リリィからカイゼルへ
食後に紅茶を飲みながら、リリィが話し始める。
「カイゼル殿下。セラフィナ様が、『お礼をなさい』と仰っていましたでしょう?」
「……ああ、言っていたな」
「ええ。ですが、される側にもお礼の気持ちがございますのよ」
「……どういう意味だ?」
「この一年、カイゼル殿下がどれほど復興のために奔走なさったか……。わたくし、存じ上げておりますわ」
ティーカップをソーサーの上にそっと置いて、リリィはカイゼルを優しく見つめる。
「ですから、わたくしからも。お礼と息抜きの意味を込めて、こちらの湖にお誘いいたしましたのです」
彼の目が大きく見開かれる。
少しの沈黙の後、カイゼルはその言葉を噛み締めるかのように目を伏せた。
「……まいったな。リリィ嬢の方が何枚も上手だったな」
ふわりと微笑んだ表情は、彼女の労りを素直に心から喜ぶ少年のような温かな笑みだった。
リリィの胸にじんわりと柔らかい何かが流れる。
それは彼女でさえも気づけないほどの小さな芽吹きだった。
まだお腹に余裕があったため、食後のデザートを選ぶ。
数種類あったスイーツの中からリリィはアップルパイを頼んだ。カイゼルは追加で店主おすすめの温かいハーブティーを注文する。
「リリィ嬢は、甘いものも好きなのか?」
カイゼルの問いかけに、リリィは微笑みながら答える。
「ええ。一般的には『太ってしまう』と嫌煙されがちですが、わたくしにとってはむしろ逆ですわ。高カロリーなものは、それだけで即座にエネルギーへと変換される……まるで、補給食のように」
「補給食……」
「実際、長距離の移動や鍛錬の合間には最適ですわ。チョコレートも然り。甘いものは、強き者の味方ですのよ?」
「……なるほどな。合理的な理由での好きか」
「ええ。そうですわ」
会話をしている間に、店員がアップルパイとハーブティーをそっと卓上へと置いた。
二人は軽く礼を言い、それぞれ自分の前に置かれた品を手に取る。
カイゼルは香り立つハーブティーをゆっくりと口に運んだ。
「ハーブティーもうまいな。レモングラスか……少しの酸味に清涼感があっていいな」
カイゼルがふっと柔らかな笑みを浮かべる。
そんな彼を一瞥してから、リリィもアップルパイをフォークで掬い取り、上品な所作で口にする。
「話は変わるが……少し気になっていることがある」
「何でしょう?」
リリィは手を止めて、カイゼルへと視線を向けた。
「孤児院の話なんだが……初めて視察に行った時よりも食事量も内容も今の方が増えていないか?」
「体の基本は食事からですわ。なので、わたくし自らが支援を行うことにいたしました」
彼女はいつも通りに、なんでもないことのようにしれっと答えた。
「孤児院の食事代を?」
「ええ」
「それは、国に申請すべきだったのでは?」
「わたくしは、あくまで自分自身の手で支援をしたかったのですわ」
カイゼルが次の問いかけをしようと口を開くよりも先に、リリィがさらに続けた。
「それに、支援に充てられる余裕はございます。わたくしなりの、少々変わった方法ですが……」
(資金集めのために魔獣討伐を少々請け負っていることは秘密にしておきましょう……)
「……変わった方法?」
「ええ。内容は秘密ですわ」
リリィはにっこりと微笑んでから、会話を切り上げるように再びアップルパイを食べ始めた。
また、次回!
毎日が筋曜日!




