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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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黒き刃の嵐 ②

「な、なんなの……?」


 グラトニーであるラァ・ネイドンからしても異常な光景を目にした。

 変なアタッシュケースから地球人が飛び出してきた。自分に爆弾をぶつけていた奴だ。だがあまりにもありえない登場の仕方に怒りよりも困惑のほうが勝る。


「た、隊長……!」

「モモちゃん。一人でよく耐えたよ。まさにヒーローだね」


 そう言いながらモモカの脇腹にウカリウム治療薬をぶっかける。すると出血が止まり、抉ら立ち血肉も蘇っていく。

 ウカミタマでなければ即死の怪我、そしてウカミタマだからこそ治療薬一つで簡単に治せる。


「ありがとうございます! 隊長がいなければ……」

「いや、本当に頑張ったよ。後は遅れてきたヒーローに任せときなって」


 治療を終えて、アスカはただ一人ラァ・ネイドンと対峙する。

 その目には嬉々としてアニメを語っていた時の和気あいあいとした雰囲気はもうない。アスカの瞳にはただ目標を狩る冷徹な戦士の眼をしていた。

 その瞳を見たとき、ラァ・ネイドンは底知れぬ何かを感じ取る。


(小指が震えている……震えが止まらない?)


 地球人相手にわずかながら心が震えていた。

 それは高揚ではない。

 己の命を奪いとってくるかもしれない、死へいざなってくる恐怖である。

 今まで苛め抜いてきた弱者相手に震えているのだ。それは生物の強者としての感が訴えかけている。先ほどまで残虐に暴れていたメスガキのような態度を抑えて、冷静な心をもってアスカを睨んでいた。


「何か月ぶりかな、スターヴハンガと対峙するのは」

『アスカ、聞こえるな』

「あーうん。バッチリ」


 指揮官のカズキが通信をつなげてくる。


『他の隊員は?』

「ここは任せてください、って言われたから僕一人で来たよ。大丈夫、そこら辺のグラトニーなら問題ないよ。倒し切れたらすぐにこちらに合流する」

『そうか……後で通信を送っておく。今は目の前の敵に集中するべきだろう』

「下がっておいて、そして他のグラトニーがこっちに来ないようにできるだけ数を減らしておいて。他の隊員にそう言っておいてね」


 他の仲間にもこの場から退避、そしてラァ・ネイドンとの戦闘に邪魔が入らないように他のグラトニーを討伐するように指示を出す。


「モモちゃんもすぐに逃げるんだよ。ここから先は死戦の場になるからね」

「待ってください! 私も戦います! ラァ・ネイドンは凶悪な敵ですよ!」

「いやー、でも」


 ここから逃げるように指示を出したが、モモカはそれを拒否。

 アスカは頭を掻きながら困ったような顔を浮かべて、どうにかして退避させようと思っていると、


「先ほどまでは怒りに心を飲まれていました! ですが、今は大丈夫です! 隊長の足を引っ張ったりはしません! あなたより弱い自分が言うのも生意気かもしれませんが、隊長一人で戦わせたくないんです!」

「…………」


 そう言われて思わず黙ってしまう。

 モモカは仲間を奪った仇を相手に心を怒りにかき乱されている、とアスカは思っていた。

 だが今は違う。

 アスカを心配して助けたいと思っている。

 それは友と、仲間と共に戦いたい義心だ。

 それがわかったアスカはモモカの申し出に折れたかのように大きく息を吐いて、


「困った、悪い癖だ。つい一人で戦おうとしちゃう。仲間がいるのに」

「隊長!」

「僕のサポートできるよね?」

「――当然です!」


 一緒に戦うことを受け入れた。モモカもやる気に満ちた返事。

 冷静な心を持っているモモカならアスカから見ても安心して背中を任せられる。熱き正義の心と冷徹な戦士の心、この二つを併せ持っている今のモモカならスターヴハンガ相手でも戦えることができる。


