっと顔を上げる。
「それって、お付き合いしてもいいってこと……ですか……?」
確認するように、黒須が尋ねる。
それを聞いて、長屋は気がついた。
(今の発言だと、彼氏彼女の関係になりましょう、って言ったようなものじゃん! え、ちょっと待って? 勘違いされてる?)
しかし時すでに遅し。
黒須は長屋の手を握り返して立ち上がっていた。
「あの、不束者ですが、よろしくお願いします、陽介君」
そういって、満面の笑みで長屋のことを見る。
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その後は手を繋ぎながら校内を案内され、そして現在へと至る。
「なんだか、とんでもないことになっちゃったな……」
そういう長屋だが、正直まんざらでもない感じだ。
(俺だって一人の男だ。彼女が欲しいと思っていたことは幾度もある。しかしこんなあっさりと彼女ができるものなのだろうか?)
急に哲学的なことを考え出す長屋。
(36世紀に転生してからというものの、非現実的なことが多く起きていたような気もするけど、彼女ができたことが一番現実味がない……)
そんな風にボーッとしていると、スマホに通知が飛んでくる。
『陽介君、今大丈夫ですか?』
黒須からのメッセージだ。長屋は深く考えずに返信する。
『大丈夫です。どうかしました?』
『改めてなんですけど、私たち恋人ってことでいいですよね?』
そのメッセージを読んで、長屋はなんだかむず痒い感覚に襲われる。
「あんまり良くないかもしれないけど、それは告白してくれた黒須さんにも悪いよなぁ……」
1分ほど考えた長屋は、返信するために文章を打つ。
『はい、その通りです』
長屋は黒髪と恋人である現実を受け入れることにした。
正直なところ、黒須の容姿はカワイイ部類に入る。それに後付けの理由ではあるが、黒須の引っ込み思案なところが愛おしく感じるのだ。
そこに惹かれたのかもしれないと長屋は考えた。
すると、黒須から返信が来る。
『今から電話しても大丈夫ですか?』
察するに有り余る文章だ。つまりそういうことだろう。
長屋はすぐに返信する。
『大丈夫です』
返信に既読がついた瞬間、画面はテレフォンに変化する。チャットアンドは通話も可能なのだ。
長屋は応答ボタンを押下して、通話に出る。
「も、もしもし」
『あっ、陽介君……ですか?』
「そうです」
この時長屋は、電話越しだと相手のことを意識しないらしく、あまり緊張している感じがしないことに気がついた。
それとは対照的に、黒須との会話が一旦途切れる。
(……おや? これはどうすればいいんだ……?)
長屋はこの状況を分析する。これはお見合いで無言になっている状態と変わりない。つまり非常によろしくない事は明白だ。
何か話題を出すべく、頭の中の引き出しをひっかきまわす。
だがその前に、黒須の方から声がかかる。
『その、陽介君?』
「あ、はい」
『陽介君は……、私が彼女でいいんですか?』
「……というと?」
『男の人って皆、綺麗で美人で……、すごく魅力的な女性が好みって聞いたことあるんです。私、そんなに綺麗じゃないし、美人でも魅力的でもないのに、私を彼女にしてくれるんですか……?』
(これは……、おそらく黒須さんの自己評価というものだろうか? 自分のことをこのように思っている、と……)
その時、いつも自分が36世紀を理解する━━あるいはしないようにする━━ための考えがよぎる。
「21世紀の常識とは異なる」ということ。
その考えがカチリとピースがハマったような感じがした。
(そうか……! 36世紀では男性の容姿に対する性的嗜好が優位に働いて、いわゆる美人な人が子孫を残せるという情報が遺伝子レベルで1500年に渡って保存されてきたのか! そうすると、黒須さんが容姿に自信がないと言うのも、理由として頷ける……)
そのように長屋は理解すると、反射的に口が動いていた。
「そんなことはないですよ! 黒須さんはカワイイです。自分は今の黒須さんが好きですよ」
黒須のことを励ますように、長屋は素の感想を述べる。
『ぴ、ぴぇ……』
スマホの向こうから聞こえてきたのは、黒須の悲鳴にも吐息にも聞こえる恥ずかしさ満載の声だった。
(し、しまった……! 思わず本音で黒須さんのことをベタ褒めしてしまった……! 男性に耐性のない女性がこんなこと聞いてしまったら、最悪の場合ドキドキで爆発してしまうかもしれない……!)
長屋がそんなアホなことを考え、慌てて会話を続ける。
「あぁ、ごめんなさい! いや、ごめんなさいというのはおかしいかもしれないですけど、黒須さんの気持ちを考えてませんでした、自分はこんなことポンポン言うような人間じゃないんです、ちょっと真面目な人間なもので━━」
『陽介君』
長屋の息つく間もない言葉の射撃を遮った黒須。
「え、あ、はい」
『陽介君は、私のこと、好きなんですよね?』
「そ、そうです……ね」
好意がないかと言われれば、それは違う。少なくとも長屋は黒須のことを気にかけている。それが恋愛感情であるかは分からないが。
『私も、陽介君のことが、好き。だから……』
黒須の放つ言葉に、少々緊張している長屋。
『お互い、もっと好きになれるように、いっぱいいろんなこと、しよう?』
その言葉に、長屋は思わず胸がときめいた。
「わ、わかりました……」
『あと、もう敬語じゃなくていいよ。私のことも茜って呼んで?』
「わ、分か……った、茜」
『え、えへへ……。こうして好きな人とおしゃべりするの、夢だったんだぁ……』
(ちょっとカワイイじゃん)
そんなことを思いながら、長屋は黒須との会話を楽しむのだった。




