7日後のリベンジのため必死で努力します訓練場⑮
解散後、ゼロが運転する車に乗り込む。
車内には静かなエンジン音だけが響き、昼間の緊張感が嘘のように落ち着いた時間が流れていた。
俺は膝の上のメモ帳をじっと見つめ、さっきフィールドを目に焼き付けた記憶と、ゼロの攻略法を頭の中で模索していた。
すると、ハンドルを握ったまま前を見据えていたゼロが、静かに口を開いた。
「……反省会は終わったようだな」
「あ、うん! みんなから色々と……教えてもらったよ」
「何か楽しそうだな」
「そうかー?」
俺は、楽しさをにじみ出すように返事した。
厳しく絞られた直後だというのに、自分でも驚くぐらい胸の奥から湧き上がる興奮が抑えきれない。
「……プロの洗礼を受けて凹むかと思ったがね。いい顔になった」
「凹む余裕なんてねぇよ。……オッサンに『思考のクセ』を読まれて全滅させられたのは悔しかったけどさ。でも、攻略法が全くないわけじゃないって分かったから」
「俺の攻略ねぇ……。ところでレイレイ、お前は俺のこと、どう思ってるんだ?」
「は? なんだよ急に、気持ち悪いな!」
「いや、たぶん佐藤から俺の昔の話を聞いたんだろ。それも含めて、お前がどう思っているのか聞いてみたくてな」
ゼロは前を見据えたまま、少しだけ声のトーンを落とした。
俺は腕を組み、うーんと天井を見上げる。
「うーーん、そうだな……一言で言うと『ヤバい奴』かな」
「そうか……」
「射撃場での指示の出し方とか、車内を甘い匂いでいっぱいにして本当はタバコ吸ってるのを隠そうとするところとかさ。戦闘訓練でも、俺の変なクセを直すためにわざと狙ってきたりしてさ……気も使うし、怒るとめちゃくちゃ怖いけど、真面目なときはちゃんと真面目だし。……俺さ、あんたが学校の先生だったら良かったのになーって、思う時がよくあるよ」
「…………」
ゼロは一瞬、ハッとしたように目を見張り、それから静かに口を開いた。
「……意外な答えだな。俺の過去を聞いても、怖がるどころか褒めてくるとは思わなかった」
「ふーん。まあ、俺はあんたがこの国の特殊部隊だった頃の姿なんて知らねぇしな。今のオッサンしか見てねぇよ」
「……そうかよ」
その後、ゼロはなぜか一言も喋らなくなった。
何かを噛み締めるように、黙ってハンドルを握り続けている。
まぁ、俺はゼロを倒すための作戦を考えられるから静かでよかったけど。
そうこうしているうちに、車は俺の家に到着した。
「じゃあな」
「ああ、じゃあな」
◇
部屋の暗がりの中、パソコンのモニターだけが怪しく光っている。
俺は家に戻り自分の部屋に入っても、ゼロを倒すための戦略を考えるため、ずっと彼から借りているシミュレーションソフトを動かし続けていた。
画面上を動き回る青と赤のドット。
佐藤さんの精密射撃、サンリーさんの近接突入、グゼンさんのトラップ、ユトの奇襲……。プロたちの顔と「尖った特技」を脳裏に浮かべながら、何度も、何度も配置を組み替える。
「……『思考のクセ』を読む、か。だったらその読影のさらに上をいく、セオリーぶち壊しの作戦を立ててやるよ。……待ってろよオッサン、あと7日後だ」
画面に向かってボソッと呟いたその一言が、俺の「本気」の合図だった。
◇
決戦までの6日間。
俺はこれまでの人生で一度も出したことがないような集中力と情熱で、毎日を駆け抜けた。
6日間、俺はいつもより張り切って戦闘訓練に打ち込んだ。
昼過ぎまで寝て冷めた飯を流し込むだけだった引きこもりの日常は、完全に崩れ去っていた。昼間は部屋でシミュレーションを回して作戦を限界まで研ぎ澄まし、夜になればゼロとのマンツーマンによる密着訓練だ。
「どうしたレイレイ! 足が止まっているぞ!」
「ッ……誰が足止まってんだ、このクソオッサン……っ!」
ゼロの容赦のないトレーニングは、相変わらず地獄そのものだった。
だが、俺の意識は明らかに変わっていた。
以前なら「怖い」「もう帰りたい」と逃げ腰になっていた威圧感や攻撃に対し、俺の脳は必死に食らいつき、その動きを、意図を、視線を『没入型心理分析』で追いかけていた。
ゼロがどのタイミングで間合いを詰めてくるのか。
どの角度から踏み込んでくるのか。
ただの恐怖の対象だったゼロの動きが、観察と分析を重ねるうちに、少しずつ「理解できるパターン」へと変わっていく。
最初の頃は、200発以上食らっていた攻撃を、今ではたったの13発に抑え込めていた。
「(……まだ完全に捌き切れたわけじゃない。だけど……俺の目は、あの怪物の動きを捉え始めてる!)」
ゼロの攻撃を13発に抑え込んだその瞬間、ゼロは一瞬だけ驚いたように眉を跳ね上げ、口角を上げた。
「……フッ、化けたなレイレイ。たった数日でここまで俺の動きに適応してくるとはね」
「ハァ……ハァ……! 当たり前だろ……! 俺を誰だと思ってんだ。あんたがスカウトした戦略家だぞ!」
息を荒らしながら不敵に笑い返す俺に、ゼロは満足そうに短く息を吐いた。
そして——運命の『7日後』、決戦の朝がやってきた。




