act18 真実と真相
僕等は城壁前に至り、そして城門を抜ける。城門付近には先程の戦闘の残骸が落ちていた。
「おっ、アンナ殿、スノードラゴン退治の方はどうなりましたか?」
衛兵が問い掛けてくる。
「残念だけと、取り逃がした。申し訳ない……」
「そ、そうですか…… でも、逃がしたという事は、スノードラゴンを追い返されたという事ですよね? いやいや、流石ですな」
その衛兵はスノードラゴンの攻撃を受けて凍った右手を松明近くに寄せて溶かしていた。襲撃によりそれなりの被害を受けているようだ。
「いや、まあ、一応それなりに攻撃は喰らわせはしたげどね…… 」
本当の事は言えないので、祖母ちゃんは言葉数少なく返す。
「どんな感じの攻撃が効きましたか?」
「ああ、矢張り炎の魔法による攻撃さ、まあまあ有効なようだよ」
「おおっ、凄いです」
衛兵は歓喜の声を上げる。
「それで、領主殿にも、その結果を報告をしたいんだけど、宮殿に居るのかい?」
「ええ、大抵は宮殿に居られますよ、いやいや惜しかったな、倒してくれていたら、今後のスノードラゴンの脅威が取り払われたのに……」
「申し訳ないね、力不足で……」
「いやいや、こんな短時間で追い払ってもらえただけでも凄い事ですよ、お疲れ様でした」
「あ、ああ」
祖母ちゃんはとりあえずといった感じに返事をした。
そんなこんなで、僕等は国の中央に位置している領主の宮殿へと報告に向かった。此処へ到着した時と同様に城塞内を抜け、城の入口で門兵達に武器を預け、領主の住む四角い建物へと入っていく。
シャルフ領主は前に来た時と同様に広間でお付きの者からマッサージを受けている様子だった。
「失礼します、シャルフ領主」
改まって祖母ちゃんが声を掛ける。
「おお、君達か! 随分と戻りが早いけど、あれ、若しかして!」
シャルフ領主からは期待のこもった声が発せられた。
「あっ、いや、済みません、あと少しの所だったのですが、取り逃がしてしまいました……」
「おおっ、追い詰めて取り逃がしたんだ! 凄い、凄い、やっぱり君達は僕が予想していたように凄い人達だったんだね」
シャルフ領主は微笑む。
「それで、残念ながら取り逃がしてしまったのですが、今回の戦いを通じて今後の対策というか対応策を見出しました。私達は今後この国を去ってしまう事になると思いますが、この対応策を使えば今後スノードラゴンの脅威を抑え込めるようになるかと存じます」
「対応策?」
「ええ、対応策です。私達が去った後に対応出来るように考えたものです」
「おおっ、そこまで考えてくれたんだ。大変助かるよ。それで、僕等は今後どんな感じにすれば良いんだい?」
祖母ちゃんは少し躊躇った様子を見せる。
「出来れば、人払いをお願い出来ればと思うのですが……」
「えっ? 人払い? でも後で僕から皆に伝える事になっちゃうと思うけど、それは良いのかい?」
「でも、人払いをして頂きたくお願いいたします」
「ん、ああ、まあ良いけどね……」
そう呟き、シャルフ領主はお付きの者に部屋から出て行くように命じた。それに従い部屋にいた十数人の者達が退出していく。
その場にはシャルフ領主と妻と思われる長い白髪の美しい女性だけが残った。その女性だけは矢張り人払いの対象にはならないらしい。
「さてと、じゃあ、その対応策って奴を聞かせてもらえるかな?」
改まってシャルフ領主が問い掛けてくる。
「では、説明をさせて頂きます…… なのですが、その前にちょっとお聞きしたい事とお話したい事が?」
「聞きたい事と話したい事? 何だいそれは?」
「え~と、因みになのですが、スノードラゴンと対峙して、私と横に居る3人が激しく攻撃をして追い詰めていきました。そして、あと少しで倒せるといった所で、不思議な事が起こったのです」