「で、いつ攻めてくるの? ラァ、ネイドンだったっけ。僕たちの話が終わるまで待ってくれるなんて律儀だねえ」


 話し合いを終えたアスカがこちらを睨みつけているラァ・ネイドンにそう問いただした。

 あの残虐なグラトニーならいつでも攻めてくると思っていたが、意外と冷静にこちらの話を聞いていた。

 するとラァ・ネイドンはイラつきながらも、


「ふん、本当は虐めてあげたいよ。だけど、キミ相手にはそれが難しそうだし。隙も見当たらないしさ」


 ラァ・ネイドンはアスカの強さを見抜いていた。

 だからむやみに攻めるような真似はしなかった。言葉こそ見下しているようで、内心では警戒心をむき出しにしている。

 地球人のことは信じない、だが自分の感覚は信じられる。

 指は震えたということは自分の本能が危ないと告げている。それを信じて、アスカを警戒しているのだ。


「なるほど、やっぱりスターヴハンガは厄介だね。あれだけ舐めプするのに、自分の身が危ないと思ったら、その戦い方をすぐ捨てれる。本当に厄介だ」

「隊長、私が前にでましょうか?」

「うんや、スターヴハンガ相手には豪快に行かなくちゃ」


 そう言うと、アスカは仲間に見せる穏やかな顔を捨てた。

 どこまでも冷たい歴戦の隊長としての表情を見せ、ラァ・ネイドンを自身のターゲットとして狙いを定める。

 相手がスターヴハンガだろうが関係ない。

 敵であるなら確実に討伐する。

 それが地球奪還軍の隊長としての務めだ。


「宣戦布告だ! 弾切れなんて気にしてはいられないね!」

「――⁉」


 武器を構えるアスカの手には、大型の両手銃がいつの間にかあった。

 高出力のビームライトマシンガン。アサルトライフルよりも高い威力のビーム弾を連射可能、その分反動も高いが、アスカはその反動を楽々と耐えられる。

 それを初っ端から全弾射撃。

 連射式のビーム弾とは思えないほど弾が大きく、それらがラァ・ネイドンに向かって飛んでいく。


「ああ、もう! なんでこんな奴に出会うの! 運がないなあ! ボクはザコ相手に一方的にボコボコにしたいのにさあ!」

「いけないなあ、弱いものいじめは!」


 襲ってくるビーム弾の雨にラァ・ネイドンは横に走って避けていく。

 あんなもの、体の体質を変えても耐え切れない。


「『荒れ狂う螺旋風』! 死んじゃえ!」


 避けながら風の螺旋槍を飛ばしていく。さらにそこから風の刃がいたるところに飛んでいった。とにかくアスカの攻撃を止めようとしての風の刃乱れ打ち。


「隊長! こちらに!」

「うん!」


 手を差し出したモモカの手をアスカは握り、モモカは目を翡翠に光らせる。そして自身が定めた場所まで無敵移動。当然、手を握っているアスカにも無敵になって高速移動した。

 これによって風の刃を無傷で切り抜ける。


「ちっ! あの女! 仲間と一緒に!」


 モモカの『友往邁進』は味方に触れていれば、その味方と一緒に無敵になって指定されば場所に移動することができる。

 このキセキの進化は無敵になって攻撃を仕掛けることではない。

 助けるべき味方を確実に助けることができること、共に戦う味方に絶対なる守りを与えることができる。

 これこそがこのキセキの真価であり、モモカが望んだ力。

 ゆえに『勇往邁進』ではなく、『友往邁進』なのだ。


「まだまだいくよ!」


 無敵の移動を終えたアスカは次にショットガンに持ち替えていた。敵との距離は近い、近づいて面の攻撃で制圧していこうとする。


「コイツ、いつの間に武器を!」

「手品師さ、僕は!」


 アスカのビームショットガンの銃口から拡散されたビーム弾が飛び放たれる。当たるまで何度も何度も連射だ。

 それをラァ・ネイドンは風のシャッターで防ぎにかかる。


(この女も『キセキ』ってやつを持っているの?)


 グラトニーもキセキの存在自体は知っている。

 武器が変わるのがアスカの能力なのか。

 だとしたら、かなり厄介だ。

 武器が自由に変えられるのなら射程もそれに合わせた武器を装備すればいい。

 アスカに苦手の距離はない。


「隊長ばかり見ていいのか?」


 突然、背後から殺気を感じた。

 モモカがビームスピアの斬撃波を出しながら急接近してくる。挟み撃ちの構えだ。

 確実にラァ・ネイドンを潰しにかかってきている。


「――あぶな⁉」


 それを紙一重でかわし続ける。だがそれはモモカも予想済み。ハイスピードに近づき、その勢いを利用した槍の一振りがラァ・ネイドンの横腹に迫る。


「邪魔よ、ザコ!」


 挟まれたのなら自分そのものが嵐になればいい。

 体内にためた風のエネルギーを一気に放出。全方位に風の刃が飛んでいく。


「わっ⁉」

「ぐっ⁉」


 アスカはアタッシュケースを盾にして自分の身を最小限守り、モモカは振っていた槍を無理矢理手元に戻して、そこから回転させて盾を作り出して身を守る。

 そこからラァ・ネイドンの反撃が始まる。


「痛みよがれ! 『虚ロナ風穴』!」


 ラァ・ネイドンの十本の指に風が回る。そしてその指を目標目掛けて定めて回る風を発射。その回転、飛ぶ速度、まさしく風のライフル弾。しかもラァ・ネイドンの意思によって大きく曲がりながらアスカたちの体を抉りに行く。


