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102 瘴気の浄化……何も知らずに現れた、その原因①

 強い瘴気の気配を辿り、王宮の裏手に位置する聖なる泉へ向かう。

 近くに着いた途端、ウッと片手で口を押さえてしまう。


 ――瘴気の気配がきつい。

 瘴気だまりを放置してかなり時間が経っているせいで、城壁で囲われた辺り一面、瘴気で充満している。

 想定よりよほど事態は深刻で、向こう側の景色が霞む程空気が淀んでいるのだから。


 先日、ガラス玉でも瘴気だまりを浄化できると申し出たのを、アンドレが先送りした意味が分かった。


 自分の魔力を持たずにここへ来れば、平然としていられなかったと思う。


 アンドレが泉を覆いかぶせるように張ったきらきらと輝くバリーケードが、カタカタと揺れているのが分かる。あれの限界も近いわね。


 一人で来たことを後悔しつつも、これを目の当たりにして出直せるほど、呑気な性格でもない。


 空間の浄化をすれば、アンドレのバリーケードも壊れるだろうなと、起きうる事態を想像し、げんなりする。

 蓋が消失した途端、一斉に魔物が飛び出してくるのは、火を見るよりも明らかだ。


 瞬時に攻撃魔法を繰り出す必要がありそうだけど、大きさも属性も違う魔物を一度に退治するのは、少々骨が折れそうだ。

 あ〜あ、シモンでも連れてくればよかったけど、一人でやるしかないか。


 いざ、気合を入れるため脚を一歩開き、両腕を天高く突き上げると、イライラした感情をぶちまけるように魔法を発動する。


 こんなときも、いつもの癖で言葉が溢れる。


「アンドレなんか、もう知らないんだから! リナと指輪を買いに行けばいいのよ!」


 そう発すると、空がきらきらと輝き、光がゆらゆらと地上に舞い落ちる。


 その輝きに触れた空間は、本来あるべき清らかな色彩を取り戻す。


「もう少しね――」


 光の粒がバリーケードに触れれば、瞬時に防壁も消えてしまう。

 そうなれば、魔物が逃げ出す前に一網打尽にしなくては。

 

 よし、今だなと思ったのと同時──。


 わたしの後方から無数の風弾が飛び交った。


「へぇっ!」と変な声をだして驚くわたしは、前方の魔物を見るべきか、後方を見るべきか迷ってしまったけど、とりあえず、前方が正解だろう。


 そう思って、そのまま瘴気だまりに視線を向ける。


 飛び出してきた魔物は、魔犬に魔狼それに大量の魔虫。残念ながら、魔猪はいない。


 それらの魔物が、わたしよりコンマ数秒早く発動された風弾に打たれ、光り輝く湖に次々と落ちていく。


 浄化魔法が聖なる泉にも届いている証拠に、泉全体がきらきらと輝きを放つ。

 その光の中に魔物が落ちれば、瞬時に消失する。


 最後に出てきたのが一際大きな魔狼だったが、またしても後方から発動された魔法が魔物を貫き、泉に落ちていった。


 魔物の気配を探るが、魔虫のような小さいものさえ感じないため、殲滅したとみる。


 凄いな。一斉に飛び出した魔物相手に、風弾の一発さえ無駄にしなかったんだもの。


 見極めとコントロール抜群の魔法攻撃の腕に、目を見張るしかない。

 

 こんなことをできるのは、彼しかいないだろうな。

 そう考えて後ろを振り返る。


 やはりだった。

 視線の先には、わたしに手を振り笑顔を見せる貴公子が立っていた。


「アンドレ!」

「何ですか、僕のお姫様」


「どうしてここにいるのよ」


「まあそれは僕の台詞な気もしますが、ジュディがここにいるから追いかけてきたんですよ」


「もう! どこにでも付いてくるアンドレは、相変わらず健在なのね」


「僕が目を離すと、とんでもないことをしているかもしれないので」


「してないわよ!」


「どの口が、と言いたいところですけど、やめておきます。今の浄化は凄いですね。……まさかこんな一瞬で浄化できると思っていませんでした……」


「珍しく本気を出したわ」


「ふふっ、ジュディは本当に聖女だったんだなぁ~って感心しました」


「ちょっと、今までわたしを何だと思っていたのよ。さては、どこでも眠る図々しい令嬢だと思っていたんでしょう」


 すると彼は、まあねと笑えば、安堵の表情を見せる。

「魔力はすっかり戻ったようですね」


「アンドレのおかげよ。とても感謝しているわ、ありがとう」


「それはこちらの台詞ですよ。聖なる泉を浄化していただいてありがとうございます。それと、ジュディに謝らなければならなくて、さっき――」


 と言いかけたところで、女性の大きな声が響く。


 ◇◇◇


「寂しいから来ちゃったわ、ふふふっ。あれ? どうしてここにお姉様がいるのかしら?」


「あなたは……」

 そこまで口にして、言葉を失う。


 二度と会うはずがないと思っていた妹の姿が、直ぐ近くに迫っていた。

 中央教会でアンドレと会話していたリナが、祈祷室から出て来たのか。だとしてもどうしてここに──。



お読みいただきありがとうございます!

すっかり遅くなってしまいました!



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