「不思議な事だって?」
「ええ、なんと、スノードラゴンが私達に話し掛けてきたのです」
「……えっ? 話し掛けてきた?」
シャルフ領主は顔を顰める。
「ええ、化物だと聞いていたのに、スノードラゴンには知性があったのです」
「ほ、ほう、それは不思議な事だな」
「はい、とても不思議でした。そして、スノードラゴン曰く、自分は雪の精霊だと言うのです」
「雪の精霊だと?」
「ええ、化物ではなく雪の精霊だと言うのです。更にスノードラゴンは驚くべき事に、こう言いました。自分は此処に自分を信仰する民から捧げられた奉納物を取り返しに来ているのだと」
「…………」
「スノードラゴンの話しによると、この国の人達が奉納品を盗んでいったと言ったのです……」
「……それで?」
シャルフの目付きが冷たくなっていた。
「ええ、それで、何故、お前達はこの国の人間達の為に戦うのだ…… この国は盗賊たちが作った国だぞ…… と……」
祖母ちゃんは一度ふうと大きく息を吐いた。
「スノードラゴンが話し掛けてきていた事は一体何だったのでしょうか? 確かあたし達は、領主様から、盗賊が化物を使って襲い掛かってきた。と聞いたと思いましたが、スノードラゴンの言った事と、領主様から聞いた事は、ほぼ真逆の内容のようなのですが、一体どちらが本当なのでしょうか?」
シャルフ領主はニヤリと笑った。
「因みに、君はどう思うんだい?」
「どう思うと聞かれても、領主様を信じるならスノードラゴンを何とか倒すべきだと思いますし、スノードラゴンが言っている事が正しいならば奉納品を返すべきだと思います。そして、あたし達が考えた、今後スノードラゴンの脅威を抑え込める対応策というのは、盗んだ奉納品を返して、スノードラゴンに深く謝罪をするという事を行うという事になります。必要ならばシャルフ領主自身が奉納品を収める事も必要かも……」
それを聞いたシャルフ領主は薄く笑った。
「……白蜥蜴め、余計な事を言いやがって……」
そして顔を横に振りながら小さく呟いた。
「……つまり、君達のいう対応策というのは、僕等が盗賊団であり、精霊から奪った奉納品を返して、精霊に謝罪して、お詫びをしろって事なんだね? 僕等が悪者だとした上での対応策って事だろ? そうじゃなかったら戦い続けろと……」
「……ええ、つまりはそういう事です」
祖母ちゃんは言い辛そうに言及する。
「じゃあ、一つ質問なのだが、仮に真相が君達が言う事だったとして、君達にはそれでも敢えて僕等の為に戦ったり、協力してくれるという気持ちはあったりするのかい?」
「いや、その協力は出来ません。その場合、悪いのはスノードラゴンではないからです。先程の話が真実ならば、矢張り奉納品を返し謝罪をするべきだと考えます」
「フフフフフフ、アハハハハ……、詰まらないな、本当につまらない解決方法だね。君達を当てにしたのは僕の間違いだったようだよ、もうこの国から出て行ってくれたまえ、もう君達は僕にとって不必要な人間だよ」
少し感情的な甲高い声でシャルフは言及する。
どうやら真相はスノードラゴンの言っていた事でほぼ正解だったようだ。今やシャルフは邪魔者として僕等の事を見ている。つまり矢張りこの国は盗賊団が作った国で、シャルフは盗賊の首領なのだろう。スノードラゴンを白蜥蜴と蔑称している事からも伺い知れる。
「……解りました。短い間でしたがお世話になりました」
祖母ちゃんは静かに言及した。僕としてもこれ以上この国に残っても良いことは無い気がする。
なんか釈然としないものがあるが、僕等は頭を下げ広間を後にする。




