第79話 下調べ
その日の夜。
美空はマルファが調べてくれた情報とオリビアたちが教えてくれた情報を元に、軍港への侵入経路の確認をしていた。
「確かにここからなら、死角も多いですし入りやすそうですね……」
鉄条網越しに敷地内を覗き込み、ぽつりと呟く。
それに対して、マルファが補足するように言う。
『だけど、コンテナの中身は演習で使う武器とか装備だから、明日は慎重にね?』
「分かりました」
作戦の決行は明日。
軍事演習初日で戦艦や戦闘機などが大規模に展開されるとソフィアから聞いている。作戦を実行するには絶好の機会と言えるだろう。
『その先は建物の裏手を回って岸壁までダッシュ。そこまで行けば全ての兵器を乗っ取れるはずだよ』
「私の魔法とマルファさんのハッキングなら、恐らく乗っ取り自体に時間はかからないでしょうし、そこに行くまでが重要ですね」
『私も極力サポートはするから、頑張ってね』
マルファの力強い言葉に、美空は小さく頷く。
「ええ。出来る限り魔力は温存したいので、よろしくお願いします」
そもそもこのように港にこっそりと忍び込もうとしているのも、魔力温存のために転移魔法を使いたくないのが理由だ。
作戦では数え切れないほどの兵器を操る必要がある上、数千人の兵士から自らの身を守らなければならない。さらに何か不測の事態が起きる可能性も考慮すれば、作戦開始前に魔力を消費してしまうのは少々不安があった。
脳内で侵入のシミュレーションを繰り返していると、不意にマルファが潜めた声で話しかけてきた。
『美空、誰かがこっちに近づいてきてる。多分見回りの人』
どうやら彼女は、監視カメラをハッキングして周囲の様子をずっと窺っていたらしい。
確認してみると、コンテナの奥から懐中電灯で地面を照らす光がわずかだが見えた。
「あまり長居するのは危険ですね。そろそろ離れましょうか……」
これ以上この場所に留まって怪しまれてしまっては意味がない。
美空はそそくさと物陰の暗がりに移動し、警備兵に見つかる前に撤退した。
その後は安宿で一晩を明かし、あっという間に作戦決行の時刻。
「行きましょう」
『うん』
聖暦二〇二一年七月十九日、午前十時。
大規模合同軍事演習の開始と同時、美空とマルファによる世界への叛逆が始まった。




