防衛と新たな役職トラッパーを学びます!!訓練編➆
今日3本あげますよろしくお願いします!!
【訓練開始14日目(リモート6日目)】
「これはこうで、……こっちをこう動かす。よし、コンプリート」
モニターに浮かぶ無数のデータを手際よく捌き、俺はキーボードから手を離した。
最初は膨大な情報量に追われるばかりだったが、気づいたときにはどんなに複雑な作戦でも、立案するのに3分もかからなくなっていた。
「よし、クリアだ」
息を吐きながら呟くと、ヘッドホン越しにゼロの呆れたような、だがどこか満足気な声が返ってきた。
「はやいな……。おいおい、マジで3分切ってやがる。お前、頭の回転どうなってんだ? 中学生の頭の柔らかさなのか、こいつがすごいのか、はたまたどちらもなのか……ハッ、俺の目に狂いはなかったっぽいな」
画面越しに見えるゼロの顔には、隠しきれない驚きが浮かんでいた。
ゼロは手元の資料をひと通り眺めると、ニッと口角を上げて画面を覗き込んできた。
『オッケー。基礎的な状況判断と作戦立案の速度は文句ナシだ。……じゃあ、そろそろ次のフェーズに移るぞ』
「次のフェーズ……? まだ何かあるのかよ」
『次は『防衛』と『トラップ』の演習に入る』
画面が切り替わり、複雑な構造をした廃ビルや基地のようなマップが映し出される。
「防衛……? 撤退ラインの話と矛盾してないか? 逃げるんじゃなくて守るのかよ」
『勘違いするなよ。防衛ってのはな、“敵を全滅させるまで踏みとどまること”じゃねぇ。チーム戦略における防衛の定義は、**“目的を果たして全員で生き残るための空間を作ること”**だ』
ゼロがマップ上の特定のルートを赤く光らせる。
『そして、少人数で圧倒的な数の敵を防ぎ切るための武器……それが**“トラップ”**だ。だがなレイレイ、トラップをただの「防衛用の罠」だと思うなよ?』
「……どういう意味だ?」
『トラップってのはな、防衛はもちろん——敵の陣地に潜入する時にも使うし、一発で戦況をひっくり返す大逆転のカードにもなるんだよ』
ゼロの声に、ニヤリとした気配が混ざる。
『だがな、どんなに強力な罠も、ただ置くだけじゃ意味がねぇ。トラップを専門に扱う役職**『トラッパー』**はな……お前みたいな戦略家との密接な協力関係があって初めて、その真価を発揮するんだ』
「戦略家とトラッパーの協力……?」
『そうだ。お前が戦況を俯瞰して「どこに敵を追い込むか」の絵を描き、トラッパーが現場の状況に合わせて「最高の罠」を仕掛ける。お前の指示とトラッパーの技術が噛み合った時、戦場全体が巨大な鳥かごに変貌するんだよ』
「……なるほどな。俺がチェス盤を描いて、トラッパーがそこに罠を置くってわけか」
『そういうことだ。お前がどんな盤面を描くかで、トラッパーが活きるか死ぬかが決まる。……さあ、トラッパーとの連携も含めた『防衛・トラップ演習』、始めるぞ!』
画面が切り替わり、複雑に入り組んだ廃ビル群のマップが映し出された。
味方ユニットには、新たに「トラッパー」のマークがついたアイコンが追加されている。
『状況は敵の大群による包囲網だ。味方の脱出ポイントまであと3分。それまでこの拠点を死守するか、敵の追撃を完全に断ち切れ!』
「3分間の防衛、かつトラップによる誘導か……よし」
俺は画面全体に視線を走らせ、マップの地形と敵の進軍ルートを頭の中で立体的に組み上げていく。
(正面からぶつかれば数秒で削り切られる。……なら、見せるべきは「抜け道」だ)
俺はキーボードに指を走らせ、トラッパーのアイコンへと速攻で指示を飛ばした。
「トラッパー、正面の広場には目立つダミー罠を一つ置け。本命は……西側の狭い通路だ。そこに感圧式の遅延トラップを二重に設置しろ」
『ほう……あえて正面を警戒させて、西の狭い路地に誘い込む気か?』
ゼロが面白そうに喉を鳴らす。
「そうだ。人間も敵AIも、危険に見える広場より『安全そうに見える狭い抜け道』に殺到する。そこをまとめてハメ殺す」
指示通り、西側の暗闇へと雪崩れ込んでいく敵の先鋒隊。俺の描いた絵通り、敵は誘い出されるように罠の張られた暗闇へと飛び込んでいく。
(勝てる——)
そう確信した、次の瞬間だった。
『——うわぁぁっ!?』
スピーカーから響いたのは、敵ではなく味方ユニットの悲鳴だった。
画面上のステータスが一気に赤く点滅する。
追い詰められた焦りからパニックを起こした味方が、トラッパーが仕掛けた罠の位置を正確に把握しきれず、自らそこへ踏み込んでしまったのだ。
混乱した隙を突かれ、敵の怒涛の進軍を防ぎきれずに防衛ラインが崩壊。
画面中央にデカデカと『GAME OVER』の文字が浮かび上がった。
「くっそー……!」
俺はキーボードから手を離し、思わず頭を抱えた。
確かに敵の追い詰め方や罠の張り方には色々な可能性があったし、作戦自体は完璧なはずだった。
だが、戦略を複雑にすればするほど現場への情報共有も複雑になり、俺自身の指令の伝達が全く追いつかなくなっていたのだ。
自分の頭の中で完璧な盤面を描けていても、現場の味方に伝わり切らなければただの自滅を招くだけ。
「……戦略を凝りすぎて、指令が追いつかなかった。味方への位置共有も……甘かった」
悔しそうに吐き捨てる俺に、ヘッドホン越しにゼロの静かな声が届く。
『気づいたか。トラップってのは強力な反面、味方にとっても等しく危険な刃になる。お前が頭の中でいくら最高の絵を描いても、現場の全員と完璧に共有できなきゃ、ただの味方殺しの仕掛けだ』
「……あぁ、痛感したよ。……もう一回だ。次は共有まで計算に入れて組み直す」
俺はすぐに唇を噛み締め、キーボードに指を戻した。
失敗した。めちゃくちゃ悔しい。……だけど、それと同時に胸の奥から湧き上がってくる熱い感覚があった。
(……でも、これ、めちゃくちゃ面白いな)
思考を巡らせ、盤面を組み替え、仲間と連動して敵を追い詰めていく。自分の頭脳ひとつで戦況が目まぐるしく変わる感覚に、俺の口角は自然と上がっていた。
画面越しにそんな俺の表情を見たゼロは、呆れたように、だがどこかゾクッとしたように目を細めた。
(失敗したけど楽しい、か……)
ゼロは手元の端末を操作しながら、心の中で深く独りごちた。
(俺はコイツの脳の可能性が高いことには気づいていた。だが、まさかここまでとはな……。普通、いきなりトラップなんて概念を投げ込まれたら、慣れるまでに最低でも二日はかかる。それをすんなり理解して呑み込み、あまつさえ『楽しい』と思えるだなんてな)
モニターの光を浴びながら、集中力で次のシミュレーションを構築し始めるレイレイの横顔。
ゼロは喉の奥で、小さくククッと笑いを漏らした。
(……俺は、とんでもない化け物を拾っちまったのかもしれないな)
『よし、レイレイ! その意気だ、リトライいってみようか!』
「おう、次こそ完璧にハメてやる!」
画面が再び激しく明転し、俺たちの2回目の挑戦が始まった。




