第351話 新世界での再会
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本日BookLive様にて、「アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~」単話版62話更新されました。
久しぶりにエミリが出てくるお話ですので、よろしくお願いします。
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一行は聖樹リヴァラスの森から西へ向かう。
本来なら半日もあれば抜けるはずなのだが、結局3日かかってしまった。
視界が開けても、ヴォルフが知る風景とはまるで違う。
本来なら、レクセニル平原と呼ばれる大平原が広がっているはずが、凹凸の激しい峡谷になっていたり、大河が流れていたりした。
「これが新世界か?」
「目ぇ見えへん、うちにはかなわんわ」
「とにかく西よ。おそらくそこには――――」
「主ら! あれを見よ!」
母エルミアの手を引きながらレミニアが皆を励ますと、先行していたヒナミがやや興奮気味に丘の上から指差した。一行は小走りでヒナミに駆け寄っていく。視界に現れたものを見て、それぞれが息を飲む。
最後にヴォルフはホッと息を吐き出した。
「レクセニル王国だ」
土地は変わり果てても、レクセニル王国王都は健在だった。
それまでの道程で得た疲労が、嘘のように抜け落ちていく。
王都の近くまでやってくると、物見の兵士が最初にヴォルフ一行を見つけた。
「ヴォルフさん!」
「団長が戻ってきたぞ!!」
見慣れた兵や騎士が慌てて王都に入るための門を開く。
すると、わっと人々の声で溢れ返った。
「すごい」
人々の活気や熱量に圧倒される。
レクセニル王国は数々の悪意にさらされ、その中心地となっていた。
王都も半壊寸前に追い込まれた。
それでも人々の歓喜は凄まじい。
何より破壊し尽くされた王都は、すでに復興に向けて動き出しており、多くの兵士や市民が瓦礫を撤去する姿が見える。
作業の手を止め、皆が英雄の凱旋を喜んだ。
「ヴォルフ様、ありがとうございます」
「ありがとう、ミッドレス親子!」
感謝の声があちこちから飛んできた。
ヴォルフだけじゃない。レミニアや他の者に対してもだ。
「みんな、なんで知って……」
「何を寝ぼけてるんだい。あんたたちが教えてくれたんだろ」
立っていたのは、熊のように大きな女性だった。
顔の大きさに対してつぶらな瞳を光らせ、やや人懐っこい笑みを浮かべている。
「テイレス! 無事だったのか」
「何を言ってんだい。これでも元冒険者だよ」
「そうか」
「無事だったのはあたしだけじゃないよ」
テイレスが視線を向けた先を見る。
立っていたのは、行商人風の女性だった。
「行商人……たしかステラさん」
「お久しぶりです」
「無事だったんですね」
「はい。おかげさまで」
「ステラさんがいるということ……」
ヴォルフはハッとなって、後ろを振り返る。
そこには銀髪の大きな猫に抱き付く老婆の姿があった。
「良かった! ミケ、無事だったんだね。良かったよ~」
『にゃにゃ! ミランダ! 離すにゃ! 人の前にゃ。泣くにゃ~』
ミケはミランダに抱かれて、ジタバタともがく。
本人は恥ずかしいと声を荒らげたけど、照れ隠しなのだろう。
その目には再会を喜ぶ涙が滲んでいた。
「ヴォルフさ~ん」
手を振り、ヴォルフのほうへ走ってきたのは、工事用の兜を被ったエルナンスだ。
側にいるのはマダローと、そしてセラネだ。前者はともかく後者は髪が伸びていた。昔のように表情に影はなく、元気そうにヴォルフのほうに手を振っている。
「お久しぶりです、団長」
「生きていたのか、田舎者」
「お前たちも無事だったのか」
「はい。なんとか……」
「無事じゃねぇよ。何度死にかけたか」
変わらないエルナンスとマダローのコンビを見て、ヴォルフはホッと息を吐く。
「セラネも元気そうで良かった」
「はい。団長、その……。私、恩赦を貰えることになって。刑期が早まったんです」
「そうか。そいつは良かった」
ヴォルフはセラネの頭を撫でる。
直後、背中に怖気が走る。
振り返ると、女性陣がこちらを睨んでいた。
