17 最強のマネージャー
(*+ - +*) < 今年もよろしくお願いします(一日遅れ)
屋上の沈黙は、俺が口を閉じたあと数分続いた。
異世界での十年間。魔王との死闘。そして、グラムのこと。
「......信じられない、なんて言わないわよ。」
ゆっくりと顔を上げた凛の瞳は少し赤くなっていたが、もうそこに迷いはなかった。
凛は震える手でスマホを操作し、あの動画を再生した。そして、確かめるようにこう言った。
「...こんなのを見せられて、『全部ドッキリでした』って言われる方が無理があるもの。.........それにしても、陽斗。あんたは馬鹿ね。」
「...馬鹿?」
「あたりまえじゃないの!こんな動画が拡散されたら、政府とか、変な組織とか...それこそ海外のテロリストとか!狙われるに決まってるじゃない!!警察に追われる身なんかになったら、あんたの望む『平和な生活』が台無しじゃないの!?」
「...それは、たしかに......。でも、出回ってるものはもうどうしようもないじゃねえか。今更動画を消してもらおうにも、手遅れだし...。」
渋谷の事件の動画は、既に何十万ものコンテンツに拡散、編集、増産されている。
これを期にバズりを狙っているインフルエンサーも少なくない。
ニュースで報道されてしまった時点で、もう本当に手遅れだったのだけれど。
「とーにーかーく!!政府の声明とか、余計な物が出る前に対処しないと!」
「まあ、目立たないように生活すればどうにかなるだろ。極力外出を控えればいいし...。」
「...あんた......ほんっっっとうに馬鹿ね。今の社会はそんなんじゃ生きていけない。いずれ住所が特定されて、引っ越しを余儀なくされる。それとも、そんな生活を望むの?」
「いやいや、それは違うけど...逆にどうすりゃいいんだよ。」
凛のあまりの勢いに気圧される。
...異世界でいえば、魔王の軍勢より怖いかもな。
「...はあ。もういい。あんたの身の振り方は私が管理する。」
「......え?」
凛は俺の言葉を無視して、グラムを奪い取る。
「あ、ちょっと...。」
「いい?グラム...だっけ。あんたも、陽斗が暴走しないように支えるのよ。」
(は、はい!!申し訳ございません、凛様!実は私も主様の天然っぷりには手を焼いておりまして...。)
グラムが背筋を伸ばして返答しているのが分かる。おいおい、俺よりも凛の方が怖いのかよ...。
「...決まりね。いい?やることはたくさんあるわ。まずはこの動画。『身内』のツテを使って、最新の映画のプロモーション映像だったってことに塗り替えてあげる。」
「ツテって...凛にそんな知り合いいるのか?」
「これでも放送部の副部長なんだから。...卒業した先輩に映像編集のプロがいるの。......それと、あんたの家にいる...ルナちゃん?も動画に映り込んでたわ。ほら。」
そこには、一件の有名インフルエンサーの投稿があった。
『最近バズってるこの動画、なんかやばい子が写ってるんだけど。』というメッセージとともに、ルナのところに赤枠がつけられた動画があげられている。
「...まじか。」
画面をスクロールすると、幾多のコメントが溢れかえっている。
『事件に関わってる説。』
『ほんとだ!可愛いけど、あの角はなんだろう。』
『真ん中の男の人に気を取られて気づかなかった。』
『近くにいるヤンキーもやばそう笑』
『今回の事件、警察動きそう。』
『それよりもこの少年が気になるわ...。』
「...思ってたより、やばいことになってんだな。」
コメントを読む俺をやれやれという目で見ると、凛はこう言った。
「...自覚してくれて何より。で、このままだとやばいから...ルナちゃんは私が『原宿系コスプレイヤーの留学生』として育てる。わかった?」
「『原宿系コスプレイヤーの留学生』って...めちゃくちゃだな。」
「いまの状況でそんなこと言ってる場合!?隠し通せないなら、『偽物の有名人』として紛れ込ませればいい。あんたも責任もって手伝いなさい。」
戦力としては圧倒的に規格外な俺だが、今回ばかりは完敗だ。
凛は日本の現代社会を生き抜くための戦術を熟知している...あと圧力も怖いけど。
一気に情報が増えて混乱している俺を見て、ふと、凛が頬を緩める。
「...おかえり、陽斗。......十年も頑張ったんだね...。」
凛が抱きついてくる。
ずっと取れなかった心のわだかまりが、溶けていく。重かった体が、多少は軽くなった気がした。
どこか着地しきれなかった浮き足が、しっかりと地面に着くのを感じる。
「......ただいま、凛。...助かるよ。」
俺が言葉を返すと、凛が慌てて俺から離れる。
「...ふん、感謝しなさい!......放課後、『勇者チーム』で作戦会議よ。...ルナちゃんにも会わせなさい。あと、黒崎くんも。」
顔を赤くしながらそう言うと、屋上の扉の奥に消える。
――バタン!
こうして、俺、黒崎、ルナには最強のマネージャーがついた。
「なんか、上手くいく気がしてきた。」
「安心するには早い!」という幻聴の凛の声を聞きながら、屋上の風に背中を押され、歩き出す。
俺達はまだ知らなかった。
ビル街の一角。その屋上に、渋谷の動画を何度もスロー再生し、ただ一点を見つめるその『瞳』に。
「......見つけたわ、私の『心臓』を奪い、偽りの平和に浸る泥棒猫さん。」
スマホの画面に映る陽斗の姿を、爪の長い指が愛おしそうに撫でる。
それは、リリスすら恐れる『代償』のはじまりだった――。
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次回、『勇者チーム』の作戦会議!どたばたな日常になりそう...?
(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝の予定です。




