表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/6

2. 初めての百万石まつり

 6月第1週の土曜日。“金沢百万石まつり”のメインイベントである百万石行列の開催日だ。

 百万石行列は、天正11年(西暦1583年)6月14日に加賀百万石のいしづえを築いた前田利家が金沢城に入城したのが由来で、大正12年(1923年)から百万石まつりの形式でお祭りが始まった。メインは先述した百万石行列だが、他にも前夜に市内の小学生による提灯ちょうちん行列や行列の夜に踊り流しなどがもよおされるなど、百万石行列の開催前後は金沢市全体がお祭りムードに包まれた。当初は入城した6月14日を金沢市の祝日として開催していたが、県外の人が訪れやすいように6月の第2週の土曜日に固定化され、その後も梅雨の時期と重なる事を考慮されて1週前倒しした経緯がある。過去には行列開催前夜に浅野川で灯篭とうろう流しが行われていたが、灯篭が燃える事故が起きてからは中止され、祭りを盛り上げる風物詩が一つ消えてしまった。

 この春から金沢の大学に通う事になった新垣にいがき恵里佳えりかは、生まれて初めて現地で見てみたいと思い、市内中心部へ出てきていた。

 恵里佳は石川県最北端の珠洲市出身で、地元金沢の大学に合格したものの自宅から通学するのは現実的に難しい事から金沢で一人暮らしを始めた。

 内気で大人しい性格の恵里佳は、入学してからの2ヶ月間はずっと自宅と大学・バイト先の三ヶ所をほぼ往復する生活だ。子どもの頃から本を読むのが好きだった恵里佳はアパートの近くにある杜の里のショッピングセンターに入っている本屋さんでバイトをし、バイト終わりに1階の食料品フロアで買い物をして帰る。接客は苦手だけど、好きな本と関わる仕事が出来て満足はしていた。

 そんな中、テレビで百万石行列に向けてムードが高まっているというニュースを目にした。百万石まつりは地元の複数のテレビ局が生中継で放送するからその存在は知っていたが、折角金沢に住んでいるのだからと外出する事にしてみた。

 恵里佳の住む杜の里から行列が通る一番近い場所は兼六園下の交差点だが、金沢駅をスタートしたパレード参加者がゴールの金沢城に入る直前のポイントになるので、かなり時間が遅くなる。その為、恵里佳は武蔵ヶ辻の交差点で見ようと思った。行列のスタートは午後2時過ぎ。多少混雑はあるだろうから少し早めに行けば大丈夫……そう考えていた。

 しかし――。

 時間に余裕を持って午後1時前に武蔵ヶ辻へ着いたのに、既に行列が通る道には場所取りのシートが幾つも敷かれていた。反対側も似たような感じで、行列を見れる場所を求めてウロウロする人も見られる。

 百万石行列一番の見せ場は、有名な俳優・女優が前田利家公・まつの方に扮して進んでいく様だが、そればかりではない。地元の伝統芸能である“加賀(とび)”と呼ばれるはしご登りや加賀地方特有の“加賀獅子かがじし”、他にも奴行列やっこぎょうれつは見ている人を魅了するし、金沢市内の学校に通う生徒による鼓笛隊やマーチングバンドは家族や親族が子どもの雄姿を一目見ようと駆け付ける。県外の観光客や近隣の住民、関係者の家族などが少しでも良いポイントで見ようと場所取り合戦が各所で行われていた。

 私は、遅かったのだ……。金沢市民の一大イベントを甘く見ていた自分の読みを後悔した。座れる場所は既になく、立ち見をしたくてもあと1時間以上ずっと立ち続けなければいけないし、トイレなどで移動した瞬間に同じ場所へ戻る事は出来ない。

 久しぶりのお出かけに、折角おめかしして来たのに。普段はファストファッション店で選んだ無難なコーデで過ごす事が多いけど、今日は実家から持ってきたお気に入りの白いワンピースに髪も三つ編みにしてみたのに……これでは気合だけ空回りしているに過ぎない。

(……これはダメみたいですね)

 ガッカリした恵里佳は、行列は見れないと諦めてトボトボとその場を後にした。せめてもの救いは、折角街中に行くのだから普段は行かない観光地へこの機会だから行こうと決めていた事だった。みんな行列に夢中の間、いつもなら人混みの観光地も人が少ないだろうと僅かな望みを託した。

 失意に打ちひしがれる中、恵里佳は次の目的地に向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