「ヴォルフ殿、説明を求めます」
「これ以上、ライバルが増えるのは御免被りたいでござる」
「アンリ……。え、エミリーまで」
女性陣の圧に、ヴォルフは明らかに押され気味だった。
焦るヴォルフを見て、エルミアはクスクスと笑った。
「ヴォルフさんはおモテになるんですね」
「そうよ、ママ。パパはカッコいいんだから」
えっへんと我が子のようにレミニアは胸を張っていた。
それを横目でやれやれとハシリーは首を振る。
やりとりを見ながら、ヴォルフは日常が戻ってきたような気がした。
「ヴォルフ殿、説明が終わってませんよ」
ヴォルフが和んでいると、視界にアンリが入ってくる。
そんなアンリの頭に槍の柄が落とされた。
「痛っ! こら! 仮にも私は公爵――――」
「公爵がなんだって!?」
アンリは叫んだが、その声に重なるように胴間声が響いた。
立っていたのは、槍を肩に担いだ騎士だ。
「ウィラス!」
「お兄様!!」
「よっ! ヴォッさん」
「生きてたのか?」
「はっ! ヴォッさんにやり返さずに死ねるかよ!」
槍の先をヴォルフに向ける。
戯れ程度であっても、振った槍を見て、ウィラスがこれまでどれほどの努力をしてきたかわかった。どうやら、さらに一皮むけたようである。
そんなウィラスの脇を、妹アンリが軽く拳で叩く。
ウィラスは「うっ」と嗚咽を上げながら、蹲った。
「かっこつけすぎです、兄さん」
「アンリ、てめぇ……」
「おいおい。お前たち、英雄の前でなんという醜態をさらしているのだ」
兄妹喧嘩を止めたのは、眼鏡をかけた紳士だった。
紳士といっても、上着を脱ぎ、顔には泥がついている。
汗を拭きながら近づいてきたのは、アンリとウィラスの父――つまり大公家当主のヘイリル・ローグ・リファラスであった。
「た、大公閣下」
ヴォルフをはじめ多くの者たちが、ヘイリルの姿を見て、膝をつこうとする。
それを止めたのは、ヘイリル自身であった。
ヴォルフの脇に手を入れて、起こす。
「良い。そなたはこの国の、この世界の英雄だ。私に下げる頭はあっても、ヴォルフ殿の前で上げる頭はない。ありがとう、英雄ヴォルフ」
ヘイリルは頭を下げる。
同時にウィラスや騎士団の後輩、旅先で出会った人たちや集まった人々が一斉に膝をつくと、頭を垂れ、あるいは両手を組み神に祈るようなポーズを見せた。
ヴォルフは周りを確認した時には、自分1人だけが立っていた。
「お、おい。よしてくれよ。俺は――――」
「違うぜ、ヴォッさん。王都の市民にはあんたに謝る理由がある」
「え?」
すると、近くに立っていた老人がヴォルフに言った。
「あんたがラムニラ教の支部を攻撃した時、わしらはあんたやあんたの家族を侮辱した」
「墓を暴けとも言った。でも、それは間違いだった」
「そんな我々をあんたは1度ならず、2度助けてくれた」
「俺たちが言いたかったんだ」
『ありがとう、ヴォルフ・ミッドレス』
深々と頭を下げた。
当のヴォルフはどう反応していいかわからず、おたおたするだけだ。
こんなこと初めてだった。
当然だろう。
うだつの上がらない、なんの才能もない冒険者から始まった。
気がつけば、人生の大半を子育てに費やしていた。
そんな男が冒険者として再起し、2年も経たず、国や世界を救ったのだから。
もはや、その偉業は――――。
「まさに〝伝説〟だな」
蹄の音に気づいて、ヴォルフは振り返る。
馬上の立派な益荒男を見て、少し緩んだ気を引き締めた。
「ツェヘス将軍」
「戻ったか、ヴォルフ・ミッドレス」
鋭くヴォルフを睨む。
世界が変わっても、その威圧感は変わらない。
いや、世界崩壊という難事を超えて、さらに強まっているように思えた。
「ちょっと! 今度は何? パパに難癖でもつけにきたのかしら」
その将軍の眼光に勝るとも劣らない視線を向けたのは、レミニアだ。
ツェヘスとレミニアには因縁がある。
ヴォルフのことを『詐欺師』呼ばわりしたからだ。
将軍なりの事情があったことは、レミニアも理解しているのだが、元々性格そのものが両者とも合わないらしい。
「レミニア。将軍に失礼だぞ」
「いい。それよりお前だ、ヴォルフ・ミッドレス」
「な、なんでしょうか?」
「お前――――」
王になる気はないか?







