第七話 妄想
部屋を出ると女将さんとその他の従業員かはわからないが、それらしい靴下の擦れる音があちこちからしてくる。
せわしない様子にフライング気味かと思いつつも、滑りやすい光沢のある木の床を滑らせながら歩く、さながらスケートのように。
気持ちが高ぶり、こんなことを考え始める。
おっ、誰もいない。
やはり一番乗りか!
そう思って、女将さんたちの邪魔にならないように隙を見て座布団に座る。
彼女が来たらまずどうしようかと、そう考えてるうちに、階段からほとんど音をたてずに降りてくる彼女。
床を歩くときも音をたてていない。
何故だろう、と思い視線を床に向けると、言葉足らずの私ではその美しさを完璧に言い表せないようなぐらい美しく妖艶な足が置かれていた。
思わず素足だけで生唾を飲む私は、見てはいけないと思い目をそらしつつも、やはり見てしまう。
なんと浅ましいことだ。
だが、幸いなことに床を見る行為は下を向いている内気な人のように思われがちなので、相手もこちらに目線を向けてきたりということはしなかった。
そして、意を決し、目線を思い切り上に向け、彼女を直視すると…そこには美しくも艶やかで程よく血色のいい肌を好んで隠そうとしない服装の彼女がいて、
そのあまりの美しさに恍惚として固まってしまう私がいた。
今度は彼女を直視した状態で、生唾を飲んでしまう。
彼女に見られてしまったのだ。
それでも臆せずに鋭く冷たい眼光を一身に受けつつ、彼女に声をかける。
「よ、よかったら、ここの席で一緒に食べませんか。」
あまりの緊張で少し震え声のようなものが混じったが、なんとか言えた気がした。
そしてすんなりと…(妄想終わり)
なんてことがあったらいいなと思い階段を希望を持ちながら降りる。
しかし妄想は妄想でしかなかった。
彼の目に映ったのは、彼の妄想とは良い意味で程遠いぐらいに艶やかな女神様で、その女神様は光を帯始めた部屋の隅で白い衣を纏い、座っていらっしゃったのだ…