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38話目

《154日目(9月2日)午前9時10分 残LP187》

 俺は騎士団本部に来た、市民以上が入れる場所に行くためだ。


「入館料は300ゴルです。…………こちらが入場証となります。退館の際にフロントに返却をお願いします。ではごゆっくりどうぞ」


 俺が今日来たのは騎士団本部内にある記念館だ。理由はもちろんグランドクリア絡みで、ここにあるミスリル製のプレートアーマーの近くで情報収集イベントが進行するからだ。

 記念館の中は明るかった。照明はないが、他の部屋に比べて窓が多く自然の光が多く入るようになっているからだ。俺はそこそこ広い展示場の中を歩く、騎士団の歴史が書かれていたり、伝説の武器のレプリカや偉い人の肖像画があったりといかにも博物館なのだが、ある場所で違和感察知か直感スキルが発動、見るとすぐ横にある窓からの光によってより輝いて見える、目的のミスリルプレートアーマーを発見した。


 このミスリルプレートアーマーは初代騎士団長の鎧で、現在は記念品として保管されているのだが、俺の目的はこの製作者を知ることだ。

 近くにいた職員に、この鎧はどこで作られたものかと尋ねると、


「90年ほど前にバルトシーク村の鍛冶師エリク=アプソロン氏によって作られたものです。現在は3代目の方が家業を継いでいるそうですよ」


 よし、これで条件はクリアだ。この会話によって3代目アプソロンにミスリルの採掘方法を聞くことができるようになる。もうここに用はない、さっさとバルトシーク村に行くとしよう。


 にしても、何故スキルが発動したのだろうか、別に隠されているわけでもないのに。



《154日目(9月2日)午前10時20分 残LP187》

「ミスリルか……以前採掘されてた場所はもう枯渇したんでな、在庫なんてないぜ。北の山にあるレッドドラゴンの洞窟の奥にあるとは聞いてるけどよぉ、入り口にドラゴンがいるんだぜ。……勝つ方法?俺が知るわけねぇだろそんなもん」


 3代目アプソロンのイベント終了、次はレッドドラゴンの洞窟に一番近い村のNPCに話を聞けば情報が揃う、順調順調。



「あのドラゴンはねぇ、新月の夜だけはどこかに行ってしまうのよ。でもあのドラゴンがいなくなると近くの山のモンスター達が急に凶暴になってねぇ、とっても危ないのよ。洞窟の奥には宝があるとか噂があるけど、誰も取ってきた人なんていないわ。だからあの近くにいっちゃダメよ」


 ふむふむ、新月の夜にはドラゴンがいなくなるからその隙に洞窟の奥のミスリルを掘れと。攻略本にはこのイベントを起こしてココに行けと書いてあるけど、情報の中身までは書いてないんだよな。最初から書いておいてくれれば楽なのになあ、攻略本の癖に若干不親切だ。


 次の新月は180日目、月の満ち欠けは30日で1週なのでタイミングが悪かったなと思うが今更どうにもならない。まぁ、時間はまだ余裕があるから大丈夫でしょう、多分。

 ミスリル関係の情報収集は終わったし、次は獅子像関係の情報NPCに行くかな。これくらいすんなり情報集まればいいなぁ。

 結果から話すと情報収集は全て問題なく終了した、しかしその後が大変だった。戦闘組は必要素材を狩りにいき何回か死んでしまったし俺も一回死亡した、それでも苦労して集めた材料が生産職の失敗でロストしたり。本当の地獄はこれからだったのだ。


 ちなみに俺は情報収集終了後何をしていたかというと、図鑑シリーズで得た知識を元に便利アイテム集めをしていた、いわゆる雑用である。モンスターは情報を見るだけで登録されるが、アイテムは文字の情報だけでは登録されないのでさほど意味がない。

 分かりやすくいうと、毒草や未発見の高レベルアイテムの正確な情報を持っているのは俺だけ、頭上にアイテム名が出てくるのも俺だけ、故に発見できるのが俺だけという状況。LUKも高いのでレアアイテムが出やすいおまけつきだ、おかげで危険な狩りに付き合わされることも多々あった。

 結果俺はアイテム発見回収装置になってしまい、また俺の主力であった状態異常アイテムと溢れんばかりのハイ系ポーションは最小限の数以外戦闘組に没収、じゃなくて提供したので俺の戦力は飛躍的にダウンしてしまった、その代わり強力無比な護衛が付くので問題は何一つないが。

 現在の指揮系統は俺はあまり口を出さない総責任者という存在で、各部門に適したリーダーを配置し、彼らの指示で日々グランドクリアに向けた活動を行っている。俺が指示を出さないのは大人数の指揮をやるのは好きじゃないから、というかやれと言われても無理、でき ないことはやらない。この形が現在最も効率的にグランドクリアに向けて軍団が動く形なので変更する理由はない。

 俺の目標はあくまでグランドクリア、蒼の騎士団の指揮官になることではないのだから。



《284日目(1月10日)午後1時50分 残LP17》

 日々は流れ、ラスピラズリ製の獅子の像と大吟醸悪魔殺しが完成、光溢れる喜びの歌のスキルもショーネさんが無事修得した、あと俺はラストダンジョンを探す際にも1回死んだ。残りはミスリル製の国宝級花瓶のみだが、バルドシーク村近くの広場に大規模な釜を建てて作成しており、もうあと10分で完成する予定である。

