105 やきもちが嬉しくて、つい②
記憶を取り戻してすぐの時は、なんとも思っていなかったのに──。彼と離れたくない想いが心の中を占めている。それも以前抱いていた感情とは違う初めてのものが……。
「陛下が部屋を用意してくれているから。この期に及んで嫌だって言ったら困るでしょう。だから……一緒でもいいわよ」
「ふふ、素直じゃない言い方だけど、恥ずかしがるジュディも可愛いから、よしとしますか」
「だけど、わたしたちが王宮で暮らしたら、パスカル殿下は何か仰らないかしら?」
フィリベールが廃位した今。王太子として任命されるのは、王弟のパスカル殿下だろう。
本来ならば、部屋の工事をしている場合ではない。わたしたちが離宮に移るべきだ。
そう思って口にしたのだが、アンドレが不思議そうな顔をする。
あれ? 何かを間違えたか?
「ジュディは何を言っているのかな?」
「え? だって近々パスカル殿下が王太子になるんでしょう」
「ああ~、ごめん。陛下の説明が足りなかったから、分かっていなかったんですね」
「何が?」
気軽な気持ちで訊ねたものの、真面目な顔をするアンドレが、むくりと起き上がった。
となれば、わたしも合わせるように体を起こして彼と向かい合う。
「今から約一週間後に開催するパーティーで、僕の立太子を公表します。元々国賓を招いて別のパーティーを開催する予定だったけど、それが中止になったので」
「エエエッ! それって、アンドレが王太子になるってことなの?」
「はい。王位継承権第二位のパスカル殿下が辞退したので、急遽、選定会議があったので」
「アンドレに王位継承権はないんじゃないの……」
「本来であれば、急に出て来た僕は選考外でしたが、精霊の呪いを克服した王子が聖女と一緒にいるのを理由に……。逃れられませんでした」
「逃れられなかったって……それでいいのかしら……」
「正直なところ、今まで政治とは無縁の暮らしをしていましたし、貴族の顔さえ分からないので、どうしていいのか分かりませんが、ジュディと一緒にいられるなら、何でもいいですから」
「……馬鹿ね。そんなのを軽々しく引き受けて」
「ジュディを愛してますから、そんなのは苦になりませんし、二人でいれば何とかなるでしょう」
「そうね……」
「本当は、もっと景色の綺麗な場所でする予定だったんですが、我慢できそうにないのでいいでしょうか?」
「ん? 何かしら」
「僕たちの結婚は、陛下の命令でも何でもありません。僕がジュディといたくて願い出たんです。もう絶対に手を離しませんから、僕の妻になってください」
「――こんな我が儘なわたしなのに……本当にいいのしら」
「僕の我が儘に比べたら、ジュディの我が儘なんて可愛いものですよ。絶対にあなたを世界で二番目に幸せにすると誓います」
「……どうして二番目なのよ」
「長年想いを寄せていたジュディのそばにいられて、怒るジュディの顔さえ愛おしくて幸せを感じる僕が、世界で一番幸せなので、一番の座は与えてあげられませんから」
「じゃぁ、遠慮なくごね続けるわ」
「ふふ、そうしてください。どんなことがあっても、生涯あなたへの想いは変わりませんから──……ジュディ──」
二人きりの祈祷室。わたしたちの邪魔をする者はいないけど、結界越しに見える魔物に囲まれ、そっと目を閉じた──。
触れる温もりがドキドキさせるのにやけに心地よい……綿菓子みたいに甘くてふわふわ。
もう少し離さないで欲しいなと思うわたしは、一度離れそうになった感触を、自分から追いかけた。
それに応えてくれるアンドレの存在がたまらなく嬉しくて──こんなの初めてで胸がキュウッとする。
もっとぎゅっとしてくれないかなと思っていたのに、抱きしめてくれていた腕が緩まって離れていく。
ちょっと気づいてよね、って、彼の腕をツンツンすると再び彼の体温が伝わってきた──。うん。甘いココアの湯気みたいに、あったかくて幸せ。
ふふふ、うまくいったなと、にんまりしてしまう。
二人きりのときは、以前のセーターを着てって頼もうかな、もっとふかふかだから。
あれ、どうしてこんなに心が落ち着くんだろう。
……これが好きなのか、よく分からないけど一緒にいたいから、まあいいか。
「ずっとわたしのそばにいてね」
指輪をはめてくれないかなと、甘えたような顔で、彼に左手の手の甲を向けた──。
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