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ハリボテロミオの夏の夢  作者: 矢倉


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第二幕:イデ

(なんか……すごい視線を感じる……)


 いつもの通学路。普段はモブとして歩いているので、誰も僕を認識していない。なのに今日は行き交う人が、みんなちらちらと僕のことを見ている。なんなら、ヒソヒソと話し声も聞こえてくる。お願いだから、みんな僕を見ないで欲しい……。


「はっ、当然だろ?大衆が俺様を放っておくわけがねぇっつーの」


 周りの視線を一切気にすることなく、イデは相変わらず自信満々で、堂々と道の真ん中を歩く。……本当に、一体どこからそんな自信が出てくるんだよ。中身はイデだけど、外見は僕なんだぞ?


「それに……俺に言わせりゃ、テメェは自信がなさすぎだ」

(ッ……)


 図星を言い当てられて、言い返すことができない。確かに、イデのいう通りだ。僕には自信がない。自信がないというより、自分に希望が持てないという方が正しいけど。


「だぁから、俺様がサクッとテメェに自信をつけてやるよ。自信がつきゃ、また人前に立ってみてぇって思うだろ?」

「……それとこれとは、ちょっと違う気がしますけど……」


 そう言うのは右肩に乗るアルだ。確かにアルの言う通り、自信がつけばいいなんて、そんな簡単な話じゃない。だけど、


「違わねぇだろ?根性叩き直せばなんとかなるっつーの」


 それでもイデは、自分の意見を曲げない。僕に自信がつけば、また役者になりたいと思うに違いないと信じているみたいだ。そんな簡単にまた役者になりたいって思えるんだったら、正直悩んでないんだけど……。


「ところで、イデは玲央に自信をつけるために何をするつもりなのぉ?」


 左肩に乗るレテがイデに尋ねる。確かに。イデは僕に自信をつけさせるために何をする気なんだろう?


「んなもん簡単だ。あのジュリエット役の女に告って、俺の女にする」

(……は?)


 こくる?

 告る?


(はぁああああああああああ!?!?!?!?何言ってんの!?この猫!!!こ、こともあろうに、しゅ……朱里さんに、こくる?こくるって何?なんかどこかの方言か何か???僕の知らない意味がある言葉?!?!?)


 パニックになって、色々なんかおかしい。いや、おかしくならない方が無理!!!朱里さんに告白するとか、正気の沙汰じゃない!!!マジで何考えてんだこの猫は!!!


「猫じゃねぇ!!ったく、告るっつったら告白しかねぇだろうが。うじうじうじうじ、虫が湧くっての。サクッと告白して、あの女がお前のもんになれば自信つくだろ?」

(ならないよ!ってかなんだって朱里さんに……!)

「だってお前、あの女のことが好きだろ?」

(や……ちがっ……!いや、違わない……違わない、けど……ッ!!!)


 そんな面と向かって、言えるわけがない。僕なんかが、朱里さんを好きだなんて。


(僕と彼女じゃ格が違いすぎるって!!!)

「はっ!俺様が告白するのに、OKしない女がいるとでも?」


 それどこのアニメ映画だよ!御門だよ!!自信があるにも程があるだろ!!!


 (本当、お願いだからやめてよ!僕と彼女じゃ釣り合わないって!!!)

「釣り合う釣り合わないってなんだよ?んなこと、誰が決めたんだっての。それに……ついたぜ?」

(え……?)


 イデのいう通り、そうこうしているうちに学校についてしまった。自分の体なのに、自分ではどうすることもできないなんて……。


「あの女がいるのは……稽古場だな」


 スタスタと、イデは迷うことなく稽古場へ向かう。その間にも、他の部活で学校に来ていた生徒がみんな、僕の方を見ていた。


「え、誰あのイケメン!?」あんなイケメン、うちの学校にいた?」

「めっちゃ背高い!モデル?」

「転校生?」

「おい、なんで転校生が夏休み中に来るんだよ」


 そんな声が、あちこちから聞こえる。本当に、本当にやめてほしい。今すぐにでも帰りたくてたまらない。無駄な抵抗だとはわかっているものの、なんとかならないかと勝手に動く足を止めようと力を入れる。けれど、抵抗は虚しく足はどんどん稽古場へと進んでいく。


(ね、ねぇ……本当に僕だってバレない?)

「多分大丈夫だよ〜」

(多分じゃ困るよぉ……!)


 もう学校に行けなくなる……。今年で卒業だっていうのに……。百歩譲って……いや、譲りたくない。譲りたくはないけど、それでも派手で目立つならまだ……まだ許せる。許せないのは、


「朱里、いるかァ」


 イデが勝手に、朱里さんに告白しようとしていることだよ!!!

 稽古場に着くや否や、イデは朱里さんを呼び出す。いつの間にか、僕の体を乗っ取ったイデについてきた生徒で、後ろには人だかりができていた。めちゃくちゃ目立ってる……。


「朱里先輩ですか?先輩ならロッカールームにいますけど……」

「あぁ……悪ィ、呼んでもらえるか?」


 そう言って、イデは近くにいた後輩の女の子に優しく微笑みかける。すると女の子は「は、はい……!!」と頬を赤らめながら、急いで女子のロッカールームへ走って行った。周りがより一層ざわつく。本当……どうするんだよ、これ……。マジで泣きそうだ。


「朱里先輩!イケメンが先輩のこと呼んでます!!!」


 後輩の女の子の元気な声が、ここまで聞こえた。


「イケメン?」


 誰それ?と、後輩の女の子に呼ばれて、朱里さんがロッカールームから出てくる。髪をポニーテールに束ねていて、相変わらず可愛い。いや違う。今はそんなことを考えている場合じゃない。


「よお」

「えっと……どなたですか?」


 戸惑いながら、朱里さんが答える。どうやら、朱里さんはこれが僕だって気づいていないみたいだ。きょとんと、イデを見つめるくりんとした大きな目も、やっぱり可愛い。というか、僕こんなに近くで朱里さん顔を見たことないんだけど……!グッジョブなのか、そうじゃないのか、なんかもうよくわからなくなってきた。


「誰でもいいだろ?そんなことより……」


 そう言って、イデは右手でそっと朱里さんの頭を撫でて、ポニーテールを手に取る。

そして、イデはその柔らかい髪に、そっとキスをした。ふわっと、優しいシャンプーのいい香りがする。


「俺と付き合え、朱里」

「お断りします」


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