 そして花瓶が完成した翌日に、北の門の向こう側にあるラストダンジョン”黒き羊の決闘場”に挑む。このラストダンジョンは1PTで挑むダンジョンなので戦闘組の中でも最強の10人で決戦を仕掛ける予定だ。本当はもう少しレベル上げをしたいところだが、LPが残り10台のプレイヤーもいて、あと一回死んでしまえば【脱出】を使うしかなくなってしまう。それならば最強のメンバーが揃っているうちに挑戦しようとなったのだ。


 10分経って、釜が開かれた。騎士団全員が注目する中、騎士団1の鍛冶職人イザックの手の中に国宝級花瓶が、なかった。誰も言葉を発しない、しかし全員が理解した、失敗したのだと。成功率は理論上90%はあった、ただ今回は運悪く10%を引いてしまった、結果を言ってしまえばそれだけだ。

 しかし困った、これは非常に不味い。まず、すぐに2回目の製作にかかろうにもミスリルがあとわずかに足りない。次の新月まであと16日、そして製作から完成まで2週間かかるので国宝級花瓶完成まで約30日かかるわけだが実力の高いプレイヤーの半分近くはLPが30以下、つまりラストダンジョンに挑むまでLPが持たないのだ。


 すぐに緊急会議を開いた、話す議題はもちろん今後どうするかについてだ。意見は3つに分かれた、どれがいいだろうか。


A案:次の新月まで待ち30日かけて花瓶を作る、ラストダンジョンは残っているメンバーで挑む

B案:ベストメンバー10人を除いた全員でドラゴンを討伐してミスリルを入手し、花瓶を作る

C案:全員でドラゴンを討伐してミスリルを入手し、花瓶を作る


 A案ならば安全に花瓶は手に入れることができるだろう、しかしラストダンジョンをベストメンバーで挑戦できないというデメリットがある。

 B案とC案はギャンブルに近い、ドラゴンは普通のダンジョンのボスより強いと推測されている。本気で挑戦したことはないので正確な実力は分からない。しかし以前隠密スキルで洞窟に入りミスリルを採掘しようと目論んで失敗しているのだが、その際に戦ったメンバーからの証言からすると戦うには危険すぎる相手だという判断だ。勝利できればベストメンバーかそれに近い形でラストダンジョンに挑むことができる。なんだかんだでベストメンバーと控えではやはり実力が違う、ラストダンジョンのことを考えるならばB案も捨てがたいところだがC案よりも当然討伐成功率は下がる。


 うーん悩ましい、どうするべきか。A案はラストダンジョンがクリアできるかどうかに一抹の不安を感じるし、B案はドラゴンを本当に倒せるかどうかが疑問、C案でも倒せるか疑問だし、主力が全滅とか泣くに泣けない。


 結局、結論は明日に持ち越しになった。明日の朝全員で多数決を取ることにし、今日は一旦解散となった。俺はA案を支持したが、B、C案の支持者も多く明日まで時間を取ろうとなった。どれが正解なのか誰も分からないのが困ったところだ。



《284日目(1月10日)午後4時50分 残LP17》

 もっといい方法はないものかと考えていたところ、プランDを思いつく。調査したところいけるかもしれないと判断。買い物をして深夜を待つことに。



《285日目(1月11日)午前1時15分 残LP16》

 夜も更けたところでプランDを実行しようと思う。このプランDは極めてギャンブル性が非常に高い、成功する確率は高いと言えないが、成功したときのリターンはでかい。

 プランD、それは俺一人でミスリルを入手するという荒業である。

 現在、蒼の騎士団内での俺の必要性が下がってきているのは理解している、情報収集は終了し消耗アイテムも十二分に蓄えた今用済みに近い存在だからだ。


 だからこそ今、最後に大きな功績を挙げたい、俺のわがままだ。

 成功すればデカいが、失敗したら……考えたくはない、すっごい皆から怒られるだろうな。

 それでもこのプランDを思いついてしまった、上手くいくのではと思ってしまったからやってみる。

 俺は先ほど買った武器を手にマイルームから出た。


 目的地に行く前に夜の首都を少し歩く、最悪もう首都には来れないかもしれないから。こんな時間なのでプレイヤーはほぼ0だ、街中を歩くといろいろな記憶が甦る、なんだかんだで9ヶ月過ごしたのだ、様々な経験をしたし思い出の場所もある。

 正直、俺は今日までかなり頑張ったと思う。蒼の騎士団を結成したことによる他プレイヤーの意識の変化と情報提供により、現在全てのサーバーがグランドクリアを目指して活動しているパーティーが数多く存在している。

 その中でも最も強力な戦力でラストダンジョンに挑めるのは間違いなく俺達である、それだけのメンバーを集めたのだから。

 グランドクリアのため、面倒なこともあったがあと一歩のところまで来ている。

 ここまで来たら最後はグランドクリアしてみたいじゃないか、そのために俺は行く、ミスリルの在り処へ。


 じゃあ最後に一つ大仕事をしてみようか、俺は目的のポイントに向かって歩き始めた。





 ……目的のポイントに着いた。やるなら今日、今しかない。 ゆっくりと一回深呼吸をする。大丈夫だ、絶対にいけるんだ。

 静かな夜、武器を握り締めて立ち上がり俺は叫んだ。この状況を切り開く、技の名前を!

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