「モモカ! 速く逃げろ!」

「は、はい!」


 アスカの指示にモモカはすぐに従う。

 一瞬、隊長のアスカと共に『友往邁進』で逃げようと考えたが、隊長の指示は従うべきだ。真頼を捨ててこの場から離れる。

 そして残った風のライフル弾がアスカの体に風穴を開けようと飛んでいく。



「『摩訶不思議なポケット(バックパック)』」



 アスカはアタッシュケースを開いて盾のように前に置いた。そして風の弾丸はアタッシュケースに当たって――音も立てることなく消えていく。


「え――」


 ラァ・ネイドンはその光景を見て驚きの声を上げる。

 見た。

 風の弾丸は消えたのではない。

 ――アタッシュケースに吸い込まれていった。


「御覧の通りさ。僕の『摩訶不思議なポケット(バックパック)』は四次元空間へのゲート。どんなものでもしまえるし、どんなものでも取り出せるんだ。種明かしだね」


 これがアスカの装備が軽装な理由であり、戦っている最中に武器が変わる理由。

 彼女の『摩訶不思議なポケット(バックパック)』はいわばどこでも物をしまえて、物を取り出せる巨大な倉庫そのもの。あのアタッシュケースはその倉庫の入り口にすぎない。

 そして『摩訶不思議なポケット(バックパック)』の中には無数の武装が入っている。彼女は敵と場の状況によって武装を変えて対処しているのだ。


「お駄賃だ、受け取りなよ!」


摩訶不思議なポケット(バックパック)』からビーム弾が風と共に飛んでいく。ラァ・ネイドンが放った風のライフル弾だ。二つの弾丸がラァ・ネイドンに襲い掛かっていく。


「ちっ!」

 

 ――ガッ‼


「ウゲッ⁉」


 至近距離の攻撃だ、避けようと大きく飛びあがると、右側の首に激痛が。

 アスカの鋭い蹴りが炸裂。ブーツの先端がラァ・ネイドンの首に突き刺さり、そのまま力任せに蹴り飛ばしながら、真上にあるアタッシュケースである『摩訶不思議なポケット(バックパック)』から武器が零れてくる。


「おまけにこれも!」


 広範囲を焼けつくす大砲、『ビームキャノン』だ。

 それを片手で持ち、そのまま狙いをラァ・ネイドンに定めて引き金を引く。

 ビーム弾がぶれることなく飛んでいき、


「ガッ⁉」


 吹き飛ばされているラァ・ネイドンの背中にビーム弾が襲う。

 背中が焼ける。

 ここまで感じたことなかった痛みに悶える。


「カズ君、もう一発!」

『ああ、チャンスは逃さない!』


 さらにアスカの合図と共にカズキのチャージライフルから光が放たれる。

 アスカたちが戦っている時、カズキは他の隊員たちに指示を出しつつラァ・ネイドンをいつでも撃ち抜けるようにチャージライフルの引き金に指をかけていた。

 そしてアスカたちが作ってくれたラァ・ネイドンの隙を狙うように狙撃を行う。


『モモカ! その射撃に合わせろ!』

「わかりました!」


 カズキの指示を聞いたモモカはビームスピアの出力を最大まで引き上げる。そして飛んでくるチャージライフルの巨大ビームを確認しながら、ラァ・ネイドンに向けて、


「ぶった斬れろお!」


 全力で腕を振り上げて巨大なビームの斬撃波を発射した。

 その斬撃波はチャージライフルのビーム弾と合わさって、より巨大なビームの砲弾となり、ラァ・ネイドンの体にぶつかる。


「うぎゃ――⁉」


 巨大な翡翠の光に飲み込まれるラァ・ネイドン。悲鳴を上げる前に、全身にウカリウムのビーム弾の熱が襲い掛かっていく。


「当たった!」

『やったか⁉』


 攻撃を当てることができた。しかもチャージライフルとビームスピアの最大出力の一撃を。あれを喰らえば大抵のグラトニーは一瞬で命を失う。灰になるどころか存在そのものが抹消する。

 アスカは警戒しながら様子を確認する。


「――痛いなあ」

 

 ――ラァ・ネイドンは立っていた。


「なっ⁉」

『……化け物め』


 死んでいないラァ・ネイドンを見て、モモカは驚きカズキは悪態をつく。それと同時に二人はラァ・ネイドンの生命力に驚愕する。

 一方、ラァ・ネイドンも無事ではない。

 体の一部がウカリウムの光によって溶けている。

 グラトニー特有の超回復も発揮していないため、肉体にダメージは通っている。

 だが、あれほどの高出力のビームを喰らってもその程度のダメージですんでいるのだ。


「痛いよ……今のは痛かったよ!」


 怒りに満ちた叫び声。

 ラァ・ネイドンにとって初めての痛みであった。

 あれだけやって、痛い程度で済むのか。巨大なビームに飲み込まれたのだ、それは圧縮された炎をその身に浴びたようなもの。

 だというのに体の一部はちょっと溶けているだけ。


(ほんと、スターヴハンガは規格外だねえ)


 何度も戦ったことあるアスカも思わずため息をこぼした。


『摩訶不思議なポケット』にはいろいろな物資がたくさん入っているぞ!

 食料に治療薬、ゲームにラジカセ、アスカの大好きなアニメのグッズ!

 この空間にしまえないものは存在しないのだ!

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