木造の小さなカフェで
二人が辿り着いたのは湖から少し離れた場所に佇む、木造の小さなカフェだった。
観光地とはいえ、賑やかなエリアからは少し外れていて、どこか隠れ家のような落ち着いた空気を纏っている。
「……こんなところにカフェが?」
「ええ。ここのスープ、絶品ですのよ。そして何より、静かですわ」
店内に入ると、そこには木の温もりに包まれた空間が広がっていた。
窓際には湖を望む席があり、少し曇ったガラス越しに、さざ波が光を受けて揺らいでいる。
席に着くと、ほどなくしてリリィが注文していたスープセットが運ばれてきた。
「カイゼル殿下のご体調を考慮し、胃に優しいものを中心に選ばせていただきました。お口に合えば幸いですわ」
カイゼルは卓上に並べられた料理をひとつひとつゆっくりと見回した。
湯気を立てる野菜のスープと、香ばしく焼かれたパン。そして色鮮やかな蒸し野菜のサラダ。派手さこそないが、どれも丁寧に仕上げられているのが一目でわかった。
「これなら……胃に優しそうだな」
「カイゼル殿下の分は、すでに毒味が済んでおりますので。安心して召し上がってくださいませ」
リリィがさらりと放った言葉に、カイゼルの手が一瞬止まる。
驚いたようにリリィを見つめたあと——ほんの少し、目を細めた。
「……そこまで用意されていたのか」
視線を落とし、銀製のスプーンを手に取る。
スープを一口すくい、そっと口に運んだ。
香草の香りがふわりと立ち上り、体の内側がじんわりと温かくなる。
「……うまい。ほっとする味だな」
「お気に召していただけてよかったですわ」
柔らかな声に、カイゼルはリリィへと視線を向けた。
彼女が手にしていたのは、鋼鉄製のスプーン。
カイゼルよりも倍の量もある料理たち。卓上には紅茶の優しい印象とは程遠い、重厚感にあふれた大きめサイズのティーセット。
思い返してみれば、彼女が腰を下ろしているのも頑丈なスチール製の折りたたみ椅子——だが、細部には銀の装飾が施され、背もたれは革張りでとても豪華な造りだった。
「リリィ嬢、そのティーカップは……?」
「こちらですか?こちらは、工房で鋼鉄をティーカップの形に整えてもらい、銀で装飾と内張りをしてもらいましたの」
ティーカップの側面を両手で優しく包み、目線の高さまで持っていく。そしてうっとりとその造形を見つめた。
「——もしかして、あの時の会話は……」
カイゼルの脳内に工房でのリリィとのやり取りがよみがえる。
『戦さ?』
『ええ。華やかで、時に残酷な……けれど、微細な機微がすべてを左右する——そういった種類のものです』
ようやく合点がついたと、カイゼルは静かに頷いた。
「……なるほど。そういうことか」
「どうかなさったのですか?」
リリィはスープを口に運びながらカイゼルに問いかける。
「いや、何でもないんだ」
満足げに微笑んだカイゼルを不思議に思いながらも、リリィもゆっくりと食事を楽しんだ。
また、次回!
毎日が筋曜日!




