第45話 十三歳の成人
少女曰く、この国では成人の年齢は明確に決まっておらず、人によって成人の儀式を行う年齢が異なるらしい。ただ、平均すると十六歳くらいということなので、彼女はかなり早い方に分類されるだろう。
「成人年齢が決まっていない国があるなんて驚きました。それでは、あなたには大人としての権利が与えられているのですか?」
成人しているということは、十三歳であっても大人と同等の扱いになるのだろうか?
気になったので訊いてみると、少女は首を横に振って答える。
「いえ。選挙権や飲酒は十八歳からと規定されています」
「なるほど。一応法律でその辺は明文化されているのですね」
さすがに十三歳でお酒を飲むのは身体的に良くない。それに選挙だって誰に投票すればいいのかまだ判断出来ないだろう。
あくまでこれは伝統、儀式であって、合わせるべきところはグローバルスタンダードに合わせているということか。
「……あの私、まだやることがありますので、そろそろ宜しいでしょうか?」
少女の申し出に、美空は時計に視線を向ける。
時刻は午後八時半近く。夢中になるあまり、十数分も話に付き合わせてしまっていた。
美空は慌てて頷き、口を開く。
「ええ、はい。色々お伺いしてしまってすみませんでした。では最後にお名前だけ教えていただけませんか?」
すると、少女は去り際にこちらに振り向いて。
「イーシャ・リマルです。気軽にイーシャと呼んでください」
そう言い残し、フロントの奥へと戻っていった。
夕食を済ませた後はシャワーを浴び、早々に寝る支度をした。
特にやることも無いので、まだ十時前だが電気を消しベッドに入る。
真っ暗な部屋の中、天井をぼんやり眺める。
「シェンリーさんとメイフェンさんは、元気で暮らしているでしょうか……」
姉妹の顔を思い浮かべ、ぽつりと呟く。
テンシャン人民共和国で出会い、共に逃避行を続け、シャムコン王国で別れた二人。今頃はどうしているだろうか、少し想像してみる。
学校に通えるのが楽しみだと言っていたシェンリー。沢山の友達に囲まれ、毎日勉強に勤しんでいる姿が目に浮かぶ。
メイフェンは仕事を見つけ、働いているような気がする。王室の援助を受けているのだから働く必要は無いのだが、メイフェンはとても真面目なので「何かしないと落ち着かない」とでも言って就活を始めた。ティーラシンやプロイはなかなか引き下がらなかったが、最終的には折れて渋々仕事を斡旋することに。そんな流れがあっての就職。あくまで想像の話だが、割と事実に近いのではなかろうか。
幸せな姉妹の生活を思いつつ、美空は眠りにつく。
その頃、仕事を終えたイーシャはフロントの照明を消すと、静かにホテルを後にした。




