第69話 少女の覚悟
「カタリナさん!」
「カタリナ……!」
基地の管制塔に二人の悲鳴が重なる。
カタリナが落ちた。
この距離からでも分かる。彼女はもう助からないと。
やはり、カタリナ一人で勝てる相手では無かったのだ。
美空は茫然となりながらも、何とか冷静さを保ち次に取るべき行動を考える。
「こうなった以上は、ヴィーカちゃんは私が守らないとですね。カタリナさんは、そのために一人で立ち向かったのですから……」
彼女が無謀な戦いに挑んだのは、まだ幼いヴィーカを死なせないためだ。
ならば、その遺志は尊重せねばなるまい。
「ヴィーカちゃん」
向き直った美空は、ヴィーカの両肩に手を置いて目を見つめる。
「あの敵は、私が全て殲滅します。だから、ヴィーカちゃんはここで待っていてください」
自分なら、あの程度の無人機はいくら数が多かろうが容易に撃滅できる。
カタリナの制止を無視してでも、最初からこうしていれば良かったのだ。
これは、ヴィーカに対してのせめてもの贖罪。もちろん許してもらえるとは思っていないし、許されなくて構わない。
しかし、ヴィーカはゆっくりと顔を上げると首を左右に振った。
「ううん、ジェーブシカは戦わなくていいんだよ。カタリナはこの国を守るのが仕事で、それが務めだから」
「それは私もよく理解しています。ですが、カタリナさんはもういません。ならば、私がヴィーカちゃんを守ってあげなければ……」
その言葉を受け、ヴィーカが再び首をふるふると動かす。
「違う、ジェーブシカはずっと間違ってる。わたしもカタリナと同じ、この国を守るのが仕事。だから、守られる立場じゃないんだよ」
「っ……」
ヴィーカから向けられた目に、美空はハッとした。
十三歳の時からずっと護衛隊で戦ってきた自分と、今のヴィーカの姿が重なって見えたから。
そして、少女の真っ直ぐで真剣な眼差しには、軍人としてのプライドと覚悟が込められていて。
「わたしは大丈夫だよ。……ジェーブシカ、ここから動かないでね」
「ま、待って、ください…………」
止めなければいけない。そう分かっているのに。
管制室を出て行こうとするヴィーカを止める声は、ほとんど音にならなかった。
バタンと扉が閉まり、管制塔に一人取り残される。
心理読解魔法が使えない美空にも分かる。
ヴィーカは最終国土防衛装置を動かそうとしている。命と引き換えに。
今から追いかければきっとまだ間に合う。
ここから動かないでと言われたが、そんなの関係ない。
とにかく、自分の目の前でこれ以上の犠牲を出したくない。
駆け出した美空は、扉に手をかける。
だが、なぜか扉が開かない。
「まさか、ヴィーカちゃんは鍵を?」
いくら押そうが引こうが、施錠された扉はびくとも動かない。
早くここを出なければいけないのに。
焦りだけが募っていく。
やがて、全力を振り絞って抵抗を続けていた美空は、脱力したようにその場に座り込んだ。
そして、悔しさに表情を歪めながらぽつりと呟いた。
「大切なものを失うのは、もう嫌です……」
直後、全身が震えるような衝撃波が美空を襲う。
その数秒後、基地のすぐそばまで接近していた連邦軍の無人機は一斉に推力を失い地上に墜落した。




