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3. 初夏のひがし茶屋街

 武蔵ヶ辻の交差点から25分。やっと、着いた。

 恵里佳が次に向かった場所は――ひがし茶屋街。前々からずっと来てみたいと思っていた。地元テレビ局の特集は金沢近郊のお店を取り上げる事が多いけれど、古くからの街並みが残されているひがし茶屋街はとても素敵だなといつも思っていた。有名観光地だから観光客も多いだろうな……と覚悟はしていたが、市内中心部の主要幹線道路は午後から通行規制が掛かっている影響からか、想像していたより人は居なかった。これはこれでラッキーと思った。

(……しかし、暑いなぁ)

 恵里佳は嬉しそうにスマホで街並みを写真に収めるが、自分が考えている以上に汗が出てきて困惑していた。今日は薄曇りで太陽の日差しもそんなに強くないのに。武蔵ヶ辻からひがし茶屋街まで歩いてきたから体が火照ほてっているのかな。

 メインの通りをブラブラと散策。お土産屋さんやカフェもあるなと見ている間も、止まらない汗。ハンカチで拭いても拭いても、すぐに噴き出してくる。

 色々と見て回り、今後は裏の路地に足を向ける。こっちもこっちで落ち着いた雰囲気でとても素敵な感じ。早速カメラで撮影しようとするけれど……なんだか、頭がボーッとする。

 直後――強烈な眩暈めまいに襲われた。グラッと視界が揺れたかと思うと、立っていられずに地面へ吸い込まれるように倒れ込んでしまった。幸いな事に頭や体を打ち付ける事はなかったが、それでも起き上がる事が出来ない。

 これは、ちょっとマズイかも知れない……。裏路地に人影は無く、声を出したくてものどがかすれて発せられない。スマホもさっき倒れた衝撃で遠くに飛んで行ってしまった。

 私、このまま死んでしまうのかな。あまりに絶望的な状況に、悲観的な考えが脳裏をよぎる。こんな事になるなら、お家でテレビを見ていれば良かった。いつもと違う事をしたから、こういう事になったんだ。どんどん悲しい気持ちになって、じわりと涙が瞳から溢れてくる。

 そんな時だった。

 一瞬、恵里佳の視界に何かが横切っていった。ふとそちらに目線を移すと、一匹の白い三毛猫が居た。よく見てみると、両眼の色がそれぞれ違う。毛並みやつやが良いから飼い猫にも見えるけど、首輪はしてない。

 白猫は恵里佳の周りをクルクルと回る。不思議な人間だなと思って見ているのか、それとも遊んで欲しくてアピールしているのか。どちらにしても、動けない以上は白猫の期待に応える事は出来ない。

 すると、白猫はタッと駆け出すと、一軒の家の戸を前足で引っ掻くようにバタバタをさせた。何事かと思った家の人が戸を開けると、そのまま家の前まで出てくる。白のコックシャツに黒のズボン、黒の前掛けをしている若い男性だった。年は私と同じくらい、かな?

「……大丈夫ですか!?」

 こちらを向いた男性が一瞬ギョッとした顔をすると、急いで倒れ込んでいる私の元に駆け寄ってきた。そして、私の顔を見て再び驚いた顔を浮かべた。

「新垣、さん……?」

 いきなり私の名前を呼ばれ、男性の方に顔を向ける。驚いた事に、同じ大学で同じ学部の新田君だった。学籍番号が一つ違いで席も隣同士な時もあり、面識はあり何回か言葉を交わした事もある。そんな新田君が、どうしてここに……? 言葉を発しようとするが、上手く言葉が出て来ない。

 新田君は私の様子を見て只事ではないとすぐに判断したみたいだった。

「とりあえず、中に入ろう。すぐに手当てするから」

 そう言うと私を背負って、先程の家に担いでいってくれた。どうやら、この家はレストランで、新田君のバイト先みたい。

 中に入るなり、開口一番で新田君は叫んだ。

「智美さん! 急病人です!」

 新田君の声に、店内に居たお客さんや店員さんの視線が私に集中する。視線が刺さる事に申し訳なさと恥ずかしさで、顔を背中にうずめたくなる。

 智美さんと呼ばれた女性が急いで私の所に駆け寄って来る。私の顔色や様子をざっと見て、すぐに状況を理解したみたいだ。

「……恐らく、熱中症ね。とりあえず二階の休憩室に寝かせてあげて。それから、近くの自販機に行ってスポーツドリンクを買ってきて。お金は後で払うから」

「分かりました!」

 そう言うと新田君は迷いなくお店の奥の扉を開け、階段を上がっていった。私は何も出来ず、新田君の背中は意外と大きくて頼りがいがあるんだな、と場違いながらぼんやりと思っていた。

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