第65話 連邦国軍の侵攻
「ねえジェーブシカ、あれ……!」
「分かっています。ヴィーカちゃんは急いで地上へ戻ってください」
カタリナが叫んだのとほぼ同時、ヴィーカが遠くの空を指差した。
迫り来るそれは、美空もしっかりと視認している。
意思を持たない鋼鉄の鳥。
ディクタテューラ連邦国軍の無人戦闘機だ。
旧連邦圏のユークスタン共和国は、隣国の連邦国とは長く敵対関係にある。
しかし、連邦国はなぜ今このタイミングで攻めてきたのか。
「カタリナ、大変だよ! ドローンがいっぱい飛んでくる!」
「ざっと数えただけでも五十はいますね」
地上に降りたヴィーカと美空の言葉に、カタリナは焦りを見せつつも冷静に応じた。
「きっと奴らの狙いはここを潰すことだろう。さすがに総攻撃を仕掛けられたらボクだけでは対処しきれない……」
「それなら、わたしも戦うよ! ジェーブシカと一緒にたくさん訓練したもん」
「いや、ヴィーカにはまだ早い。まずは応援を呼ぶ、それからボクが時間を稼ぐ」
ヴィーカの肩に手を置いてから、軍の本部へと通信を繋ぐカタリナ。
彼女の判断は的確だ。
いくら美空がコーチングしてきたとは言え、ヴィーカを実戦に投入するのはリスクが高すぎる。そして、あの数を相手に一人でこの基地を防衛することは難しい。
もちろん、美空が加勢すれば話は変わってくるけれど。
しばらくのタイムラグの後、ようやく本部からの返答が届いた。
『ホルム基地からとは珍しい。カタリナ大尉、どうかしたかね?』
「まさか、本部には情報が伝達されていないのか? 空襲だ。連邦国のドローンが数十機単位で領空に侵入している」
『ああ、それで?』
「それで、ではないだろう。最前線であるこの基地の戦力はボクだけだ。直ちに応援を頼む」
『応援? そんなものは無い』
ばっさりと切り捨てるようなその一言に、カタリナが表情を歪める。
だがこれは明らかに本部の反応がおかしい。
戦争中であるならまだしも今この国は平時だ。領空侵犯されている状況で応援要請を拒否することなどあり得るのか?
見兼ねた美空が、すかさずやり取りに割って入る。
「こちらホルム基地。1400アイタイムに連邦国軍機による領空侵犯を確認。レモンジュースからアップルジャックに移行。概況はカタリナ大尉の報告通りです。至急応援願います」
この国の軍に護衛隊の用語が伝わるかは不明だが、とにかく簡潔に緊急性を告げた。カタリナの階級やこの基地の名前は知らなかったが、先ほど本部の人間が言っていたので間違ってはいないだろう。
『今の声、聞いたことが無いな……。君は誰かね?』
数秒の沈黙の後、本部から当然の疑問が投げかけられる。
だが、美空は即座に答えることが出来ない。
ここで本名を名乗れば余計な騒ぎが起こり、守れるものも守れなくなってしまう。
『カタリナ大尉、そこに誰がいる?』
再度の問いかけ。今度はカタリナに回答を求めている。
すると、カタリナはちらりとこちらを見てから、ゆっくりと口を開いた。
「……ここに誰がいるかって? そんなこと、この状況で聞くことではないだろう。軍はボクとヴィーカを見捨てるつもりなのか?」




